ここから本文です

5ジャンル5種目のゲーム大会“Red Bull 5G”は、5年間で日本のゲーミングシーンに翼をさずけられたのか? プロジェクトアドバイザー松井悠氏へのロングインタビューをお届け

6/6(火) 19:07配信

ファミ通.com

文・取材・撮影:編集部 ミル☆吉村、撮影:カメラマン 和田貴光

 レッドブル主催の5ジャンル5種目のゲーム大会、Red Bull 5G。昨年12月に行われたRed Bull 5G 2016 FINALSのラストで、この大会をもって“第1シーズン”の終了となることが発表された(本誌では大会リポートを掲載しているので、詳細はそちらを参照)。

 「日本のゲーミングシーンに翼をさずける」というコンセプトで始まったこの大会は、果たしてそれを実行できたのか? そしてシーズンの終了とは何を意味するのか? 発足から本大会のプロジェクトアドバイザーを務めた、グルーブシンクの松井悠氏に話を聞いた。Red Bull 5Gの運営面にはじまり、1990年代から現在まで競技ゲームシーンに関わる同氏ならではのイベント観やゲームコミュニティ観にまで至る、収録2時間、合計2万3000字超というロングインタビューだが、どうか最後までおつきあい頂きたい。

----------

●次のフェーズに進むからこその“第1シーズン終了”
――昨年のRed Bull 5Gのエンディングロールで、今回でRed Bull 5Gの「第1シーズンが終わり」であることと、いずれ帰ってくるという趣旨のメッセージが出されましたが、まずはあのメッセージの真意についてお伺いできればと。
松井 毎年12月に開催、ということだけが先行して決まっていく中で、「時間に追われてクオリティが下がっていく」ということを避けたかった。スケジュールを追いかけるだけでは、ただイベントを実施するだけで精一杯になってしまうのでキツいな、と……。「キツイ」というのは、単純に人を増やせばいいかといった話でもなくて。スタッフの根性だけで解決できるなら根性を出せばいいんですけど、中々そうもいかない部分もあるので。

――毎回カッチリとコンセプトとチャレンジがあるイベントなわけで、惰性でも続いてればいいやというイベントでもないですしね。
松井 そのサイクルが破綻してしまう前に、一度キリがいいところ(5回目の開催)から「そもそもRed Bull 5Gってなんなんだろう」というところも含めて考えましょう、という話になりました。なのでこれでやめるという話ではなくて、当然「じゃあ次をやるにはどうあるべきか」とか、どうやればいいかといったことを考えていく上での決断ですね。すぐに6年目をやるという前提があると、結局考え直す時間がなくなって同じ轍を踏むんじゃないかな、と。こればっかりは運営側の我々のリソースを増やしたところで、変わらないんじゃないかと思ったので。

――確かに、コンセプトの再検討とかそういうレベルの話は、人手を増やせば解決するわけでもないし。
松井 いつぐらいかな、2016年の頭辺りからそんなことは自分の中でも考えていて、じゃあいつアナウンスするのかとか、そういうのもいろいろみんなと相談して、最終的には「当日でいいんじゃないか」と。実は当日の配信ではオープニングで話しているんですけど、会場では盛り上がりに水を差したくなかったので、ああいう形(エンディングでの発表)になりました。レッドブルさんとは、2017年は2017年でまたちょっと新しいことをやろうという話をしていたりもするんです。

――一度まとめると、今回の決断の発端としては、今の発想の5Gというのは2016年で集大成だとして、それ以上のことをやるんだったら一回頭を使うような時間が必要だということですね。
松井 スタッフのチームメイク、パブリッシャーやデベロッパー(開発会社/開発者)とのやり取り、プレイヤーとのコミュニケーション、そういう所から全部含めてもう一度ちゃんとやっていきたいというのが本音です。6年前にRed Bull 5Gが始まった時に、レッドブルの人と「このステージにレッドブルアスリートが上がる日が来るといいですね」という話をしていたら、2016年は本当にレッドブルアスリートのウメハラ選手とボンちゃん選手が上がることになりましたし、5年というのは短いようでいて長いようでいて、うまく行ったのもあれば失敗したのもありますが、いろんなチャレンジをしてきました。でもこのまま6年目をやろうと言っても、同じ流れ、同じことになって、タイトル選んで予選やって……という繰り返しになってしまいがちですから。
 それとレッドブルさんって、意外と同じイベントを繰り返しやらないらしいんですよ。「5年同じ国で同じイベントをやるのは珍しい」というのは結構いろんな人から聞いていて、「そうなんだ」なんて思っていたんです。確かに、2016年はRed Bull King of the Rock(ストリートバスケの大会)がなかったし、Red Bull BC One(ブレイクダンスの世界大会)も日本で決勝が行われたのは6年ぶりなんですよね。でもそういった中で5Gを続けるにあたって、珍しいケースだというのにあぐらをかいてずっと同じことをやっていれば「それって(レッドブルが)やる必要なくない?」といった話にもなってくるじゃないですか。であれば、常にもっといいものを目指そう、という姿勢をキープしていきたい。

――「シーズン」と聞いて「海外ドラマかよ」と思ったんですけど、本当にそんな感じですね。裏では次のシーズンに向けて当然のように動いてても、制作のために間が空いてしまうから、無理に連続させないで一旦シーズンを切るじゃないですか。ああいう意味での第1シーズンの終わりだと。
松井 そうですね。個人的には、World Cyber Gamesという大会の日本予選運営を2005年から5年間やらせてもらって、これでRed Bull 5Gも5年間やったわけで、5年という期間にひとつの区切りを感じているところもあります。World Cyber Gamesをやっていた頃って、日本でまだまだeスポーツとか言われる前の時代で、盛り上がり感も規模感も結構小さかったんですね。でも時代が変わって、その中でRed Bull 5Gをやって成長できて、じゃあ次の5年をやるとしたら何をコンセプトにしていくのかとか、そこら辺をずっと考えていて。

――新しいコンセプトが始まるかもしれないわけですね。
松井 例えば「Red Bull 5Gってなんだ」という時に、“イースト・ミーツ・ウエスト”(東西の出会い)であり、“5ジャンルで5ゲームによるチーム戦”というフォーマットがひとつありますよね。そこで“イースト・ミーツ・ウエスト”という部分を“アジアVSヨーロッパ・アメリカ”みたいに発展させて、その予選をファイティングは日本、レーシングをシンガポール、韓国でスポーツをやって、しかもその国以外からも参加できる、とかやったら面白いなとか。やったらどれだけ大変かは想像したくないですけどね(笑)。

