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Appleは今後も開発者に支持されて勝ち続けられるか WWDC 2017の着眼点

6/7(水) 6:25配信

ITmedia PC USER

 米Appleが年に一度、自社プラットフォーム向けの開発者を集めて開催する開発者会議「WWDC 2017」が、カリフォルニア州サンノゼ市にあるコンベンションセンターで開幕した。期間は6月5日から9日(現地時間)までだ。

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 現在、Appleは「iPhone」と「iPad」向けの「iOS」、「Mac」向けの「macOS」、「Apple Watch」向けの「watchOS」、「Apple TV」向けの「tvOS」という4つのプラットフォームを展開。それぞれについて、2017年に施される改良の一部を説明した。

 加えて例年にないほど多くのハードウェア製品も同時発表している。開発者向けイベントらしく、ワークステーションクラスの高性能を持つ「iMac Pro」を年末に発売することを発表したほか、通常の「iMac」も順当にハードウェアを第7世代Intel Coreにアップデート。「MacBook」および「MacBook Pro」も同様だ。MacBookについてはプロセッサの強化だけでなく、キーボードがMacBook Proシリーズと同等のものに置き換えられている点も大きい。

 その他、パソコンに近い作業性を目指してファイルマネージャーやドラッグ&ドロップ操作、マルチウィンドウ操作にマルチタスクなどを新しい「iOS 11」と共に実現する「iPad Pro」の新型機も注目される製品だ。

 360度取り囲むように配置した6つのマイクアレイと7つのビーム型ドライバを用いたユニークかつインテリジェントなホームオーディオ製品「HomePod」も、その詳細は明らかではないものの、興味を引く製品となっている。

●支配側に回ったAppleを開発者はどう見るか

 しかし筆者は今回、別の視点でWWDC 2017の基調講演を見ていた。

 自由な発想力を生かしたアイデアをソフトウェアの力で具現化し、新しい挑戦を続けていきたいーーそんなエンジニアたちにとって、Appleは今後も心地よい、あるいはカッコいい、先進的でチャレンジしがいのある「場」を提供できるのか。Appleの元でそうした場が生まれていきそうだという期待感を持ってもらえるようなメッセージを発信できるのか、という視点である。

 現在のWWDCは、沈みかけた船(昔日、最悪期だったApple)の元に集ったMacとAppleに忠誠を誓う開発者の集会ではない。もちろん多くのイノベーションにより階段を駆け上がったAppleにエキサイトし続けている開発者もいるだろうが、現在のAppleはデジタルワールドの中における「支配者」側に回っている。

 筆者はMicrosoftの取材も長く行ってきたが、今のAppleがもたらしているプラットフォーマーと開発者の関係性としては、Windows 95によるイノベーションをWindows 2000~XP(およびWindows Server 2003)の時代に、1つの完成形として結実させたころのMicrosoftにも近い印象を受けている。

 すなわち、安定したビジネス基盤を支えるプラットフォームとしての慎重さや節度、インストールベースを守っていかねばならない側面と、開発者の持つ発想力を具現化するためプラットフォームの進化をけん引していくイノベーターとしての側面の両方を求められ、バランスを取らねばならない局面に来ていることだ。

 もっとも、別の視点から見ればMicrosoftとAppleは全く異なる状況にある。

 MicrosoftのWindowsは個人向けパソコンの基本ソフト(OS)を出発点に、組織を支え、企業全体を支え、そしてクラウドの基盤となる技術へと向かった。

 「Surface」などの事業にみられるように、「個」から遠ざかりすぎないようにはしているものの、軸足はよりエンタープライズやクラウドにある。これは彼ら進んできた道を考えれば理にかなった方向だ。個人ユーザーの視点から距離が遠くなったとしても、彼らとしては理にかなった方向で進んでいる。

 一方、Appleの軸足は個人向けの製品だ。iPhoneはもちろん、ビジネスパーソン向けに劇的なアップデートが発表されたiPad Proも個人にひも付く商品特性を持つ。ユーザーとの接点を大切にし、そこでの体験を丁寧にプロダクトデザインという形で演出するが、それだけでは不十分だ。そこにいくばくかのスパイス(多くの人は何らかのイノベーション、ライフスタイルの変化を願う)を振り掛けることが、個人向け製品には重要となる。

 なぜなら、パソコンであれ、スマートフォンであれ、タブレットであれ、コンピュータをより魅力的なものにするのは、アプリケーション開発者の発想力だからだ。

 画期的なコンピュータ製品、開発環境、ハードウェア、それらの組み合わせに開発者が集い、楽しみながら自らの発想を具現化していくことで、プラットフォーマーが想像もしていないような新しい用途が開拓されてきた。

 古くはIBMやDEC、Microsoft、Appleなどがプラットフォーマーとして成長したのは、開発者たちにとって魅力的な環境を提供してきたからに他ならない。言い換えるならば、新たな発想力を持つ新しい世代の開発者たちを引きつけられるプラットフォームでなくなってくるとモーメンタムは急速にしぼんでいき、保守的な事業スタイルへと移行していかざるを得なくなる。

