ここから本文です

トヨタアライアンスの現在地

6/5(月) 6:50配信

ITmedia ビジネスオンライン

 自動車業界の世界一争いは、ここしばらくトヨタ自動車、フォルクスワーゲン、GMによる年間生産台数1000万台のラインでの三つ巴戦だった。

【衝突実験取材会に現れたスバルの吉永泰之社長】

 ここで言うトヨタの1000万台について説明しておかなくてはならない。従来1000万台と言われてきたのは、米国基準準拠の連結子会社であるトヨタ、ダイハツ、日野に加え、持分法適用の関係会社であるトヨタ系中国法人3社の生産台数を加算した数値である。

 なぜそういうことが起きるのかと言えば、中国では国外企業の会社設立に際し、外資に51%以上の議決権を割り当てられないというルールがある。従って、3つの中国法人は決算基準上は持分法適用会社とされ、生産台数を持分比率に応じた分しか加算していない。

 しかし、中国は世界の4分の1という巨大市場であり、生産規模に対するインパクトが大きい上、技術はすべてトヨタ供与であることから、少なくともメーカーランキングを考える場合、中国での生産台数を加算して考えるのが普通になっている。だからトヨタの生産台数を調べると、中国を加算したものと非加算の2種類の結果が出てくるのだ。

 今年2月には、ルノー・日産アライアンスが三菱自動車を傘下に加えたことで、新たな1000万台プレイヤーが生まれた。すわ四つ巴とならないのは、トヨタは新たなアライアンス構築によって、この1000万台クラブを抜け出し、唯一1600万台という巨大アライアンスへと踏み出したからだ。

 ただし、この1600万台も増加分は連結どころか資本関係もない提携グループ内での話だ。中国法人の場合、実質的には子会社的であったが、これらはそれとも別に考えなくてはならない。こういう複雑な提携によって世界トップが争われるということが、2020年代に向けた自動車業界の新しい流れだと言えるだろう。

 そこで、この提携の内容をおさらいする必要がある。レクサスは現在カンパニー制を採るトヨタの一部門で、独立会社ではない。そのほかは以下のようになる。

子会社

ダイハツ トヨタ持ち株100%

日野 トヨタ持ち株50.3%

資本提携会社

スバル トヨタ持ち株16.77%(筆頭株主)

提携内容調整中

マツダ

スズキ

 以上を見渡すと、スバルはまさに今後次第で連結に加えられる可能性がある。議決権が15%を超えており、2位以下の株主が6%程度とトヨタ資本が抜きん出ていること、また今後トヨタアライアンスによって提供される電気自動車(EV)のコンポーネントなどによって、トヨタの実質的支配が強まる可能性があるからだ。

 以下に、現在のトヨタアライアンスにおける各社の狙いと役割を見ていきたい。

●ダイハツの役割

 ダイハツは昨年8月にトヨタの完全子会社になった。株式会社であるトヨタが、株式会社であるダイハツの株を100%所有するということである。

 ダイハツはトヨタの一部になったのかと言えば、そうではない。そんなことをするメリットがトヨタ側にないからだ。例えば、吸収合併してダイハツという会社を解散してしまえば、旧ダイハツの社員はトヨタの社員になる。となれば、給与から福利厚生まですべてトヨタの水準にそろえる必要がある。規模と収益の大きいトヨタはダイハツより給与や福利厚生のレベルが高いはずで、わざわざ高い側に統一して修正しなくてはならない理由はない。

 だからこそトヨタは法人としてダイハツ株を所有しつつ、ダイハツを存続させたのだ。では、トヨタがダイハツを所有する理由は何か。それはリソースの分担である。トヨタは今後リソースの多くを先進国マーケットに集中し、ダイハツは新興国マーケットと国内の軽自動車とコンパクトカーを担う。

 国内コンパクトカーに関しては、トヨタとダイハツが重なる部分はあるだろうが、そこはOEM(相手先ブランドによる生産)をうまく使って、1台の開発リソースでより多くの販売機会を得ることも可能である。実際、5月9日に発売されたダイハツの軽自動車、ミラ イースは、トヨタではピクシス エポック、スバルではプレオプラスとして販売されている。グループ内で同じクラスのクルマを互いに作って市場を食い合うよりずっと合理的である。

●スバルの役割

 スバルは資本提携を受け入れつつ、独自性を維持していきたいと考えている。スバルの最も辛いところは、唯一の手持ちエンジンである水平対向ユニットの将来性だ。燃費と排ガスの両面で見て、長期的には継続が難しい。

 またビジネス的に、大量生産による低価格を売り物にする戦略はない。内部でそういう見方があるからこそ、市場評価が高いスバルにとって特別な愛着があったはずの軽トラック、サンバーを生産中止にしてまで軽自動車マーケットから撤退した(他社供給のOEM販売は継続)。