――まぁ実際やるかは別として、アイデアの例ですね。
松井 格闘ゲームの人たちって、昔からよその土地のゲーセンに“遠征”していましたよね、例えば今はCapcom Pro Tourというストリートファイターシリーズを軸にした大きな大会があって、本当に国を超えた遠征になってきている。僕はそういうのも楽しいと思うんですよ。だから『ぷよぷよ』のプレイヤーも国を渡って他の国でプレイするとかね。「ゲームの大会のために他の国に行く」というのは、お金はかかりますけど、すごく楽しいことだと思いますし、それをみんながスムーズにやる橋渡しができたらいいなと。

――リアル「俺より強い奴に会いに行く」(ストリートファイター2のキャッチコピー)の他ジャンル版ですね。その他のアイデアはどうですか?
松井 これは反省点なんですけど、ゲームを選んだら選びっぱなしになりがちな所は変えていきたいです。2016年は、特に発表から予選の実施までがすごくタイトなスケジュールだったんです。もちろん勝手にこちらで選んでいるわけではなくて、タイトルの発表までにパブリッシャーさんや色んな方とお話して、「今年はこれでやらせてください、発表はこのタイミングで」というのをやっていくわけですけど、そこにもっと余裕を持たせたい。そうすればプレイヤーにも練習してもらう時間を作れる、それにそれぞれのジャンルのプレイヤーに対して、横断的なアプローチをすることもできる。
 あるいは、本当に小規模なオフラインイベントをいろいろやっていくとか。レッドブルさんのオフィスもいろんなゲームのオフ会に使われていますし、そういう所を使ったり、じゃあ東だけじゃなくて西でもやろうとか。ウチの会社(グルーブシンク)でPS4本体とモニターなど一式を収納できる“ゲーミングボックス”を作ったりしたのも、あれを持っていけばもっとみんなが気軽にオフラインで交流できるんじゃないか、オフイベを実施しやすくなるんじゃないかという発想なんですよ。
 それから3年目に『バイキングぽいぽい!!』を採用した時に、大会用のオリジナルステージを作ってもらったんですけど、ああいうのも気分が上がるじゃないですか。『リーグ・オブ・レジェンド』や『Dota 2』の大会でもああいう仕掛けはあるし、元々は『カウンターストライク』の頃からかな? 時間をかけた分だけああいうこともできればいいですし。

――単に許諾をする/される以上の関係があるといいですよね。
松井 過去のインタビューでも言っていますけど、パブリッシャーとデベロッパーとプレイヤー、全部が一体になって初めてそこで競技的なゲームシーンが存在できると思っているので、Red Bull 5Gを通じてデベロッパーに対してもどういうことができるのか考えたいんですよね。作る人、売る人、遊ぶ人、三者にとって喜ばしいものはどうあるべきかというのを考え続けていて、それを形にすればこういうものなのかなぁというのを目指しています。
 パブリッシャーってゲームをセールスすることで収益を上げる人たちで、デベロッパーとはゲームを作ることで収益を上げる人たち。プレイヤーはゲームをプレイすることで喜びを得る人たち。ビジネス的な側面とコンテンツを消費する人たちの側面ってやっぱり違うので、そこも考えながらやらなきゃいけない。パブリッシャーの方ばかり向いていてもいけないし、プレイヤーの方ばっかり向いていると、パブリッシャーにとってどうでもいいイベントになってしまいますし。
 そういった中で、Red Bull 5Gはデベロッパーとのコミュニケーションも、比較的密にできていた方だと思うんですよ。そもそもデベロッパーの人って、あまり大会とかに来てくれないんですけど、2016年のFINALSにも結構いらっしゃっていて。「自分たちが作ったゲームがこういう風にプレイヤーにとっていい場所になるんだな。じゃあこうしよう」といった感想を持って帰ってくれる。それで何がいいかと言えば、観戦モードを検討してくれるとか……僕らが大会をやる上で喉から手が出るほど欲しい要素、トーナメント機能を用意してくれるとか、そういうものに繋がってくる。そういう感じのコミュニケーションって大事だと思うし、そこはこれからも、もっとやっていかなきゃいけない。

●それぞれが当事者である成熟した競技ゲームシーンを夢見て
(前段に引き続き、松井) 後はみんなのマインドを少しずつ変えていくと……、もしこれが本当に競技シーンとかeスポーツと呼べるものであるとするならば、プレイヤーのマインドもそうだし、パブリッシャーのマインドも、デベロッパーのマインドも、みんなを少しずつ変えていかなければならないなと考えていて。

――というと?
松井 いまの日本で行われているほとんどの“ゲーム大会”、“eスポーツ大会”って、パブリッシャーから見ればユーザーサービス、カスタマーサービスの一貫として行われているようなもので、“お客様へのアフターサービス”以上でも以下でもない。だから“選手”って呼ぶとしても、その本質はまだ“お客様”なんですよね。逆にプレイヤーも「自分たちはゲームを買ってる客なんだから」という思考がどこかにあると思うんです。

――ああ、ちょっとネガティブな意味を込めて「運営」って呼ぶ時の響きとかそんな感じありますね。
松井 そこでプレイヤーがもっと……言い方が難しいけども、「遊んでやっている」わけでも「遊ばせて頂いている」わけでもないという、その辺りのバランス感。
 例えばあるIPが続いていく中で、新作をパッケージで出して、それをユーザーが買うという形がありますよね。もちろん少額課金モデルの場合もありますけど、いずれにしてもそこで「買ってくれる人のうち、競技的に楽しんでいるコアなユーザーは何%なのか、その何%に対して限られた予算とリソースの何%を割くべきなのか」みたいな考えをビジネスとしてゲームを扱う……すなわちパブリッシャーやデベロッパーの人たちは当然しますよね。

――コア層を優先するのが果たして全体の最大幸福に繋がるのか、みたいな難しい部分ですね。
松井 そこに対して“お客様”であるコアプレイヤーは「自分たちが欲しがる要素は常に入らなければいけない」みたいな考えが少なからずある。そうじゃなくて、プレイヤーもパブリッシャーもデベロッパーも当事者として、その競技としてのゲームがどうあればみんながハッピーになるのか、自分たちの都合を押し付けるだけではなくて、どう話を聞かせるか、どうお互い説得材料を出すかという所まで上がれば、またちょっとよりよいシーンになるのかなと。

