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従来SIMから何が変わるのか? 「eSIM」の正体を知る

6/5(月) 16:36配信

ITmedia Mobile

 最近「eSIM」というキーワードを聞く機会が増えてきている。NTTドコモの2017年夏モデル「dtab Compact d-01J」は、同社としては初のeSIM搭載機種ということで話題になった。eSIMとは「Embedded SIM」の略称であり、その最大の特徴はSIMカードを抜き差しすることなしに携帯キャリアの契約情報を書き換えられる点にある。つまり、必要なタイミングだけ契約を行ってデバイスの携帯ネットワークへ接続開始したり、必要に応じてSIMの差し替えなしに別のキャリアに接続先を切り替えたりできる。

【eSIMと従来のSIMの違い】

 こうした仕組みはApple SIM+iPadなどでおなじみだが、d-01Jのケースでは購入時にeSIMが本体に挿入されており、利用開始時に端末側から契約できる仕組みになっている。形状は通常のnanoSIMと同様だが、現時点ではeSIMは対応機種専用のものとなっており、非対応機種に移し替えても利用できない。

 さらに5月31日(台湾時間)、台北市で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2017においてMicrosoftが「Always Connected PC(常時接続PC)」戦略を発表。LTEとeSIMを使ったPCの常時接続環境を推進していくとしており、より広範囲での活用が進みそうだ。

 今回はこのeSIMについて理解を深めつつ、その狙いや将来性についての基礎情報を紹介していきたい。

●eSIMはデータ通信専用、メインターゲットはM2M

 一般のSIMカードでは、あらかじめ契約情報をICチップに書き込んでおき、これを加入者が適切なデバイスに挿入することでネットワーク回線の利用が可能になる。ネットワークの制御そのものは携帯キャリアのセンター側で対応可能だが、SIMカード内の加入者情報そのものは固定化されているため、何らかの変更時や機能のアップデートに際してはSIMの差し替えが必要となる。一方でeSIMは基本的に差し替えを前提とした仕組みではないため、遠隔から加入者情報を書き換えられる。

 また複数の加入者情報、つまり複数キャリアの加入者情報を同時に書き込むことが可能で、必要に応じて切り替えられるようになっている。例えば海外を訪れるユーザーが、OTA(On The Air)方式によって、事前に行き先のSIM情報を書き込んでおいたり、現地到着のタイミングで契約したりするなど、わざわざ携帯キャリアショップへ寄らずとも、ネットワーク環境さえあればすぐに通信できると思うかもしれない。

 こうした、必要なときだけ通信サービスを契約する仕組みのことを、Microsoftは「On The Go」と呼んでいる。だが現在のところ、こうしたスタイルでの利用は必ずしも全ての携帯キャリアやeSIMで有効ではなく、将来的な利便性向上に期待したいといったところだ。

 もう1つ大きな注意点として、現在のeSIMは「データ通信専用」ということを知っておく必要がある。eSIMはもともと組み込み機器、いわゆる「M2M」と呼ばれるIoTソリューション向けに開発が進められていた。例えばネットワーク接続が可能な工事機械などの産業機器を国外に輸出する場合、その国のネットワーク事情に応じて契約プロファイルを切り替える必要がある。

 通常ならSIMカードを差し替えることで対応するのだが、全ての機器に対してそうした作業を行うのは非常に手間だ。そこでリモートから契約情報を書き込んで一括管理できるソリューションとしてeSIMが登場する。今後は、IoTの進展で車や家電といったものが携帯ネットワークを通じてインターネットへと接続されるようになる。さらに小型のセンサーをネットワークとして構成するLPWA(Low Power Wide Area)の用途が広がると、従来のSIMの差し替えによるソリューションでは限界があり、さらにeSIMを必要とする場面は増えてくるだろう。

●M2M、IoT分野での主なユースケース

 一般のコンシューマー向けデバイスとM2MなどのIoTデバイスでは、eSIM契約に対するニーズが真逆となっている。前述のように、一般ユーザーがeSIMを必要とするケースはOn The Goによる逐次契約や海外旅行などエリア移動が発生した場合が中心なのに対し、M2Mでは製品出荷に際しての初期化やデバイスの長期運用の中での契約情報の変更などでeSIMの書き換えが発生する。

 前者は「プル型」、後者は「プッシュ型」と呼ばれ、利用者サイドとセンター側のどちらがトリガーとなるかの違いだ。つまり後者のM2M向けのeSIMでは、多数存在するデバイス群を一括管理するためのソリューションが重要となる。以下にユースケースの一部を紹介する。