●アプリ開発のハードルを下げることで活性化狙う

 まるでWWDCの説明をしていないが、話を戻そう。今回の基調講演における一連の発表では、Appleは開発者たちとの関係強化を望んでいるのはもちろん、新たなフロンティアを共に開拓しようというメッセージがちりばめられていた。

 もちろん、実際にそれらがどこまで「夢」を見させてくれ、夢を追うことで「実利」を得ることができるのかなどは検証が必要だろう。しかしいくつかの切り口で、Appleの考えるデベロッパーリレーションの方向性を垣間見ることができた。

 中でもはっきりとしているのは、アプリ開発のハードルをさまざまな面から下げようという意図が見えることだ。

 今回のWWDCには、最年少アプリ開発者として10歳のユマ・ソエリアントさん(オーストラリア)、最年長開発者として82歳の若宮正子さんが特別ゲストとして招待され、世界中から集まる開発者と交流を深めているが、ティム・クックCEOの基調講演の中でもこの2人が大写しで紹介された。

 このような活動は急に始めたものではなく、長年取り組んできた動きの一環で、2014年にオリジナル開発言語の「Swift」を発表してからはさらに踏み込んで、プログラミングに参加するための間口を広げる活動をしてきた。2016年のWWDCでプログラムコード作成を助けるiPad向けアプリの「Swift Playgrounds」が発表されたことも記憶に新しい。

 もっとも、フレンドリーな環境を構築し、プログラミングの間口を広げることで新しい層の発想を取り込むことはできるが、それだけでは前進にも限りがある。そこでAppleは今回、iOS 11にいくつかの開発者向け機能を用意した。

 「ARKit」はAR要素をアプリに取り入れるためのクラスで、Unity、Unreal、SceneKitといった3Dライブラリと組み合わせて利用できる。ARKitはiOS 11が動作する全てのiPhoneとiPadで動作可能なため、iOS 11がリリースされれば、間もなく世界最大のARプラットフォームとなるだろう。

 多くの端末で利用できる理由は、実装がシンプルだからだ。カメラで深度を計測しようとは一切せず、テーブルの形状が分かるようカメラの方向を動かしながらスキャン。その結果を元に「面」を認識し、ARオブジェクトを配置する。

 実際にどこまで複雑なことができるかはハンズオンセッションでも見えなかったが、発想次第で誰もが簡単にARアプリを開発できるカジュアル性に重きが置かれているように感じられた。

 他にもニューラルネットワーク技術を用いた機械学習や自然言語処理を支援する機能も提供される。間口を広くすることの次は、奥を深く掘り下げたアプリ開発が行えるよう足元を固めているという印象だ。

●アプリ経済の健全さを重視するApple

 もちろん、アプリ開発の間口を広げ、発想力を生かしたプログラミングをサポートする環境を提供したとしても、経済的な循環が滞るようでは広がりには限りがある。

 しかし、アプリを中心とした経済モデルを健全に働かせることこそが、プラットフォームを健全なものとする背骨であることをAppleはよく分かっている。

 現在、App Storeでは毎日1800億本ものアプリがダウンロードされ、これまでに700億ドルの収益が開発者に還元されたという。こうした健全なアプリ経済を大いに助けているのが、実働するiOS機器にインストールされるiOSのバージョンがほぼ統一されていることだ。

 iOS 10は実働するiOS機器の86%にインストールされているが、Android 7が動いている製品はAndroid端末全体のわずか7%にすぎない。Android端末でGoogle Playを利用するために必要な認証は、わずかな更新でも再度認証を得なければならず、また大きなアップデートでは開発のやり直しが必要となる部分も多いなど、現実的にバージョンを合わせていくことが難しい面もあるからだ。

 アプリ開発者から見ると、これは最新バージョンのOSが持つユニークな機能を使うことへの躊躇(ちゅうちょ)となる、とAppleは主張する。言い換えれば、新しいiOSをリリースすれば、高い確率でアップデートしてくれる自信があるからこそ、ARKitのように新たな機能を加えるだけで、「世界最大の○○プラットフォーム」が出来上がるわけだ。

 これはかつての「AirPlay」、今回iOS 11で発表された「AirPlay 2」などが、突如として多くの対応機器に囲まれたのと同じ仕掛けと言える。

 こうしたアプリ経済の健全さを強化するため、AppleはiOS 11でApp Storeのデザインを全面改修する。具体的な機能は割愛するが、新たなアプリとの出会い、発見が生まれるよう、見た目のデザインだけでなく構造全体、アプリの解説フォーマットなどにメスが入る。ユーザーインタフェースデザインの面では「Apple Music」のアップデートに近い。

 現在のApp Storeのデザイン、運用では、どうしてもジャンルごとに順位が固定化し、新たなチャレンジャーが逆転していくシナリオが描きにくい。それはゲームアプリなどで顕著だが、Appleがアプリとユーザーの出会いを上質に演出する仕組みを本当に作り上げることができれば、状況は変化する可能性がある。

 GoogleのAndoridに対して大きく差をつけている分野でもあるだけに、大幅な改修が成功すれば、開発者たちのモチベーションを上げる一助となるかもしれない。

[本田雅一,ITmedia]

最終更新:6/8(木) 11:34
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