――受け身じゃない、お互い対等なコミュニティというか。たまに「なぜこれが欲しいのか」、「なぜこれがよくないのか」っていう主張をメーカーに聞かせるテクがめちゃくちゃうまい人がいますけど、「これは相手がわかってるなぁ」と唸らされますね。
松井 プレイヤーのことをお客様扱いして、ずっとサービスだけするっていうのは、一番簡単なやり方で、楽なんですよ。喜ばせて、なんだったらなんか食べてもらって、楽しいものを経験できたら、それでもう満足してくれるので。そうじゃなく当事者として、みんなが少しずつ知恵を出して、汗をかいてやると、もっといいものができるんじゃないかなと。
 僕はいままでプレイヤーサイドでもあり(“ストッキング松井”の名で鉄拳プレイヤーとして活躍)、パブリッシングサイドのお手伝いもさせてもらって、IGDA日本とかUnityでデベロッパーサイドのお手伝いもさせてもらって……ゲーム開発をしたことはないですけれど、そういう経験の中で、仮に競技ゲームシーンが“eスポーツ”と呼べるものになるとしたら、そこなんじゃないかなという感じがしています。

――本当に長期的な成熟を目指すとなると、当事者の一員として協調して成長していく必要があるでしょうね。
松井 これは言い方が難しくて……「いや、お客さんにはサービスだけしてればいいんだよ」なんて言われたりもするんです。賞金についても、お金ってもらえればそりゃ嬉しいですよ。もらえるか、もらえないかでいったら、誰だってもらえた方がいいに決まってる。僕だってそうです。10万円よりは100万円のほうがいいですし、100万円よりは1000万円のほうがいいですし。それに、いまは専業・兼業も含めてプロゲーマーの人たちがたくさん生まれてきていますし、賞金があるからこそ、そのゲームをやりこむことができ、そのプレイの結果としてさらにゲームのシーンを加速させていく、という循環も生まれている。そんな中で、競技シーンはどういう形であるべきなのか、誰にとってもハッピーな形はどういうものなのか、というのは本当に難しいなぁ、と思っています。
 僕は、個人的に「そのゲームが好きで、勝手に大会をやっているシーン」がすごい好きなんです。その人たちって、10年前のゲームだろうが15年前のゲームだろうが、そのゲームをバリバリ遊んでて、すごく楽しんでいる。それってコミュニティの幸せな形のひとつだと思うんです。よそから見れば「新人が入らないコミュニティはよくない」とか、「もっとこうあるべきだ」みたいな事を言いたくなるかもしれないけど、ぶっちゃけそのコミュニティの中にいる人にしてみれば余計なお世話としか思わない。それが閉鎖的であるか否かとかは本人たちにはまったく興味がなくて、好きなゲームを好きな人と遊べるんだから、こんな楽しいことはないですよね。

――パブリッシャーやデベロッパーの側でサイクルが終わってしまっているゲームなんかそうですけど、それで完結しているものも、それはそれであり方のひとつですね。
松井 そうなんです。そういうコミュニティにも今言ったような事を強制しようって言うんじゃない。ただ、開発者がプレイヤーのことも思いながら作り続けて、プレイヤーも開発者のことを考えてみるとか、三者がしっかりくっついていくことができればすごくハッピーな形が生まれる可能性がそこにあるんじゃないかなと。

――そういう、まだ見ぬ関係の模索も含めて、プレイヤーも含めてみんなで次のレベルに行くためにも、仕切り直しや練り直す時間が必要だったということですね。
松井 はい、そうですね。そこまでできたら面白いな……。

●“神イベント”は選手が生み出す
――“シーズン1終了”の話はこれぐらいにして、次はこれまでの大会の総括を。2016年の第5回大会は、途中で決着がついてしまったにも関わらず、5種目ともそれぞれのドラマが見えて、興味が途切れない内容になったのがさすがだなと思ったんですけども。
松井 一年目からそうなんですけど、プレイヤーの試合にすべて救われ続けてきた5年間だったかなと。演出や運営がどれほど仕込んでいてもやっぱり真ん中にあるのはプレイヤーの試合なので。どの試合も観ていて楽しかったし、面白かったと皆さん言ってくださって。「めっちゃ試合面白かったですね。いいイベントでした」と、パブリッシャーから、デベロッパーから、プレイヤーから、オーディエンス(観客)からみんなが「面白かった」と言ってくださったんですけど、それはプレイヤーがいい試合をしてくれたから。そこに尽きますよね。5年間面白い試合ばかりだったので、仮に「どの試合が一番よかったですか」と聞かれたとしても、「全部」というのが正直なところです。

――5年間で5種目、全部で25試合あったんですけど、確かに結構思い出せるし、捨て試合的なのはなかったように思います。
松井 どんなに完璧な運営をしたとしても、来場者・視聴者にしてみれば、試合が面白くなかったら、どこか消化不良感が出てしまうじゃないですか。どんなクソ運営でも、試合が面白かったらそれってやっぱり神イベントになるんですよ。

――ライブとか格闘技イベントでもそうですね。
松井 さっき言った「プレイヤーに救われた」というのは、そこなんです。現場では舞台転換に時間がかかってしまったとか、マシントラブルが出たとか、会場のオープンが遅れたといったことが起こっていたんですけど、その度にプレイヤーの試合に救われてきた。2016年も細かいトラブルはいろいろあって、イベント運営者としては反省点が多いんですけど、そこも含めて選手に救われた。

――それは偶然なのか、それとも仕掛けてきたことがうまく結びついた部分もあるんでしょうか。前夜祭で選手をチームメンバーに引き合わせて、同じユニフォームを着てもらうといったことも、当然選手のテンションなんかに影響していると思うんですけども。
松井 どこまでが“いい試合”を生むために仕込んだものなのかと言われると……僕たちは試合までのお膳立てはしますけど、そこから先はすべてプレイヤーに委ねているので、試合が面白くなるのは全部プレイヤー次第だと思うんですよね。あっさり決まったものも、僕はそれはそれで面白いと思うし。

