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AIが打音を聞き分け、人の感覚に頼らずインフラ点検

6/5(月) 6:10配信

スマートジャパン

 産業技術総合研究所(産総研)は、首都高技術、東日本高速道路、テクニーと共同で、インフラ構造物の打音検査を人工知能(AI)でアシストし、異常度マップを自動生成する「AI打検システム」を開発した。従来の打音検査の手順を変えずに図面化を含めた検査作業の工数を削減できる他、非熟練者でも見落としなく点検作業が行えるという。

【AI打検システムのイメージ】

 産総研では、点検員の感覚に頼らずに打音の異常度を定量化し、精度のばらつきやミスを防止する技術の研究開発に取り組んできた。そのコア技術の1つであり、今回開発したAI打検システムに利用したのが、人工知能技術の一手法である機械学習を用いた異音解析技術だ。これは活用異常な音を人間が定義するのではなく、収集した打音データの統計的な性質から機械が判定基準を学習する。そのため人間による定義のミスや、想定外の異常の見落としを減らすことができるという。

 AI打検システムは、計測ユニット、AIを搭載する制御・記録・解析用のタブレット端末、異常を通知する携帯デバイスの3つで構成する。計測ユニットを構造物の壁面など平らな面(平面構造)に立てかけるようにして使用する。一般的な点検ハンマーを用いた打音検査に対して、主に2つの機能を提供することができる。1つは、ハンマーでたたいた箇所の異常の有無を異音解析技術により自動的に判定し、異常を検出した場所を点検者にリアルタイムに提示する機能だ。

 計測ユニットに搭載された接触式の音響センサーと、打撃位置取得のための測域センサーで、点検ハマーの打音の波形と、打撃した平面上の位置情報を合わせて取得する。センサーの測定範囲は、構造物の状況にも依存するが、計測ユニット設置位置から半径4m程度以内の打撃を検知できるという。点検ハンマーが打撃した箇所(打撃点列)は、無線で接続しているタブレット端末に随時表示される。タブレットは機械学習によりセンサーデータを解析し、異音が検知されると、即時に点検者が持つ携帯デバイスに通信し、LEDの点灯と、ブザー音によって通知する。これにより、異常が疑われる箇所の周囲を密な間隔で打撃するなど、異常を見落とすことなく検査ができる仕組みだ。

 機械学習による異音解析技術を適用する際には、学習のためのデータが十分に集まっているかが課題となる。特にインフラ構造物を対象とする場合、構造物の材質や形状、点検ハンマーの種類などのバリエーションが大きいため、それらを網羅できるデータをすぐには集められない場合が多い。この課題を解決するために、産総研は装置を使いながら機械がその場で学習する手法を導入した。点検作業前に、明らかに正常と思われる箇所を10秒程度打撃し、その打音を利用して正常モデルを構成。その後検査モードを開始し、正常な打音モデルから逸脱した打音を異常として検出する。正常モデルから逸脱しなかった打音は正常であると仮定して、正常モデルを逐次更新していく。こうした仕組みとすることで、十分なデータが集まっていない状態でも検査が行える。

■異常箇所のマップを自動生成

 2つ目の提供機能は、異常箇所マップの自動生成である。打音検査を終えて検査モードを終了すると、これまで取得した打音位置とそれら打音の異常度を統合した異常度マップが自動生成される。異常度マップの自動生成には、異常度判定に用いた打音と、その打撃位置を正確に対応づける必要がある。音響センサー情報だけを用いた異常度判定と、測域センサー情報だけを用いた打点位置の計測を個々に行って対応付けすると、それぞれの手法の誤差がそのまま異常度マップに反映されてしまい、誤差が大きくなるという問題があった。そこで計測ユニット内に両センサーを搭載し、音響センサー情報と測域センサー情報を統合的に解析することでこの問題を解決した。

 トンネルの壁面で取得した異常度マップでは、壁面にあった異常箇所を示すとともに、従来は点検員の感覚に依存していた異常度を、学習した正常な打音からどの程度異なる音かを定量的に解析し、色付けして可視化することができる。検査終了直後にマップ化するため、打撃漏れなどもその場で確認し、追加点検できる。異常箇所の補修・補強設計には、詳細な損傷図を作成する作業工程があったが、その工数を削減できるメリットがある。

 なお、AI打検システムを移動させ検査を続行する場合は、再設置作業が必要になるが、簡単に測域センサーの位置合わせができる機構を導入することで、設置時間は1分程度になるとしている。

 システムの開発は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議(SIP)の「SIPインフラ維持管理・更新・マネジメント技術」の一環として実施した。今後は実構造物での実証試験を重ね、システムの完成度を高めていく。また2018年度以降の実用化を目指し、SIP地域実装支援チームと協力しながら、製品開発体制を2017年度中に構築する。

 現在、検査対象は平面構造のみだが、RC床版を桁下から検査できるような冶具を開発し、検査対象の範囲を広げていく計画。さらに、点検データと構造物の3次元設計データや測量データを統合管理できるシステムの開発も検討する方針だ。