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仮想通貨 強固なプライバシー保護ゆえに、悪用も可

6/5(月) 12:01配信

ニュースソクラ

【資本主義x民主主義4.0】第一部 WannaCryの教え(5)政府や中央銀行への不信が、仮想通貨の原動力に

 南アフリカに住むMonero(マネロ)コア・チームの1人、リカルド・スパグニはハッカーたちに悪用される仮想通貨(暗号通貨)の利便性について分かりやすく解説してくれた。

 「例えば、日本からロンドンに海外送金しようと思えば、取引のある銀行で身分証明書を提示するなど煩雑な手続きが必要だし、日数がかかる場合もある。ビットコインやマネロのような暗号通貨なら送るだけさ。とてもパワフルなんだ」

 MONERO.HOWというサイトを見ると、マネロの送金が承認されるまでに要する時間は約20分。仮想通貨は政府や中央銀行のコントロールも受けないし、国境もない。だからランサムウェアのようなサイバー犯罪や薬物・銃器取引など犯罪組織の違法取引や資金洗浄(マネーロンダリング)に悪用される恐れがある。

 マネロが注目されたのも昨年8月、盗み出されたウーバーなど大量の個人情報や薬物が取引される世界最大級のオンライン・ダークマーケットAlphaBayの決済通貨にビットコインに次いで採用されたのがきっかけだ。

 「ダークマーケットの決済通貨に指定された時は驚いた。少しナーバスになったよ。通貨に、使う人が善人か悪人かを見分けられないように、暗号通貨を運営するコミュニティーに誰が犯罪者かを見極めるのは難しい。ボクたちにとってはプライバシーを守る暗号通貨を開発するのがハッピーなのさ。犯罪を取り締まるのは政府や警察の仕事だよ」

 「マネロは、まだまだ若いプロジェクトだ。多くの暗号通貨は透明性を保つビットコインのコードを下敷きにしているが、プライバシーを最優先にするマネロは全く新しいコンセプトとコードで書かれている。これからどこに向かうかは、自発的な40~50人のコントリビューター(プログラムを開発する人たち)やメインテナー(維持管理する人たち)、マイナー(端末で複雑な計算をして暗号通貨を採掘する人たち)らで構成されるコミュニティーが決めることなんだよ」

 南アフリカ大学(UNISA)でプログラミングを学んだというスパグニは貿易会社などを起業して成功し、生活に余裕ができてきたので2011年からビットコインのコミュニティーにマイナーとしてかかわりだした。

 マネロにとって、ビットコインの発明者「サトシ・ナカモト」に当たる存在が、13年にニコラス・ファン・セイバーヘーゲンというペンネームで論文「CriptoNote(暗号紙幣)v2.0」を書いた人物だ。

 翌14年4月にオープンソースの暗号通貨プロジェクト、マネロ(国際共通語エスペラント語で「通貨」の意)が誕生すると、「プライバシーを実現する暗号通貨というコンセプトに魅入られた」スパグニは初日から参加した。

 「最初の数週間は順調に行っていたが、『CriptoNote v2.0』の理論をコード化した人物が独裁者のようにすべて自分で決めようとしたため、コア・チームの7人がクーデターを起こした。ボクはそのうちの1人さ。暗号通貨は誰に支配されてもいけない。だから本社もない。ボクたちは単なるマネロの世話係。ただ言えるのは、コミュニティーの大きなゴールはプライバシーだ。暗号通貨はあくまでも通過点で、最終的にはコミュニケーションやショッピング、トレーディングなどのプライバシーサービスを実現したい」

 米国家安全保障局(NSA)や英政府通信本部(GCHQ)の市民監視プログラムを暴露したスノーデン事件をきっかけに、個人のプライバシーはハッカーの侵入だけでなく、国家からも監視されるリスクが白日の下にさらされた。

 「インターネット上で100%のプライバシーを確保するのは高くつく。しかし、プライバシーは富裕層の特権ではなく、参加者全体の基本的人権だ。悪いことをしていないのに監視されることを誰も望んでいない」とスパグニは強調した。

 世界金融危機で金融機関の信用は失墜した。景気浮揚のための量的緩和で通貨の価値を低下させた中央銀行も、社会保障や医療、教育費を削った政府も国民の信頼を失った。国家権力や権威への不信感がビットコインのような暗号通貨を普及させる原動力になっている。

 雨後の筍のように増えた暗号通貨はその数、800超。そしてスノーデン事件の衝撃がプライバシーを守る暗号通貨マネロをも生み落とした。

 暗号通貨が現実通貨に取って代わる日が来るのか尋ねてみた。「ビットコインやマネロなどの暗号通貨が準備通貨になる可能性は明らかにある。一国の政府に支配される通貨を準備通貨にすることは人質に取られているのと同じだ。政府や中央銀行に支配されない暗号通貨は準備通貨により適している」

 スパグニは今、60~70%の時間をマネロ・プロジェクトに費やす。報酬はと言えば、「国際会議で発表するための旅費をコミュニティーから出してもらうことぐらい。オープンソース・コミュニティーとはそういうものさ」と笑った。(つづく)


【用語解説】匿名性暗号通貨Monero(マネロ)

 MONERO.HOWやスパグニの説明によると、透明性を基本とするビットコインのネットワークでは誰が誰に送金したか、今、誰がビットコインをどれぐらい保有しているか誰でも見ることができる。だから、プライバシーは無きに等しい。

 しかし、マネロではランダムに作り出された一時的なアドレス宛に送金が行われるため、誰がいくら保有しているか記録に残らない。取引記録に自分のアドレスが現れることもない。「リング署名」と呼ばれる方法で送金を他の送金とまぜ合わせることで高い匿名性を実現している。

 2022年までに1800万XMR(マネロの単位)の発行を目標にするマネロの時価総額は現在5億1400万ドル。暗号通貨の草分け、ビットコインは340億ドル超で、かなりの市場流動性を有している。スパグニは「アメリカの金融セクターは暗号通貨に株式市場と同じような興奮を覚えている」と話した。

(文中敬称略)

■木村 正人(在英・国際ジャーナリスト)
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

最終更新:6/5(月) 12:01
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