――わかります。Red Bull 5G FINALSは5試合で1セットだから、つい単なる勝敗の先にストーリーを見出そうとしちゃうんですよね。えげつない戦法で勝ちを狙う人とか普段はあんまり好きじゃないんですけど、それも5試合の中だと「ここから流れが変わったりするかな?」とか、前後の試合と合わせて色んな見方ができる。
松井 そうですね。もしかすると、観戦する人たちに「いい試合だな」と思ってもらうためにはどうしたらいいか、つまり「このゲームって面白いな」と思ってもらうためにはどうすればいいかということを5年間やり続けたきた成果も少しあるのかなと思います。2016年ならパンフレットを作って簡単なゲーム紹介や試合ルールを入れたり、これは3年前からですけど、試合前にゲームの紹介映像を挟むようにしたり。実況解説の方とも、どういう形の実況解説をしてもらいたいのかしっかり考えたりとか。

――そうなんですよね。そのゲームのプレイヤーにとっては当たり前のことをちゃんと説明する。
松井 (みんなお目当てのジャンル以外は疎いという仮定で)会場にいる5分の4の人は、そのゲームのことを知らないという前提でやっています。それから、内側に向かったイベントではなくて、外側に向かったイベントであろうとしているからでもありますね。内側に向いたイベントが悪いというわけではないんですど……Red Bull 5Gは毎年タイトルを変えながら「Red Bull 5G面白いね、来年はどんなタイトルが選ばれるかな?」と思ってもらえるような、大会をきっかけに新しいゲームを知ってもらうというチャレンジをしてきたので(そういう解説を入れるようにしている)。

――5本全部競技レベルで知ってる人はいないだろうってぐらいに、「へー」ってタイトルを入れてきますよね。
松井 2016年も『ロケットリーグ』が見事にハマって、この大会ををきっかけに買ったという人がいましたね。いま新しいゲームを知る経路として、「人気YouTuberが紹介したから」とか、「ツイッターで流れてきた」とかいろいろある中で、そのきっかけのひとつとしてあったらいいかなと。それはデベロッパー、パブリッシャーにとってもいいことだと思うので。

●会場にいる5分の4の人はそのゲームのことを知らない
――これもRed Bull 5Gのすごい部分だと思うんですけど、複数種目ある大会なんかだと、普通は自分がやってるゲーム以外はスルーしたりしますよね。それ自体が悪いというわけではなくて。
松井 もう仕方ないですよね。だって本当に興味ないんですもん。「俺はこのゲーム関係ねぇや、この間にトイレ行ってこよう」って思われないためにはどうしたらいいんだろうかとか、どうして「俺はこのゲームには興味がない」とか「関係ない」って思うのかと考えて、それをひとつずつ潰してきた感じですね。

――どう乗り越えたんですか?
松井 これは僕がライターをやっていた経験につながってくると思うんです。記者さんもそうだと思うんですけど「まだ知らないゲームをどうやって紹介するか、どういうふうに興味もってもらうか」っていうのがお仕事じゃないですか。

――本当にそうですね。やり込んでる前提で読んでもらいたい記事もありますけど、基本的には知らない人でもどこか引っかかってくれるような取っ掛かりを入れたりします。
松井 なので「自分がライターとして紹介するとして、このゲームのどこに惹かれるんだろう?」と考えていくような、そういう部分が大事だと思っていて。こういう資料を作ったのも、そういった紹介のための一環ですね。Red Bull 5Gのステージって結構横長なんですけど、なんで僕たちはこういう変な形にしたいのか、映像制作や舞台監督の方と打ち合わせするために作ったものです。

――イメージの共有をするためのものですね。
松井 そうですね。哲学の共有とも言っているんですけど、僕らは映像や舞台製作のプロではないので、その力をどう借りたいのか、僕たちは何がしたいのか伝えたかったんです。

――根底のコンセプトが伝わっていれば、それぞれのプロが「ああこの機材が使えるな」とか「あの時やった方法が応用できるな」とか逆提案できるようになりますからね。
松井 ちなみに、これは僕の得意なことのひとつなんですけど、自分で「物事を見るときの視点を変えられる」んです。ハードコアゲーマーの視点、カジュアルゲーマーの視点、ゲームを知らない人、例えば「彼氏に連れてこられた彼女」。そういったさまざまな視点でレイアウトを見直してみて、どう思うかを考えていく。たとえば、ゲームの試合を観ていて、一番みんなが困るのって「何が起きてんの?」、「どっちが勝ってるの?」ってことだと思うんですよ。

――そうですね。記者業をやっていると、稀にあまりやっていないゲームの大会なんかを取材しなければいけないこともあって、もちろん“予習”はするんですけど、実況解説とかメインスクリーンの見せ方で理解の底上げが格段に違うのはよく実感します。
松井 知らない人は誰が何をしているかすらわからない。その上でさらに、トップの人達がやっている駆け引きの凄さって、5分の映像を作っても、パンフレットが100ページあっても、多分紹介しきれない。じゃあできない部分はある程度諦めようということで削っていった時に、一番知りたいことって多分、「ねぇ、今のどっち勝ったの?」ってことじゃないかな、と。会場が「ワァー」って盛り上がった時に、何が起こったのかわからないって、すごい取り残されたような疎外感がするじゃないですか。

――深夜にたまたまやってたクリケットを見てる時の僕ですね。
松井 そうそう。周囲や画面の向こうが盛り上がってても「お、おう」としか言えない。隣の人に話が聞ければいいんですけど、そういう人ばかりでもないから、それをどうやったら伝えられるのか。そういう意味で例えば『ロケットリーグ』って、見ればわかる、クルマが空を飛ぶっていう時点でなんかスゴいぞっていうのもあるし。

――とにかくボールがゴールに入ればいいし、ゴール入ったらボカーンって爆発演出が入りますからね。
松井 それにどっちが勝っているかはゲーム中にスコア表示されているし、複数回試合するから、その結果は○×でどっちが何本勝ったかを出しました。何が起きたかはリプレイが入りますしね。

――「ああこの人が打ったからゴールになったのね」と。
松井 すべてがわかる必要はなくて、でも「楽しいねこのゲーム」っていう入り口に立ってもらうのが僕らが目指すゴールです。そこからどう先の楽しさを伝えて一緒にコミュニティを作っていけるかは、そのゲームのコミュニティの仕事だと思っているんです。僕たちはそこまでは手取り足取り引っ張っていく必要はないかなと。5年間続けて学んできたことのひとつはこれですね。

