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<老いと向き合う3>歯車どこで狂った 路上生活、会えない母思う

6/3(土) 7:02配信

埼玉新聞

 今でも時折、母親の夢を見る。「自分は三つぐらいで、おふくろがいなくて探し歩いているけど見つからなくて。そんな夢だね。優しいお母さんだった」

 城田丈太郎さん(66)は1950年に北海道北見市で生まれた。3歳のころに両親が離婚。母は城田さんを連れて農業を営む男性と再婚した。城田さんは小学校から農家を手伝い、中学校に上がると土木系のアルバイトで家計を支えた。「学校にはほとんど行っていない」。高校には進学せず土木、建築、とび職などの職を転々とした。

 19歳のころ、冬の出稼ぎで静岡県内のミカン農家で働いた。出稼ぎ期間が終わっても北海道には戻らず、埼玉県内で重機の免許を取得して土木会社で働いた。だが、上司とけんかして辞めた。

 その後も日雇いなどで働いたが、40歳を過ぎてから仕事が激減した。体調を崩したことも影響し、43歳のころから川口市内で路上生活を送るようになった。

 夜の公園で裸になり、公共の水飲み場で体に石けんを付けて洗った。寒くて、たまらなかった。段ボールと布団を拾ってきて寝た。「毎日ずっと寝ていた」。道行くサラリーマンから好奇な目で見られた。スーパーやコンビニのゴミ箱をあさって食べ残しを探した。

 夜、寝ている間に枕元に置いていたバッグを盗まれた。中には重機の免許や身分証明書など「自分の全て」が入っていた。重機の免許を再発行するための身分証明書も金もなかった。

 2年前に県内のNPO法人が提供するさいたま市内のアパートに引っ越し、生活保護を受けながら生活することができるようになった。

 結婚はしなかった。異父兄の弟がいるが、連絡先は知らない。いつも思うのは母のこと。その母とも、もう30年ぐらい連絡を取っていない。80歳を超える母が健在かどうかも分からない。

 「きっと元気だと思う。元気でいてくれていると願っている。母の元に帰りたいけど、帰れない。生活保護を受けている自分を見たらどう思うのか…。心配は掛けられないし。それに北海道に帰るための金もない。もし会うことができたら、きっと泣くだろうね」

 全国のホームレスの平均年齢は還暦を超えている。60代が46%、70歳以上は19・7%を占める。

 今でもホームレスを見ると人ごとに思えない。なけなしの金でジュースやたばこを買って何も言わずに渡すこともある。「見て見ぬふりはできない。少しでも助けたいという気持ち」。

 ただ、自らの人生を振り返るとため息が出る。

 「不満だらけ。後悔し切れないくらいの不満だよ。どこで歯車が狂ってしまったのか…。気付いたら、こんなふうになっていた。これから、いいことはあるのかな」。ぶっきらぼうに言って、力なく笑った。(文中仮名)

 (この連載へのご意見やご感想を〒331―8686 さいたま市北区吉野町2の282の3 埼玉新聞社「老いと向き合う」取材班までお寄せください。ファクスは048・653・9040。電子メールはdokusya@saitama-np.co.jpです)

最終更新:6/3(土) 7:02
埼玉新聞