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「ニクソン回顧録」で読むトランプの命運

6/7(水) 12:01配信

ニュースソクラ

ニクソンは検察官解任から10か月で辞任

 米国史上、任期途中で辞めた大統領は、ウォーターゲート(WG)事件のニクソンただ1人だ。トランプ大統領は2人目になるのだろうか。ロシアゲートの先読みに「ニクソン回顧録」は必読文献だ。

 8日にコミーFBI(連邦捜査局)前長官の議会証言が控えているが、彼の解任は、ニクソンがコックス特別検察官を切った「土曜の夜の虐殺」(司法長官・副長官も辞任)に比べられる。

 「かなりの反発を受けるだろうと予測してはいたが、実際に起きた反発の大きさには驚いた」――ニクソンは、WG事件が米国全体に与えた影響の深刻さに初めて気づいたと書く。解任は非難の嵐を巻き起こした。

 発端の民主党本部盗聴犯の逮捕(1972年6月)から辞任まで2年2か月。コックス解任(73年10月)後の10か月は、坂道を転がるようだった。

 73年の暮れ、大統領の別荘キャンプ・デービッド滞在中、メモ用紙の余白に「ここでクリスマスを過ごすのは、これが最後か」と走り書きをしたニクソンだが、瀬戸際まで、弾劾逃れの票読みをし、不利な証拠となる自身の会話の録音テープ提出を拒み続けた。

 下院の過半数で訴追、上院の3分の2以上で罷免となる弾劾を阻もうと、少数与党の共和党票を固め、保守的な南部の民主党議員も取り込む作戦だった。しかし、後任の特別検察官の捜査や、議会の調査が進むにつれ、中間選挙を意識した議員の離反が相次いだ。

 録音テープは、最高裁が判事の全員一致で提出命令を出した。テープが公開され、盗聴事件の6日後にハルドマン補佐官と交わした会話が、司法妨害の“スモーキングガン”(銃口から硝煙をあげる銃=動かぬ証拠)と見なされ、ほどなくニクソンは辞任した。

 ロシアゲート捜査は(1)大統領選介入でロシアとトランプ陣営の共謀があったか(2)仮にあったとしてトランプは知っていたか(3)トランプが捜査を妨害したか―などの点で、WG事件の録音テープのような“スモーキングガン”が見つかるか、がカギだ。

 上下両院とも共和党が多数で、弾劾のハードルは高そうだが、捜査の進み具合では、来秋の中間選挙を前に、寝返る共和党議員が出るかもしれない。

 WG事件も最初は重大視されなかった。ニクソン再選委員会の関与は知られていたが、大統領選には影響せず、民主党のマクガバン候補に圧勝している。

 雲行きが変わるのは、2期目に入って3、4か月後。捜査が「もみ消し工作」に及び、ホワイトハウスの大統領側近らが捜査対象になると、責任の押しつけ合い、仲間割れが起きた。ニクソンが「両腕」と頼んだ2人の補佐官が辞任。解雇されたディーン法律顧問が議会で、もみ消し工作への大統領の関与を証言した。

 また、大統領執務室に録音装置が設置されていることも明るみに出る。コックスが録音テープの証拠提出を執拗に求めたことが、解任の引き金になった。

 ロシアゲートでは、ロシアに内通した疑惑で辞任したフリン前安全保障担当補佐官に加え、トランプの娘婿のクシュナー上級顧問も捜査対象になった。政権側は、弁護士らを集めて捜査に対抗する“作戦司令部”を設けるようだ。WGを教訓に、仲間割れ、ホワイトハウスの内部崩壊を警戒してのことだろう。

 コックス解任と同様、コミー解任も、火に油を注ぐ結果になった。司法省が特別検察官に任命したモラーは、コミーの前任のFBI長官。硬派で知られ、捜査に手心はあり得まい。

 WGでは、本筋と関係ないニクソンの脱税露見や、アグニュー副大統領の州知事時代の汚職発覚・辞任なども政権不信に輪をかけた。納税申告の公表を拒んでいるトランプ本人の税務疑惑や、ロシアでの不品行などが裏付けられれば、政権のダメージになる。

 また、仮に宿敵ロシアと結託して大統領選を歪めたことが立証されれば、ライバル政党盗聴よりもはるかに重い利敵行為だ。共和党もかばえなくなる。

 追い詰められてもニクソンは粘ったが、飽きっぽいトランプなら、あっさり政権を投げ出すかもしれない。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:6/7(水) 12:01
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