――まったくそのゲームのことや、そのゲームの楽しさを知らなかった人も、入り口まではちゃんと連れてきて知ってもらうと。その辺りも関係あると思うんですが、普通のゲーム大会のディスプレイの仕方と見比べるとそれなりに異質ですよね。
松井 そうですね。(コミュニティの)“内側向け”と“外側向け”の違いだと思うんですよ。僕なんか、もともとすぐそこの小さいゲーセンで実況をしたのがはじめなんですけど、そこにいる人は、既にそのゲームが好きで、そのゲームのために集まってきている人たち。となればその“場”で共有している文脈や用語があるから、そこはどんどん端折っていくんですね。

――そこを削った分だけ、別の文脈を入れられますからね。あんまり基礎から説明しても逆に「そこはわかってるよ」とうるさく感じるかもしれないし。
松井 それを突き詰めていくと、画面に映っていることを喋っていくだけでみんなが共有できるし、なんだったら実況もいらない。例えばスタジアムの競技ってほとんど会場内で実況がないじゃないですか。

――そうですね。オフィシャルとして誰が点決めた、誰が交代するっていうアナウンスだけで。
松井 あれが成立するのは、会場の結構な割合の人に、どの選手がどういう特性を持っていて、どういうシチュエーションでプレイが活きるというのを共有できてるからですよね。でもそうじゃない人は解説が必要だし、広げるためのことをやるなら、内側向けとは見せ方が異なってくる。だから僕は結構、深夜にやっている、そんなにメジャーではないスポーツ中継を参考にしたりするんです。多分そのテレビ局にそのスポーツが好きな人がいて、それを広めたいって思いで作っているんだろう番組ってあるじゃないですか。ああいうのを見て「ここで一回こういう映像を挟むのか」って参考にしていますね。

――放送とライブは別物ですけど、その情報共有に通じるものを見出してるわけですね。
松井 そういうことをライブでも積み重ねることで、会場の一体感が出てきます。そして会場の熱量が上がると、今度はやっぱり選手にも伝わる。“いい試合を生み出した何か”が運営の側にもあるとすれば、こういったことの結果のひとつかもしれないですね。

●なぜ試合順を選手に任せたか
――そういった“お膳立て”になっているかもしれない取り組みのひとつとして、試合順がラウンドごとにプレイヤーの意向で決まるというシステムがあると思うんです。最初に構想を聞いた時は「すごいけどミスなく転換をやるのは無理じゃないか」と思ったんですが、見事に実現しました。でも試合ごとに機材も配置も違うのに、次にどれをやるかわからないのはミスの温床のようなもので、普通は選ばない手段ですよね。
松井 2年目までは試合順を運営の側で決める形だったんですけど、なぜ変えたかと言えば、この5種目のフォーマットで一番カッコいい形って、2勝2敗で最終戦が決勝、というパターンだと思うんです。逆に運営として一番しょっぱいのが、最終的には同じ3-2になったとしても、3連勝で決着がついちゃって、残り2戦を負けた側が取るっていうパターン。「運営、試合順考えろよ」ってことを絶対に言われるわけですよ。

――まぁ試合順が違っていれば競った形で楽しめたかもしれないし、さらにその競った雰囲気で最終戦にミラクルが起きるかもしれないですからね。
松井 でも2015年にネットと会場で勝敗予測をやってみたところ、3人しか当たらなかったんですよ。たった5試合ですよ? みんなバイアスかかっちゃって当たらないんです。

――じゃあ運営ならそれを綺麗に予測して試合順組めるかって言うと……。
松井 本当に「誰か予測を元にあの大舞台の試合順を間違いなく作れる人がいたらやってくれ」というのが本音ですよ(笑)。だから自分たちで決めたとしても、どっちみち試合順でリスクは抱えるんです。「じゃあどうしたらいいか」というのを考えて、正直「俺もう決めたくないなぁ」と思ったんですよ。そして思いついたのが、会場や視聴者の投票で次見たい試合を決めてもらうのと、プレイヤーに決めてもらうというふたつ。でもプレイヤーにとって、僕らが決めるのも観客が決めるのも変わらないなと。

――どっちみち選択肢がないですからね。
松井 そうなんです。僕自身が押し付けるのも押し付けられるのも嫌いなので、そこで「だったら自分たちで選んだ試合で勝ち負けになるのなら、観客は納得しなくても少なくとも選手は納得できるな」とひらめいたんですよ。それぞれ「俺が行く」って言って出ていって、3試合負けた後で2試合勝っても納得するんじゃないかなと。

――ある種の後悔はあるかもしれないけど、人のせいにはなりませんよね。
松井 それで、じゃあ選手が決める場合のリスクに何があるだろうかと言えば、当然、誰もが転換でミスが起きるリスクを考える。そのミスをどれだけ削れるかなんですけど……いずれにせよ転換自体はするので「まぁいいんじゃない?」と。

――そこ、大分飛躍がありますよ!(笑)
松井 もしレッドブルさんから「試合順は選手が決める形でやって欲しい」と言われていたら多分僕は断ってました。自分たちで決めたことだからやった。だから2016でバタついたのも僕らの大失敗だと思っています。それを選手の試合がカバーしてくれただけなので、まだまだ詰める部分はたくさんあります。

――まぁでも、先行例がないだろうから仕方がないですね。
松井 UKで行われたRed Bull 5Gに行った時も、「試合順どうやって決めてるの?」って聞かれて「いやその場で」って返したら「は? 何考えてんだ? トラブルは?」って言われました。世界のeスポーツ大会であまり聞いたことがないですね。嫌だと思いますよ。僕も嫌ですもん。スタッフも嫌がってます。

――「でもやるんだよ」と。ちなみに試合順を選手に任せるのを決めた時に、それでストーリーが生まれるという考えはあったんですか? 僕はそこがすごい好きなんです。自分の試合だけで終わりじゃなくて、その結果を他の選手が背負って戦う。試合と試合の間でプレイヤーのストーリーが途切れないで、5つのゲームが繋がっていく感じが。
松井 それなら、どうあのフォーマットを詰めていったかをお話した方がいいかもしれませんね。2016年のFINALSはかなり長くて4時間半かかっているんですが、以前から、どうしたら短縮できるかと言われていたんです。それでどう短くできるかと言えば、5つのステージが全部会場内に最初から組み上がっている形なら2時間で終わる。でもそれは難しいですよね。

