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米兵の父とフィリピン人の母… 「忘れられたアメリカ人」の肖像が訴えるもの

6/5(月) 21:05配信

沖縄タイムス

 【ウトゥ・カカジ通信員】「忘れられたアメリカ人」と題された肖像写真展が米首都ワシントンで開かれている。フィリピン出身の写真家エンリコ・ドゥンカ氏(49)=ニューヨーク在=の作品で、米兵の父とフィリピン人の母を持つ人々の肖像写真36点が展示されている。6月7日まで。

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 5月6日夜のオープニングにはエンリコさんが出席し、集まった50人余の関係者と観客はプロジェクトの背景と、カメラの前に立った人々のそれぞれの物語に聞き入った。

 エンリコさんは子どもの頃、家族とともに米国移住した。ファッション写真家として働くようになったものの、そのうち仕事に空虚さを感じるようになった。「『僕に何か役割を与えてほしい』と神に祈る日々を過ごしていた」

 父が亡くなった翌年の2006年、フィリピンに里帰りした。郷里の町で出会った、米兵と故郷の女性の間に生まれ、境遇は全く違いながらも父がおらず、時には母もいない人々のことが心に留まった。

 この期を境に頻繁に帰郷するようになった。その都度巡り合った“アメラジアン”の人々の存在はエンリコさんの心に刻まれ続ける。「超保守的なカトリック教社会で父親不在家庭へのスティグマは大きい。多くがいじめや差別の対象になりアイデンティティーの問題を抱えながら貧困の中で生きている。それでもいつの日かお父さんを捜してつながりたいという希望を捨てない者も多い」

 ニューヨークに戻っても「何とかしなければ」という思いが募り続け、「アメラジアン・フォトプロジェクト」を生み出した。

 1990年代には故イノウエ上院議員がフィリピンと日本を除外した『アメラジアン帰還法』の改正案を提出したが立法には至らなかった。エンリコさんは「その理由は『フィリピンのアメラジアンの母親たちが違法売春をしていたから』といううわさを聞いたが、母親たちが売春婦だったと決めつけるのはひどい差別と偏見だし、米軍が置かれ続けていたフィリピンの状況を知らなすぎる」と憤る。

 「付き合っていた男性に裏切られたり、本国に妻子がいたりそれぞれ事情は複雑。僕が一番気掛かりなのは、このような状況で生まれてきた子もまた、母親と同じ貧困の道に押し出されてしまうこと」と危惧する。

 これまで肖像写真プロジェクトに同意し撮影に応じた人は100人余り。撮影に躊躇(ちゅうちょ)した数人は「これまで多くのメディアで書かれてきたのにいまだ何の対策もされていない」と語ったという。

 エンリコさんは「負の連鎖はこれ以上繰り返してほしくない。米社会への問題提起は続けていくが、政治的な改革を実現できるのは米議会だけ。撮った写真は議員らに提示するつもりでいる」と話している。

最終更新:6/13(火) 11:30
沖縄タイムス