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【ライターコラムfrom清水】味方をも驚嘆させる“異能のストライカー”チアゴ・アウベス

6/2(金) 20:35配信

SOCCER KING

「チアゴ、やっべーな! ハンパないよ」

 記者席に座る筆者の後ろで観戦していた清水の選手たちから思わず感嘆の声が上がった。5月31日のルヴァンカップ、清水エスパルスvsFC東京の90分、後半29分から交代出場したチアゴ・アウベスがペナルティエリア手前から左足でシュートを放った場面だ。

 DFに寄せられて時間もスペースもなく、ノーステップで蹴るしかなかったが、にも関わらず信じられないほど強烈なシュートがゴール右を襲い、日本代表GK林彰洋のファインセーブに阻まれたが、あとボール2、3個分コースが右なら決まっていたことだろう。その場で立ったまま左足を振るしかない体勢から、あの強さとあのコントロール……選手だからこそわかるチアゴのすごさが、チームメイトたちにも衝撃を与えた。

 3月末に清水に加わったばかりのブラジル人FWチアゴ・アウベス。彼の利き足である左足が周囲に驚きを与えたのは、このシーンだけではない。J1リーグ第11節のサガン鳥栖戦では驚異的なスピードのミドルシュートをニアサイドに決め、次の浦和レッズ戦では同じような位置から絶妙なコントロールとカーブでファーサイドにミドルシュートを決めた。GK西川周作としては、当然鳥栖戦のスーパーゴールのイメージがあったはずだが、その裏をかくようなタイミングを外した技ありシュート。パワーだけに頼らないシュート技術の高さや、引き出しを多さを披露した。

 その他のゴールもポストぎりぎりに決めたものが多く、精度の高さもワールドクラス。これまでリーグ戦7試合に出場し、404分間で4ゴールを決めている。チアゴ本人は、自らのキックについて次のように語る。

「若い頃に履いていたスパイクはすごく重くて、それでずっと練習していたので強くは蹴れなかったけど、最近の軽いスパイクに変えたら強いボールが蹴れるようになりました。(精度については)小さい頃からずっとキックやシュートの練習してきてますし、今でも時間があったら1人で練習しています。毎日シュートを練習して、もっと磨きをかけていきたいです」

 通常は、スパイクが軽くなったからといって急にキックが強くなることは少ないが、重いスパイクでずっとキック練習を続けてきた中で、自然に必要な筋力がついてきたということは考えられる。肉体的にはどちらかというと細身で、それほどパワーがあるように見えないが、脚には引き締まった筋肉をしっかりとまとっている。相棒の鄭大世は「外国人特有の内転筋(太もも内側の筋肉)の強さじゃないですか」と言うが、いずれにしても左足のパンチ力が桁外れなのは間違いない。

 セットプレーのキッカーとしても、彼の左足は大きな可能性を秘めている。非常にスピードがありながら、しっかりとカーブがかかって精度も抜群。今のところ得点につながったのは、ルヴァンカップのFC東京戦での村松大輔が決めた1点だけだが、惜しい場面は試合ごとに増えている。なかなか決まらないのは、味方がまだチアゴのキックに慣れず、合わせきれていないという理由のほうが大きい。

 だが、「みんな少しずつ僕のキックに慣れてきていると思います」とチアゴも手応えを口にする。セットプレーからの得点の少なさは、これまで清水の課題となっていたが、その理由のひとつがキックの質だった。今後はそれも解消される可能性が高くなっている。

 もちろん、チアゴの武器は左足のキックだけではない。スピードとドリブルも大きなストロングポイントで、コンディションが上がってきた今は、ドリブルでするりと抜いたり、ボールを受けながら相手と入れ替わったりする場面も増えてきた。裏に抜け出すプレーも得意で、今のところGKと1対1になった場面はなかなか決めきれていないが、そのパターンからのゴールも今後増えてくるはずだ。

「家族(既婚で1歳半の息子がいる)が日本に来てくれて、すごく調子が上がりました。コンディションは100%と言いたいところですが、100%と言ったら満足してしまうので、100%に近いという感じですね(笑)。これからもっともっと成長したいと思っています」(チアゴ)

 今年で24歳になった彼の今後が楽しみなもうひとつの理由は、日本でさらに成長したいという意欲が強いことだ。「人の話をよく聞いて、それを素直にやろうとするし、学ぼうとする姿勢がすごくあるなと感じます。筋トレなんかも自主的によくやっていますよ」と久保山由清コーチは証言する。得意とは言えない守備に関しても、けっしておろそかにはしていない。

「正直、今までこんなに守備をしたことはないし、守備はいちばん苦労しているところです。でも、日々の練習でもっとうまく守備ができるように頑張っています」と本人も言うように、“点さえ取っていれば守備をしなくても文句ないでしょ”という点取り屋にありがちな感覚はない。その意味でも、日本のサッカーにフィットしやすいと言えそうだ。

 日本育ちの鄭大世を除けば、清水にとっては本当に久しぶりにスケールの大きな外国籍助っ人が来たという印象。毎試合「今日は何を見せてくれるんだろう」とワクワクさせてくれることが、筆者にとっても非常に喜ばしいところだ。

文=前島芳雄

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最終更新:6/2(金) 20:35
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