――どんだけデカい箱なんだよってことになりますからね。そうすると今度は遠くて見辛かったりもしてくるし。
松井 前後2ステージというのも考えたことがあるんですよ。次の試合を逆側のステージで準備する。

――要はロックフェス方式ですね。目の前のステージが終わって後ろ向くともう次のステージが準備してあって、今度はそっちで始まるという。
松井 そう。でもそれは試合順が決まっていないといけない。選手に前日に決めてもらうというやり方もありえるけど、結局最初の“3連勝のあと2連敗”となるリスクは変わらないんですよね。それで「いや選手が決めたから一方的な展開になってもしょうがないじゃないですか」と言い訳するのもかっこ悪いなと。

――それもまぁそうですね。「追い込まれたからこう選んだんだ」みたいなストーリーも見えないし。
松井 そう、それで今の形式なんですが……少年漫画の大会みたいに、反対側の奴を指差して「お前上がってこい」っていうの燃えるじゃないですか。プレイヤーが舞台袖から呼ばれて上がっていって、勝ち負けがあって戻っていくというのをやりたいなと。じゃあ勝った側が指名するのか、負けた側が指名するのか。それを考えたら負けた側かなと。勝った側ってハッピーじゃないですか。喜んで、調子に乗ってる。

――それで「ぐぬぬ」となってる側が選ぶ方がストーリーがありますね。それで勝った側が決めても「予定通り連勝」か「そうはうまくいかなかった」ぐらいで、あまり情念が見えてこないし。
松井 そうなんです。そこで敗者側に選択権を渡そうと。

――やっぱりそういう部分は考慮してたんですね。負けた側が選ぶのだと、要は勝った側のプレイヤーなのに「こいつなら勝てるだろ」って指名されて上がるわけで、ナメられる側が逆になって、見る側にとっての“心理描写”が一気に複雑になる。
松井 そこでRed Bull 5Gの面白さがひとつ生まれているというのは僕も感じているところです。でもこれにしたって確立したのは3年目からですからね。

●試合と試合の間にもストーリーがある
――“3連勝のあと2連敗”リスクについて話してきたわけですが、でも実際2016年は3試合目で決まりましたよね。
松井 3年目も4ジャンル目で決まったんですよ。それについても当然チームで話し合っていて、3試合目とか4試合目で決まる可能性って、確率論で言ったら4試合目で決まる方が高くて、ありえる話なんです。それで会場の人が納得してくれるのかというのをずっと運営チーム内で話していて……僕が出したのが“5試合目が5ポイント”という(笑)。

――クイズ番組形式だ。「最終問題4億点です」みたいな。
松井 「さすがにそれはないでしょう」となりまして。でも「5ジャンルの完全決着制はどうですか」ということも言ったんです。3ゲーム先取じゃなくて5ゲーム先取。同じマッチアップが2回ある可能性がある。最大9試合ですね。

――長くないですか?
松井 想定終了時刻が午前1時とかですね。これもまぁねぇだろうと。そういうのも踏まえて今の(“3連勝のあと2連敗”問題が起こり得る)やり方なんですが、この大会が構造的に抱えているリスクなんです。何らかの形で改善する方法があればいいんですけど、5年間かけて未だに見つかっていないので、何かアイデアがあったらぜひ教えてもらいたいです。

――僕が言いたかったのは、3試合で決まったけど、意外にも緊張感が持続したなっていうのに驚いたんですよ。
松井 “一矢報いることができるのか”感はありましたね。

――それはやっぱり、いろんなストーリーというか、観る側の見立てがいろんなレイヤーで重なってるからだと思うんです。4試合目の『ウイニングイレブン 2017』がそうでしたけど、もう全体の勝利は決まってて、先制ゴールも決めた。そこで何をしたかと言えば、サッカースラングで言うところの「鹿島る」。
松井 かっちり固めてボール回してましたね。

――きっちり勝つのだけを目指したゲーム進行をやっていて。単体で見たら微妙かもしれないけど、前後と繋げて考えると「この展開でちゃんとそれをやるか」というのが面白い。だってチームとしてはもう消化試合なんですから。そして5試合目も「もしかしたら逆に東軍の中でプロゲーマーだけ負けるのか?」みたいな見立てが成立していた。
松井 あそこも本当にお膳立てを超えたものです。試合順は選手に委ねてますし。実は3年目、初めてそのやり方を取り入れた時に、僕と転換スタッフと照明・映像スタッフだけ、西のリーダーから1試合目として選ぶ予定のジャンルを事前に伝えてもらったんです。これはジャンル名を言った後ですぐに映像を出すためで、「パズルで行きます」って言われてたんですけど、そしたら、壇上で彼の口から飛び出したのが「フリージャンルで!」って。

――もう準備意味ねぇじゃん、みたいな。
松井 映像見ると僕が「はぁぁ?」って顔してるんですよ。でもまぁ、やるしかないんですよね。選手のために僕らが合わせていく。進行的には「重い機材は先のほうが嬉しい」とかあって、3年目にレースをやってみて、やっぱり転換に30分はかかることがわかった。それを間延びさせないためにDJ Hangerさんのショーケースを入れて間延びしないようにしたり。

――ゲーム外の音楽やストリートスポーツを積極的にミックスしていくのも特徴でしたね。
松井 2015年はサイドアクトをふたつ入れたんです。1ジャンル目と2ジャンル目の間、2ジャンル目と3ジャンル目の間に入れた。後半になるほど間があかなくなって体感的にスピードアップしていくという形にしたんです。これはやっぱりうまくいって、転換の時間がだんだん短くなることで、お客さんのストレスも減っていく。

――2016年はそれとも違った形でしたが、その意図は。
松井 2016年はあえて、すべてのジャンルの間にサイドアクトを入れました。それも、3年目は転換時にソフトの差し替えだけで済むこともあったんですけど、今年は毎回絶対に転換が起こるという中で。なぜそれでもやったかと言えば、フリースタイルバスケ、ダンス、フリースタイルフットボールがあって、最後に全員でのジャムになる。あれもRed Bull 5Gからのメッセージのひとつで、別々のストリートカルチャーがあって、それぞれもかっこいいけど、それがひとつになると面白い、カッコいい。それはRed Bull 5Gも同じで、それぞれ違うゲームシーンがひとつ場に集うと面白い。そういうことを伝えたかったんです。

