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ECBが緩和出口探る中、構造調整迫られる銀行

6/3(土) 14:01配信

ニュースソクラ

資本増強や統合、合理化が急務

 欧州の景気がようやく底堅くなってきており、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和からの出口も視界に入ってきた。この機会を捉えて欧州の銀行は遅れている構造調整に挑戦していかねばならない。

 今年は、リーマンショック、欧州金融危機の端緒となるサブプライム危機が欧州で始まってから、ちょうど10年になる。しかし、JPモルガンやウェルスファーゴなど米国の銀行が逸早く立ち直ったのに比べて独仏伊など欧州の銀行の立ち直りは遅々としている。ドイツ銀行やイタリアの大手銀モンテデパスキなどの経営危機問題が取りざたされたのも記憶に新しい。

 株価の割安、割高を示す指標をみてみよう。IMFによると、2016年の欧州勢の株価純資産倍率(PBR、株価÷1株あたり株主資本)は邦銀並みの0.8倍に過ぎない。株価収益率(PER、株価÷1株あたりの利益)をみると、8%以下が53%を占めるに至っており、株価は割安になっている。収益力を示す指標はどうか。平均自己資本に対する当期純利益の割合(ROE)も5.8%に過ぎない。経営の脆弱な銀行は総資産全体の1/3、健全行の基準である10%を超える銀行は全体の15%足らずである。

 一つの理由は、米銀に比べて金融危機後の資本強化が足りなかったためである。米国オバマ政権が国民の反銀行ムードが高まる中でも「金融システムを瓦解させてはいけない」と7,000億ドルに及ぶTARP勘定(公的資金のファンド)を設けて米銀に果敢に公的資金を注入していった。これが2009年以降の米銀の急速な業績回復を支えた。欧州諸国は国民の反発を恐れて規模においても迅速性においても公的資本増強に対する思い切りが足りなかった。

 さらに米国が2009年以降の実質成長率が年率2.1%とそこそこの水準に復活したのに対して、欧州ではポルトガル、スペイン、ギリシャなどの財政危機、金融危機から低成長が続いた。低成長が企業業績を悪化させて不良資産の増大につながるという悪循環に陥った。 

 欧州で広く観察されるオーバーバンク(銀行数の多さ)の是正も進まなかったことも収益性低下につながった。多くの銀行が少ない収益機会である健全な貸出先に競って貸し込むために利鞘が縮小を続けてきた。オーバーバンクを是正するには合併・統合が必要であるが、監督当局が一元化されていなかったため、国境を越えた銀行の合併が難しかった。

支店のリストラや人員削減も地元の存続要望や解雇が困難という硬直的な労働法制に阻まれてきた。ただスペイン、オランダ、デンマークの三か国では例外的に税引き利益の1/4に相当するコスト削減を達成しており、仏独伊などは見倣うべきである。

 さらにECBのマイナス金利・量的緩和もイールドカーブのフラット化(長短金利差の縮小)につながり収益力を一段と悪化させてきた。銀行の場合、短期の預金、市場性資金で調達して長期の貸出、証券投資に運用するので長短金利差が大きいほど収益を生むという構造にある。

 米銀の株価が上昇してきたのはトランプ大統領による金融規制緩和の動きもあるが、根本的にはFRB(米連邦準備理事会)の利上げにより長期金利も上昇して米銀の収益が改善するとの見通しに依拠するものであった。ただ同じマイナス金利でも欧州の銀行の場合には邦銀ほどのマイナスの影響はない。

これは、オーバーバンクで利鞘が縮小したといっても邦銀に比べれば貸出スプレッドが圧倒的に大きい(中小企業では2~3%の金利上乗せが普通)ということ、また日銀によるイールドカーブコントロールの下、10年物で0%という日本の国債金利と比べて欧州の長期金利水準が独0.4%、仏0.8%、伊2.2%台となお高いこと、の二点にある。

 欧州の銀行が米銀に収益性で劣後してきたのが投資銀行業務である。ドイツ銀行の経営危機は、米国司法省による巨額の罰金賦課の影響よりも、最後までデリバティブ取引や債券ディーリング等の分野で米国の投資銀行と競ってきて一敗地にまみれたためである。

クレディスイスも同様である。欧州の銀行には商業銀行業務を重視するビジネスモデルへの回帰が必要である。

 欧州の今年の経済成長率は1.7~1.8%と潜在成長率を上回るとみられるうえ、ECBもマイナス金利、量的緩和の出口が近づいているように思われる。成長力強化による融資の伸長や不良資産の増加に歯止めがかかることが期待できる。

あとはこの機会に資本の増強や不良資産の引当・償却の積み上げ、さらにはコスト削減を狙う統合や合理化に真剣に取り組む必要がある。

俵 一郎(国際金融専門家)

最終更新:6/3(土) 14:01
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