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世界一辛いトウガラシ、「死にいたる」かどうかは人による

6/7(水) 21:10配信

ギズモード・ジャパン

新たな世界一辛いトウガラシとして話題になっている「ドラゴンの息(Dragon’s Breath chilli)」。そのニュースがネット上を駆け巡ったときには、人が死にいたるほど辛いということもあって話題になりました。しかしシアトル在住のサイエンス・ライターJake Buehlerさんが、この新種トウガラシの致死性について米Gizmodoで持論を展開しています。

【画像】新たな世界一辛いトウガラシとして話題になっている「ドラゴンの息(Dragon's Breath chilli)」

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トウガラシもみんながみんな平等に作られたわけじゃありませんから、そんなに辛くないものもあれば、激辛なトウガラシもあります。ですが、新たに開発された「ドラゴンの息」は近いうちに“世界一辛いトウガラシ”の座につくことになるでしょう。赤っぽいオレンジで指の爪ほどの大きさのこのトウガラシは、英国ウェールズの園芸家マイク・スミス氏とノッティンガム・トレント大学とが、パフォーマンスを向上させる植物性食物の実験のなかで、意図せず作りだした品種です。スミス氏は、このトウガラシが現在の“世界一辛いトウガラシ“記録保持種であるキャロライナ・リーパーの1.5倍以上も辛み成分を持つ、世界一辛いトウガラシだと語っています。つまり、とてつもなく激辛だということになりますが、この新種のトウガラシは報道されていように「致死的に辛い」というわけではないのです。

「ドラゴンの息」を検査してもらったスミス氏は、スコヴィル辛味単位(SHU)で248万を記録したと主張しており、この数値がギネスに認定されれば世界一辛いトウガラシの新記録になります。このトウガラシについて最初に報じたThe Daily Post紙には「食べた人の気道に炎症を起こし、閉塞させる種のアナフィラキシーショックを引き起こしてしまう可能性がある」と警告されていました。このトウガラシのいわゆる致死性があらゆるところでニュースとして取り上げられるまで、それほど時間はかかりませんでした。まるで「ドラゴンの息」のようにインターネット中に拡散したのです。

ウェールズの農家が致死性のある「ドラゴンの息」のようなトウガラシを作った。

「ドラゴンの息」の辛さは多くのトウガラシと同じように、感覚神経をだまして脳に文字どおり燃えていると伝達するとカプサイシンによるものです。食べすぎると、嘔吐や腹部の痛み、それ以上に摂取した場合は死といった深刻な結果になることも…。ネズミを使った研究では、カプサイシンの最小致死量は体重1kgあたり100mgだと分かりました。標準的な成人の体重は58~81kgなので、ネズミの数値からすると人間にとっての致命量は5.8~8.1gの間です。

スミス氏が主張したように、「ドラゴンの息」が248万SHUを記録するなら、平均して157万SHUのキャロライナ・リーパーよりも100万SHUも辛いということになります。SHUは希釈倍率に基づいていて、例えば1,000SHUは、乾燥したトウガラシ1gの辛みが感じなくなるまで1,000回薄めたということになります。純粋なカプサイシンの場合だと、SHUは怒涛の1,600万という高数値。乾燥したトウガラシ1g当たりに含まれるカプサイシンの含有量とSHUは換算できるので、「ドラゴンの息」の248万SHUは1g当たり0.155gのカプサイシンが含まれていることになります。しかしトウガラシは約85%が水分なので、新鮮な「ドラゴンの息」1g当たり0.023gのカプサイシンが含まれているという計算ですね。

ドラゴンの息は世界一辛いトウガラシ。食べれば死に至ることも。

そのため、最小致死量となる5.8gのカプサイシンを消費するには、250g近くの「ドラゴンの息」を食べる必要があります。大きさが2倍くらいのハバネロサイズのトウガラシなら、25~30個ほどになります。

現実的にみて、たった1個で人を殺せるほど辛いトウガラシを育てることはおそらく不可能でしょう。なぜなら、そのトウガラシが10gほど(ハバネロからハラペーニョほど)の大きさだと仮定すると、重量からして半分以上の組織がカプサイシンでなくてはならないからです。となると、水分は言うまでもなくトウガラシの構造的な部分がほとんど残らないことになります(「ドラゴンの息」は約2.3%がカプサイシン)。もし、さらに大きくて辛いトウガラシを育てられるのであれば、単体でも致死的なトウガラシを作れるかもしれません。「ドラゴンの息」の2倍の辛さでピーマンほどの大きさの変種であれば理論上は可能ですが、生物学的に実現はできないでしょう。

この「ドラゴンの息」トウガラシは辛すぎて、死に至ることも!

しかし、そうだとするとThe Daily Post紙に掲載されていたアナフィラキシーショックについての警告はどうなるのか? あれは一般的な医学上の警告にすぎません。

アナフィラキシーショックは、アレルギー反応が起きると発生します。世の中には何万ものアレルゲンが存在していて、アレルギーを持つ人にとってはそのどれかが命を脅かすアナフィラキシーを引き起こす可能性があるのです。その一方で、注射を行なう実験を含む数十年の研究にもかかわらず、カプサイシンがアナフィラキシーを誘発したという事例はありません。むしろカプサイシンや似ている化学物質は、アレルギー反応を弱める手段として研究されています。

とはいうものの、トウガラシには他のアレルゲンがあることも。トウガラシから派生したパプリカとカイエンヌペッパーを含むスパイスアレルギーと言うものが存在しますが、それは花粉のような物質によるものです。ピーマンに対しても深刻なアレルギー反応がありますが、それら全ては誰かが「ドラゴンの息」にアレルギー反応を起こしてしまうかもしれない可能性を医者が排除できないということなのです。同じような警告は、アドビルやアスピリンを含め、深刻な反応を持った人がいるあらゆる医薬品やサプリには一般的なものです。

つまるところ、「ドラゴンの息」によるアナフィラキシーについて心配しないといけないのは、もう既にトウガラシやそこから派生した種にアレルギーがある人たちだけであって、この新種をハラペーニョと同じくらいに恐れる人たちなのです。開発者のスミス氏としては、「ドラゴンの息」の果肉から抽出した強力なオイルは麻酔として使える可能性があり、今後は医療目的での利用を考えているとのこと。

そういうわけで、「ドラゴンの息」は言うほど致死的ではないことがわかりました。鉄のような胃を持つ激辛好きにとっては喜ばしいことかもしれませんね。とはいえ、実物を食べるチャンスはまだまだ先になりそうです。

image: Tim Boyle/Getty Images News/ゲッティ イメージズ
source: Jake Buehler, Food&Wine, The North Wales Daily Post, ScienceDirect(1・2・3・4), BioMed Central, HortScience, Hannaone, ScientificResearch, SpringerLink, Twitter(1・2・3 )

Jake Buehler - Gizmodo US[原文]
(たもり)