――ゲームも含めて、極めた人のやることは面白いしカッコいいよっていうのは、そもそも5Gの原点でもありますからね。
松井 コメントや現場での反応を見ると、そこまで読み取ってくれた人もいたようでよかったですね。一方で「長い」、「なんでこんなもの見せるんだ、俺はゲームが見たいんだ」という声もあって、それもまたそうだろうなと思いました。

●新たなルールの提案
――さっきちょっと出てきた「俺が行く」というシーンですけど、今年は『ストリートファイターV』がタッグ戦になっていて、東軍のウメハラ選手とボンちゃん選手が追い詰められた中で、最終ラウンドにどっちが出るのかというのがストーリーになっていました。そもそも個人戦でもできたと思うのですが、なぜああいう形式にしたんでしょうか?
松井 僕自身がひねくれ者で……、「よその人と同じことをやってもしょうがないよね」という部分があると思います。例えば、パブリッシャーがやっている公式大会と同じルールである必要はない。とはいえ、ユーザーが求めていない形式をやる必要もないわけです。そこで「これは絶対面白い」という確信があれば、それでも踏み切るようにしています。

――ちょいちょい変わったセレクトしますからね。
松井 ルールメイクもそうですし、ゲームもですね。例えば『みんなのGOLF 6』(2014で採用)も、オフライン大会は結構長い期間なかったらしいんですよ。でもこのゲームを競技として観るのは絶対に面白いという確信があったのでスポーツジャンルとしてやらせて頂いたりとか。

――あれはまさに「俺達の知ってるみんゴルじゃねぇ」って、普段シーンの中にいない人に伝わる面白さがありましたね。
松井 『ストリートファイターIV』の時も、シーンがアーケードに寄っていたので、“パッド使いのプレイヤーが上がってくる大会”が海外ぐらいしかあまりなかった。タイトーさんがやっていた大会もアーケードだったので、国内のプレイステーションでの大会は意外とないなと。というわけで“コンソール版のオープントーナメント”という形でやらせて頂いたら、結果的にまさにパッド使いのひかりん選手がガッと上がってきて。

――そういった“ヒネり”の一環であると。
松井 昨年の『ストリートファイターV』の場合は、当然Capcom Pro Tourのことが頭にありました。あれだけきらびやかな選手が出てきて高額な賞金を競うという中で、Red Bull 5Gには賞金がないし、差別化をどうしようと。あの場に立つにふさわしい、あの場に立ちたいとプレイヤーに思ってもらえるようなものを僕らは4年間かけて作り上げてきましたけど……ストリートファイタープレイヤーにしてみれば、特にプロゲーマーたちには、単発の大会のわりに賞金も出ないですし、ワンマッチの試合は負けるリスクもあるでしょうし……。

――それを乗り越えて出るには、何か「おっ」という引きが必要ですね。
松井 なのでRed Bull Gaming Uを通じて変則的なルールを作って試してみたりして。僕は結構変なトーナメントルールを考えるのが好きなんです。“早稲田式”という方式も、もともと僕が考えたものだし。一方でダブルエリミネーション方式って僕は嫌いなんです。わかりにくいし。次の試合が誰と誰で、どういう風に勝ち上がっているのか理解するのに時間がかかる。実力のある人が何かの拍子に負けちゃう“事故”の影響を減らしやすいというのはわかるんです。じゃあダブルエリミネーション以外のやり方で、事故で負けることが起こりにくいルールはないかと考えたのが発端のひとつですね。
 チーム戦も好きなんですが、Red Bull 5G自体がそもそもチーム戦だからどうしたものかなと悩んで……。本来なら個人戦がメジャーな格闘ゲームにチーム戦を入れるのも、結構どうしようかな、といろいろ考えました。ただCapcom Pro Tourがダブルエリミネーション方式の個人戦だし、ツアー方式で、かつ賞金も出しているから同じことをやってもしょうがない。で、ぐるっと見渡してみたら、チーム戦の大会はそんなにないなぁ、と。

――まぁ3on3とかの大会もありますけどね。
松井 そう、3on3はあるからそれもまた同じことをやってもしょうがない。じゃあタッグにしようと。ではタッグでやるにはどういうルールにしようか……というのをわちゃわちゃ考えた結果、あんまりない大会形式になりました。2on2で3試合先取、同じ人が3回連続で出てはいけませんという。

――2連戦までしかできないから、誰かが連戦したら自然と次は誰が来るか決まる。相性なんかもある中でどう切り替えるか、あるいは切り替えないで連戦するかというのが見どころのひとつになっていましたね。
松井 ただルールを発表した時はブーイングが圧倒的でした。「わけわかんない」、「なんだこれ」と。それで西予選に行って、格闘ゲーマーが集まっているところでパワーポイントを使って「これはですね」と説明したんです。そうしたら1回戦が終わって、2回戦が始まるあたりで、みんながどういうことなのかわかってきた。本来だったらルールはシンプルでなくてはいけないという所もあるとは思うんですが、「これは面白いぞ」と。強い奴が勝つルールである、さらに負けた側がキャラかぶせができるというのに気がついた。

――一回やってみたら見えてきたわけですね。
松井 決勝の5試合目がまさにそうでしたけど、ガチくん選手が先に座って、東軍のふたりがどっちが行くか話し合った。Red Bull 5Gは試合時間の都合上、会場のひとたちがなんとなくゲームを理解した頃には試合が終わっている事が多くて、ちょっと消化不良気味のところもあったと思います。ただ、あの時はプレイヤーが入れ替わるし、この選手とこの選手ならこっちが強くて……みたいなものもなんとなく伝わって見所もわかってもらえたんじゃないかな、と思います。それと、話がちょっと変わりますけど、コントローラーの抜き差しって結構かっこ悪いじゃないですか。

――すごく客観的に言うと、まぁガサゴソやって、微妙に端子挿さらなくて「アレ?」みたいな微妙な時間はありますよね。
松井 その時間すらもどうやったらカッコよくなるのか考えた時に、ああやってプレイヤー同士が話し合って「じゃあ頼むわ」とか……負けたプレイヤーが頭を抱えている時に「俺が行くから」という、あの感じ、Red Bull 5Gそのものをギュッと凝縮したようなものをステージに出現させることができたのかな、と。そして結果面白かったので結果オーライかな、と思っています。

