ここから本文です

止まらない中国の「不都合な投機」 起こるのはバブルの再膨張

6/7(水) 18:50配信

ZUU online

中国に関するネガティブ情報はなかなか当たらない。現時点において、中国共産党の一党独裁体制は崩壊せず、中国経済はハードランディングしていない。不動産バブルも、理財商品バブルも、負債バブルも、破裂することなく現在に至っている。数十年に渡り、こうしたネガティブ情報は外れ続けているが、それには、決定的な理由がいくつかある。

それは、日本や欧米諸国型の自由主義、資本主義体制を基礎に経済、社会をウォッチしているからである。過去のバブル崩壊の類似点ばかりを探しているが、相違点や特殊性についてほとんど触れようとしない。結果が異なるのだから、それらについてもっと詳しく分析し、客観的な立場からなぜバブルが崩壊しないのかを研究することが重要であろう。

相違点や特殊性として、最も指摘しておきたいのは、中国社会全体が、政治的な指導層から末端の一般住民に至るまで、「自己の利益を最大化するために全力を尽くそうとする」人々で溢れている点である。

それが中国経済の高成長を支える最大の原動力である。しかし一方で、どんなに規制を強化しても、どこからともなく投機が沸き起こり、いろいろな局面でバブルを発生させる。そうした弱点も、あわせもっている。

■上場会社の株主、高級幹部による投機行為が発覚

中国証券監督管理委員会は5月27日、「上場会社における株主、董事、監査役、高級幹部の自社株売却に関する若干の規定」(規定)を発布、同日、上海、深セン証券取引所は具体的な実施細則を発表した。

これまで彼らへの規制がなかったわけではない。全く同じ内容の規定が存在している。それでも、彼らは規制の網を掻い潜り、当局にとって不都合な投機的取引を行った者が目立ったために、規制を再度強化したのである。

どういった行為が横行したのか? 以下に、その一例を示しておく。

深セン証券取引所の中小企業板に第一創業(002797)という小型の総合証券会社が上場している。4月28日の終値は16.04元(修正株価、以下同様)であったが、5月に入り急落、5月11日から3日連続でストップ安となり、4月に新しくできた規則によって売買停止となった。3日間の売買停止期間を経て19日には取引が再開されたが、下落は止まらず、5月23日場中では8.02元まで下げている。その後は少し戻しているが、6月6日終値は9.25元に留まっている。

ファンダメンタルズの面では、売られる材料は全くなかった。株式需給面に大きな変化があったために、急落したのである。

同社の上場は2016年5月11日である。上場前の株数は1970百万株で、公募で2189百万株を増資した。この内、1年間の売買禁止制限のかけられた株式が1970百万株あり、これらの株は36社の株主によって保有されたが、これらの大半は、投資ファンドであった。

公募価格は10.64元。上場後、1か月で株価は急騰、その後も高値圏で推移し、11月14日場中では45.56元(その後の権利落ち修正株価では28.40元)まで上昇した。PERは業界平均と比べ桁数が一桁違っており、投機的な取引が行われたのは明らかである。

■IPO株を担保に資金を調達、投機規模を拡大

流通株が少ないので株価を上昇させるのは簡単だ。売買制限のかかった株を持つ株主(非流通株主)は、手元の同社株を担保に資金を借り入れ、市場で同社株を買い上げた。株価が4倍以上になれば、IPO時に投じた資金の倍程度の資金を調達することができる。こうしてレバレッジを拡大し、さらに別の中小型株に集中投資することでその株の株価も釣り上げ、その含み益を利用して、再投資を続ける。目いっぱいに“利益の最大化”を目指したのである。

売買制限は1年である。非流通株主たちは一部を除き、今年に入り、場中で買った株を密かに処分し、担保も解消した。

2017年5月11日、売買禁止制限が解除された。非流通株主たちは一斉に売りに出た。しかし、規制があって、そのまま市場で自由に売ることはできない。どうするかといえば、まず、証券会社などとブロック取引を行い、証券会社が日中取引を含め制限なく売り浴びせる。非流通株主たちの簿価は安いので損はない。

しかし、彼らは単に利益確定売りを出しているのではない。一斉に売りを浴びせ、自分たちが全部売り切るまで株価を異常に安い水準まで下げた後、売ってできた潤沢な資金で買いに出るつもりであろう。

今回の規定の主な趣旨は次の4点である。
(1)証券会社などとのブロック取引を通じて法の目を潜る“過橋減持”を取り締まる
(2)持ち株比率が5%に満たない株主に対しても、売買解禁後の取引に制限を加える
(3)ディスクロージャー制度を見直し、一部の大株主、取締役、監査役、高級幹部が内部情報をもとに有利な取引をしないよう徹底的に取り締まる
(4)役職を辞任することで規制を回避し、売却を行う“悪意の売り”について取り締まる

■「不都合な投機」の発生は防げず あり得るのはバブルの膨張

第一創業の件は氷山の一角に過ぎない。今回の規定は、4月以降の急落で問題点を当局が洗い出した結果、明確になった不都合な行為への対応策である。彼らは法を犯したわけではないので、罪には問われない。

今回の件で中国の証券市場は多少公平になるかもしれない。しかし、株式市場から不都合な投機を排除するのは困難である。これまでがそうだったように、今後も、しばらくすればまた不都合な投機が別の角度から発生するだろう。

株式市場に限らず、投機のチャンスは不動産市場にも、金融市場にも広く存在する。中国は様々な市場で欧米市場の尺度から見るとバブル状態(投機が横行する状態)の市場が散見される。しかし、当局は十数年かけてそうした状態を一つ一つ潰そうとしてきたが、モグラたたきのような状況で、全体としてみれば、潰れるどころか膨らんでしまっている。中国経済のハードランディングはありえない。あり得るのはバブルの再膨張だけであり、それを防げるのは共産党だけである。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/

最終更新:6/7(水) 18:50
ZUU online