 現在のところ、eSIMを主軸としたM2M向けのソリューションとしては自動車業界での採用が多いようだ。筆者が最初に取材した事例はロシアの「ERAGLONASS」というeCallシステムで、例えば自動車が故障や衝突などの事態に遭遇した場合、位置情報を取得してこれを携帯ネットワークを通じて通知するというものだ。eCallそのものは欧州でも2018年までに新規販売の自動車への搭載が義務付けられている標準技術で、ERAGLONASSはロシア版GPSであるGLONASSを利用したeCallというわけだ。

 このほか、T-Mobileの事例では米国とカナダを往復するトラックのテレマティクスやインフォテインメントシステムにeSIMを提供し、ローミングで発生するコストを低減させる仕組みなどがすでに稼働している。

 このようにeSIM市場が急速に立ち上がりつつある印象があるが、理由の1つにGSMAによる標準化が進んだことが挙げられる。eSIMの標準化が進んだことでデバイスでの採用例が増え、今後これを利用したサービスが多数登場することが見込まれるからだ。さらに、通信キャリアやチップベンダー、端末メーカーは、GSMAが発表したeSIMの仕様を採用することを表明しており、今後もこの流れは続くとみられる。

 IoTではセキュリティに対するニーズも高まっており、これを実現するためにeSIMを活用するケースもあるようだ。例えばスマートメーターでのデバイス間での通信にeSIMを採用することで、eSIM内の暗号鍵を使ったエンド・ツー・エンドでの通信の暗号化が保証される。特にソフトウェアアップデートの仕組みを利用して侵入を試みるケースも報告されており、通信の安全性を確保するのはIoTにおいて非常に重要なことと認識されている。

●コンシューマー分野でeSIMはどう活用される?

 一方でM2Mとは異なるシナリオがコンシューマー分野だ。前述のようにeSIMはデータ通信を前提とした仕組みであり、スマートフォンなどでの利用を想定していない。そのため、当面のターゲットはタブレットまたはウェアラブルということになる。

 ただ、タブレットとウェアラブルでは契約手順が異なり、プル型でユーザー自らが契約情報を入手する点は同様だが、ウェアラブル単体では契約が行えないため、一度スマートフォンやタブレットなどの別のデバイスにペアリングさせた後、そこを通じてウェアラブル内のプロファイルの書き換えを行う形となる。SamsungのGear S2はeSIMを内蔵したウェアラブルデバイスで、この仕組みを通じて契約情報書き換えが行われる。

 では、eSIMを使って実際にどのようなサービスが利用できるかといえば、直近での注目はやはり冒頭に挙げたMicrosoftの事例だろう。同社ではまだAlways Connected PCによるサービスの詳細を発表していないが、「既存の契約プランを使ってのPCからデータ通信利用」「On The Goによる必要に応じての適時契約」の2種類をサポートするとしている。特に後者については、Windows Store経由でのデータ通信プラン購入が可能になるなど、海外移動の多い旅行者にとっては大きなメリットとなる可能性が高い。

 一方で前者の「既存の契約プランの流用」については、NTTドコモのeSIMサービスにあるように、セカンドデバイスやファミリープランでのデバイス追加といった用途において、ここにAlways Connected PC対応デバイスを組み込む形態を想定していると考えられる。Always Connected PCがどれだけ便利になるかは、対応デバイスや携帯キャリアの対応にかかっており、今後のサービス拡充に期待したい部分でもある。

 下記は、SIMカード最大手でeSIMソリューションも提供するGemalto(ジェムアルト)の顧客リストだが、左上にMicrosoftの名前がある点に注目したい。そして地図上に見える携帯キャリアの名前の多くは、MicrosoftがCOMPUTEXで紹介したスライドと重複しており、今回のAlways Connected PCの実現にあたってGemaltoのソリューションが使われていることの証左にもなっている。

 GemaltoとMicrosoftのリストともに、日本ではKDDIの名前があることが確認でき、おそらくAlways Connected PCは日本国内ではKDDIのネットワークを利用することになるとみられる。NTTドコモの動向が気になるが、同社が現在提供しているeSIMソリューションはGiesecke & Devrient(G&D)製であり、このあたりの差異がMicrosoftのリストにドコモの名前がなかった理由の1つではないかと推測している。

 コンシューマー分野でeSIMが使いやすいかは、人によって意見が分かれるところかもしれない。「海外に行ったら現地に行ってSIMを購入して差し替えたほうがシンプルで分かりやすい」という人もいれば、「煩わしいのでオンラインで適時契約情報を切り替えるようにしてほしい」とeSIMを肯定する人もいるだろう。いずれにせよ、eSIMを便利と感じられるかは契約作業の簡易さやプランの柔軟性による部分が大きく、実際にサービスイン後にあらためて評価したいところだ。

最終更新:6/5(月) 16:36
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