――確かにあそこだけ切り取ってもRed Bull 5Gらしさがありましたね。
松井 実はこのルールひとつ穴があって、すごく強い選手とめちゃくちゃ弱い選手が組んでも、強い人・強い人・弱い人・強い人・強い人という順番で勝てちゃうんです。それは穴としてもちろんあると。ただ「強い奴が勝つ」というトーナメントの思想としては間違っていないんですけど……。

――他に懸念や想定していたケースは?
松井 キャラクターバランスもあります。普通の形式だと、総合的に強いキャラクターが勝ち上がりやすいじゃないですか。どんなキャラクターが来ても相対的にバランスの良いキャラクターが勝ちやすくて、癖があるキャラって勝ちづらい。でも格闘ゲームのいいところって、いろんなキャラクターがいるところだから、いろんなキャラが勝てるといいなと。それでこの方式だと2回負けられるので、もうちょっとチャレンジできるかな、と考えていました。だから(2016年当時は大会でほとんど使われていなかった)バイソンが出てきた時に「来たか!」と。

――あれは盛り上がりましたね。結果はそれを切り返す形になりましたけど。
松井 結果はそうなりましたが、トーナメントでどうしても総合的に勝ちづらい形でも、あの形式だったら結構いけるかな、というのは見えた気がします。長所も短所もあるので、これから磨いていくルールではありますが。予選から変えた部分はひとつだけあって、最初はじゃんけんで1P2Pのサイドとキャラの後出し権を選べるという形にしていたんですけど、後出し権の方が圧倒的に有利だというフィードバックを得て、第1試合だけ審判が事前に使用キャラを聞いて、2試合目以降は前の試合で負けた側が後で選ぶという形にしました。

――パンフレットとかの話が出ましたけど、ルール解説という点でも、いちいちちゃんと作ってありますよね。
松井 これも大変でしたよ。解説動画はパブリッシャーさんに頭を下げながらギリギリの進行でしたし。これで各ゲームの魅力をすべてわかってもらえるとは思わないんです。ただ、「少なくともRed Bull 5Gの運営の人たちは、知らない人に対してもそのゲームの魅力を伝える努力をしているんだな」って思ってもらえるようにやってきました。プレイヤーさんから「こんなんじゃこのゲームの本当の魅力なんてわかんねぇよ」って言われたら、まったくもってその通りと言うしかないんですけど……。

――逆にシーンの中にいる人にも本当に気が付きにくい微妙なラインもありますからね。
松井 僕があまりゲームに興味がない友達を誘うとして、「いやでも俺ゲームあんまりわかんないんだよね」と言われた時に、「会場で結構説明してくれるし、解説でもいろいろ教えてくれるよ」って言えば、「じゃあ行ってみようかな」となるかもしれない。そしてなんとなく楽しんでくれるかもしれない。その“なんとなく楽しかった”感を演出するための小道具でしかないんです。でも、そういうのって大事なんじゃないかな、と思います。

――理解するための“補助線”を結構いろんな形で用意してますよね。
松井 コメンテーターによる試合の予想を載せたりしているのも、それを踏まえれば「これは大番狂わせなんだ」といった見方ができるし、試合までのお膳立てしか僕たちはできないからこそ、どういうことができるのかを考えていました。

●Red Bull 5Gは日本のゲーミングシーンに翼をさずけたのか
――スポーツで前の大会に出た人がフリージャンルで出るような“他ジャンルからの参戦”とか、『グランツーリスモ』で出た人が『Project Cars』で出るような他ゲームへの参戦、要は「本来のジャンルやゲームじゃなくても5Gに出たい」という“5G中毒”の人が出てきた時に手応えはありましたか?
松井 そうですね。裏テーマというか、スタッフ間でよく言っていたのが「みんなが大好きRed Bull 5G」。この5Gという場自体をみんなに好きになってもらう、「あそこにまた上がりたい」とか「俺のメインのゲームじゃないけど出たい」と思ってもらうためにフリージャンルの存在などが出てきたので、そういうのは本当にうれしいですよね。FINALSに選手の家族が総出で来たりするんですよ。お母さんが「いつもありがとうございます。今年はみんなで来ました」みたいな(笑)。
 World Cyber Gamesも、毎年タイトルが変わっていたんですよ。そこで「俺のゲームじゃないからいいや」という声はやっぱりあって……それはサードパーティーが運営するゲーム大会が持つ構造的な問題だし、タイトル単体の大会なら、バージョンが変わって離れていく人もいる。それを避けるにはどうしたらいいんだろう、ゲーム大会やeスポーツ大会が持つ構造的な問題をどうしたらいいんだろう、と悩んで考えた一つの結論が「その大会自体に意味をもたせることができれば」というやり方ですね。

――シーズン2以外の部分でも、Red Bull 5G シーズン1を踏まえての松井さんの次の動きが気になりますね。 
松井 今年は、僕も含め、スタッフの練度を上げていく1年にしようと思っています。イベントの現場・配信もそうですし、6月までに大小含めて50くらいの現場はもう完了させているんじゃないでしょうか。たぶん、年末までに100は余裕で超える数の現場を踏めるんじゃないかと思います。いろいろなゲームでいろいろなお仕事をさせてもらってやれることのクオリティを上げていこうというのがその理由です。それから、ゲームイベントに限らず、いろいろな場所に顔を出して、演出、進行、運営、いろんないいところを盗ませてもらっています。ですから、たぶんもうしばらくはまた地道に経験を積み重ねて、より精度を高めて、チーム全体でやれることを増やしていくんじゃないかなぁ、と思っています。
 もしシーズン2を僕がやらせてもらうとしたら、また1から考えなおすところからスタートします。5つのジャンルから選んだ5つのゲームでいいのか、東西対抗戦でいいのか、とか……。もしかしたら、いままでのRed Bull 5Gとは全然違うものになっているのかもしれません。同じことを繰り返すだけでは、やはり意味がないと思うので。
 この5年の間、Red Bull 5Gに携わってくださったデベロッパーのみなさん、パブリッシャーのみなさん、プレイヤーのみなさん、メディアのみなさん、来場、視聴してくれたみなさん、スタッフのみんなには本当に感謝しています。もし、「俺も一緒になんかやりたいぞ」って思っているプレイヤーさんがいたら、ぜひご連絡を! 一緒にイベントラッシュを楽しみましょう(真顔)。

最終更新:6/6(火) 21:23
ファミ通.com