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榊原経団連会長 財政審と諮問会議の「二重人格」

6/7(水) 13:00配信

ニュースソクラ

矛盾が首を絞めることに?

 「財界トップ」に位置づけられる経団連会長、榊原定征氏(東レ相談役最高顧問)の財政再建に関する発言が注目されている。

 2014年6月に経団連会長に就任した榊原氏は同年9月から、首相が議長を務める「経済財政諮問会議」の民間議員となっているが、今年4月からは財務相の諮問機関である「財政制度等審議会」(財制審)の会長にも就任した。

 そもそも諮問会議の発足は、財務省から予算編成などの主導権を首相官邸に移す狙いがあった。一方、財制審はこれまでは財務省の立場を代弁しがちな審議会だった。過去には主張が対立しがちだった二つの会議に属したことで、「二重人格」をうまくこなせるのだろうか、と危惧する声も出ている。

「あれ? 榊原さん何言ってるんだ?」

 財務官僚が驚いたのが、経団連会長として記者会見に臨んだ5月22日の榊原氏の発言。財制審でも諮問会議でもない場であるため、財界トップとしての本音が出やすい記者会見と言える。

 榊原氏は、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2020年度に黒字化する政府の財政目標について「旗を降ろすべきではない」と財務省的なことを言いつつも、目標を実現するのは「高いハードルだ」と指摘したうえ、「1~2年の遅延は起きるかもしれない」と語った。

 PBは財務省が長年、財政再建を進める上で最も重視してきた指標だ。その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収と税外収入でどれだけ充当できているかを示す。プラスなら、借金に頼らずに国債の元金返済・利払い以外の支出を賄えていることになる。

 国債への利払いを除いたベースで財政収支が黒字化したかどうか、を示している。国債への利払いも含めた全体としての財政収支がトントンになるまえに達成しておきたい、第一目標といえる。

 しかし、PBですら、1990年代初めから赤字が続いており、掲げられる黒字化目標は逃げ水のようにかなわなかった。達成年度がなんども先送りされてきているのがこれまでの経緯だ。

 とはいえ、財務省としてはPB黒字化の「旗を降ろすべきではない」は、まだまだ大前提。財制審会長に、「高いハードル」「1~2年の遅延は起きるかもしれない」と言われてしまっては、身内から裏切られたようなものだ。

 榊原氏の前任の財制審会長は、東大教授などを歴任したマクロ経済学が専門の経済学者、吉川洋氏だった。財務省の期待通りに運営してもらえたが、残念ながら発信力には乏しかった。経団連会長として丸3年が経とうとする榊原氏は、ベアを巡る政府とのやりとりをそれなりにこなしており、榊原氏への財制審会長の就任要請は、より強力な援軍を得たいとの思惑もあったとされる。

 過去を振り返ると、財制審会長を兼ねる経団連会長は2001~03年に今井敬氏の例がある。今井氏は財制審会長としても相当な発信力を持ち、当時は年金改革などに財政規律重視が生きたとされる。

 2019年10月の消費税率10%への引き上げが予定通りに実行されても、それだけではPB黒字化は難しくなっている。そもそも消費税率が引き上げられるかどうかを政府内でも疑問視する向きがある。

 それだけに財務省としては財制審会長に経団連会長の榊原氏が就くことでその発信力に期待するが、「財務省内」「省外」の発言は時と所によって変わりうることが今回、明らかになった。

 一方、諮問会議は、小泉純一郎政権下で存在感を高めた組織。例年6月にまとめる「骨太の方針」(経済財政運営の基本方針)は、中期的な経済政策を打ち出すものとなり、今にいたる。財務省から経済政策の司令塔の役割の一部を奪い取ることになった。

 ただ、小泉氏はもともと「大蔵族」で財政再建にも理解があり、「骨太の方針」などで財政規律を大きく緩めることはなかった。

 しかし今は、リーマン・ショック級のことが起きなくても消費税率引き上げを先送りした安倍政権だ。2017年3月末には、榊原氏を含む4人の民間議員の文書に「社会保障以外の分野の政策充実を」との趣旨が盛り込まれていた。

 社会保障費が少子高齢化による「自然増」で膨らむ中、他の分野はせいぜい横ばいで不満も渦巻く。諮問会議がそんなことを言えば、財務省と対立することになりかねない。

 実際、アベノミクスの最大の柱である日銀の異次元緩和の限界が指摘され、デフレ脱却の道筋が不透明な中、政府・与党内では財政出動の必要性を説く声が強まっている。

 諮問会議民間議員と財制審会長を兼ねる榊原氏の立場はいわば、予算の要求側と査定側を兼ねるようなもの。「利益相反」の要素をはらむ。経団連会長は任期通り2018年初夏までと見られているが、それまでは経済諮問会議の民間委員を続けるのは確実で、「二重人格」はあと1年続く見込みだ。

 財務省官僚にねじを巻かれたのだろうか。榊原氏は25日、教育無償化の財源は教育国債やこども保険とはせず、税を財源にと麻生財務省に釘を刺した。さらに会見では、PBに関しても国際公約であり、至上命題と語っている。PBの達成が遅れる可能性があっても「目標」としては堅持すべきという財務省の立場を代弁した形だ。

 民主党政権からの交代を経て、経団連と安倍政権の不協和音の解消を最大の使命としてきた榊原会長体制は、安倍首相への協力姿勢が際立つという「宿命」を抱えている。経済政策について「いずれ発言の矛盾で身動きが取れなくならないか」と、霞が関の関心を集めている。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:6/7(水) 13:00
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