 2014年にスバルが発表した中期経営ビジョン「際立とう2020」を見ると、内燃機関に関しての施策は「直噴ユニットの拡大」「気筒停止」「リーン燃焼」の3つで、その先は「新世代環境戦略車」と言葉がにごされていた。しかし今年5月の決算発表で、2018年にPHV(プラグインハイブリッド自動車)の導入、2019年に新設計ダウンサイジングターボ、2021年にEVの導入を行うモデル計画が発表され、将来展望が見えつつある。

 このうち2つは、トヨタアライアンスをうまく使って、トヨタ製PHVシステムを導入、さらにトヨタが開発してアライアンス各社が共有すると見られているEVユニットを搭載する可能性もある。内燃機関がどうなっていくのかは、残るダウンサイジングターボがどの程度力の入ったユニットとして仕上がってくるかにかかっている。ただし、戦略を見渡す限り、スバルは生き残りの軸足をEVに置いているように見える。

 スバルが今後何を中心的価値に据えるのかと言えば、「安全」である。アイサイトで「ぶつからないブレーキ」の先頭を切ったスバルは、今後安全と高付加価値をスバルのコアバリューに据えていくことになる。

 高付加価値で安全が売りということになれば、より制御しやすいEVは相性が良い。ただしEVの普及のためにはまだ解決すべきバッテリーのエネルギー密度問題が残っている。トヨタは、北米のZEV(ゼロエミッションビークル)規制への対応のため、EVの開発を急がなくてはならない状況だ。これが十分な性能を持って仕上がるかどうかが1つの分岐点になるだろう。

●マツダの役割

 マツダが狙う提携のメリットは大きく分けて2つある。1つは北米市場に必要なEVのユニットの調達だ。マツダの規模では独自開発しても開発費の回収が難しい。これはスバルも同じだが、EVユニットの供給を受けるということが直接的に製品の金太郎アメ化を意味しない。マツダの内部関係者によれば、まだ調整中であると前置きしつつ、ベースユニットを共用しつつ、マツダはマツダのクルマ作りをする方向になるという。トヨタが作ったクルマにマツダのバッジを付けて売るつもりではなさそうだ。

 もう1つ、先進技術領域の話がある。特に運転支援や車両データ通信などは、インフラと深くかかわる部分が大きい。方式の統一を考えれば、トヨタアライアンスの意味は大きい。小さいメーカーはそうした場面では単独でインフラのイニシアチブは取れないからだ。

 また、トヨタアライアンスの中で、マツダの役割は少し特殊だ。マツダには少ないリソースをうまく使って製品化する技術があり、トヨタはそこに注目している。具体的にエンジンがほしいとか、シャシーがほしいということでない。トヨタは技術で劣っているとは気ほども思っていないので、部品や製品の供与は望んでいない。しかし、マツダのコモンアーキテクチャによる効率的な開発技術には強い興味を持っている様子だ。

●スズキの役割

 ダイハツとスズキは長らく宿命のライバルだった。車名で言えば、ミラとアルトである。トヨタアライアンスの中で少々ややこしいのは、この得意分野が重複する2社が今後どうすみ分けていくかだ。マーケットで言えば、ASEANに強いダイハツと、インドに強いスズキなのだが、それを分けているのは販売力である。製品を一本化したら成り立たないかと言えばそうではない。

 仮にトヨタが今後スズキを子会社化し、ミラかアルトかどちらかに一本化するというようなプランを進めれば大波乱を引き起こすだろう。スズキは今後の提携交渉の中でそういう事態を避けるための万全の注意を払うだろうから、現時点での順当な予想としてはスズキはトヨタの子会社化を避けるだろう。

 これは筆者の見方に過ぎないが、スズキにとってトヨタアライアンス参加の最大のメリットは、カリスマである御年87歳の鈴木修会長の継承問題が大きいのではないかと考えている。2000年に一度社長から身を引き、会長に就任したが、2008年に社長兼会長に返り咲いている。カリスマの後継は非常に難しい。外部から後任を入れたいと考えたとすれば、トヨタは理想的な相手だ。

●トヨタアライアンスの構図

 現時点では、トヨタにとって資本支配関係のあるダイハツとスバル、それがないマツダとスズキの間には事業戦略上の明確な線引きがあって、過渡的な状況にある。

 いずれにしても各社の提携の際に必ず言及された「先端技術と環境技術」というキーワードが、トヨタアライアンスにとって重要なことは間違いない。官民一体で音頭をとるドイツに対して、資本と技術で合従連衡していく日本のやり方のほうが多様性があるのではないかと見ているところだ。

(池田直渡)