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デジタルビジネスの時代に必要な「人材マネジメント」とは

6/8(木) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 現在のビジネス界では、テクノロジーを活用して業務を変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」がトレンドになりつつある。特に、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ分析、ロボティクスなどのテクノロジーは、既存の業務を大幅に効率化すると考えられている。

【デロイトが考える「“Future of Work”(労働の未来)」】

 このような状況下で企業が成功を収めるためには、テクノロジーを使いこなせる人材を採用し、適切な部署に配置するほか、ITリテラシーを高める研修プログラムを考案するなどの「HR」(Human Resource)分野を変革する必要がある。

 では、具体的にはどのような手法が存在するのか。デロイトが、世界140カ国のの人事およびビジネスリーダーに実態調査を行い、その結果を踏まえて「デジタル時代のHRの在り方」を提言した。

●「スピード感」と「協働」が成功のカギ

 デロイトの調査によると、現在の企業の組織形態は、社長を頂点とする“ピラミッド型”が大半だという。この場合、意思決定の仕組みはトップダウン型で、若手社員は管理職の許可がなければアイデアを実行に移すことはできない。

 しかし、デロイト トーマツ コンサルティング執行役員ヒューマンキャピタルリーダーの土田昭夫氏は、「配車サービスの米Uberや、民泊サービスの米Airbnbなど、短期間でデジタルビジネスに成功した企業は、ヒエラルキーにとらわれない組織デザインを導入している」と指摘する。「具体的には、IT部門などの他部署とも階層なく柔軟に協働する“ネットワーク型チーム”と呼ぶ組織形態を採用。『Slack』や『Skype』などのチャットツールも積極的に導入し、無駄なミーティング時間の削減も行っている」と話す。

 デロイトによると、調査対象のうち、チャットなど協働のためのツールを「試験導入している」と答えた企業は全体の73%と多数で、他部署との協働を実現する上で最低限の環境は整ってきているという。土田氏は「企業は今後、社内の組織形態を変革し、スピーディーな意思決定を可能にする体制を構築できるかが成功のカギになる」と分析している。

●デジタル時代に活躍できる人材を採用し、逃がさないためには?

 有能な人材を採用することも、企業にとって非常に重要だ。土田氏は、採用を巡る企業動向について「日本ではまだ発展途上だが、米国ではAIを使って人材の能力を診断するビジネスなどが続々と誕生している」と話す。採用活動にはかなりのコストを要するため、企業はテクノロジーを活用して費用を削減しつつ、いかに優秀な人材を確保するかが競争力を左右するという。

 土田氏は、自社の魅力を効率よくアピールして応募者を集めつつ、能力を正しく評価するための施策として「ゲーミフィケーションやシミュレーションを活用した選考が有効」と提言する。

 ただ、有能な社員を採用できたとしても、早期退職や他社への流出は避けたいところだ。そこで、社員を定着させるための手段として、土田氏が重要視するのが、企業が取り組むカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)の考え方を従業員に当てはめた「エンプロイー・エクスペリエンス(従業員体験)」だ。この考え方を人材管理に応用すると、社員を年代、性別、求める働き方、雇用形態ごとに区分し、それぞれに応じた制度を設けることで、満足度を向上させる施策づくりが可能になるという。

 土田氏は、「現在、『働き方改革』が話題になっているが、残業を減らすと喜ぶ人もいる一方、『もっと仕事をさせてくれ』と不満をもらす人も現れる。仕組みづくりを一律で行っていると、働きたい人は辞めてしまう」と説明。「昇進についても、スローなキャリアでいい人もいれば、早く出世したい人もいる。現代ビジネスにおける人材管理では、社員を細かなセグメントに区分し、それぞれに良いエンプロイー・エクスペリエンスを提供できるような柔軟な制度を取り入れるべき」と話す。

 しかし、今後はテクノロジーの発展に伴い、多様なIT人材が求められるため、正社員だけでは事業を運営できないケースも考えられる。こうした中で必要な人材を確保するための施策として、土田氏は「組織が成長するためには、特定のIT部門の正社員だけに頼るのではなく、必要な時に必要な人材に来てもらう“人材のアウトソーシング”を行うとよい」と提言する。

 具体的には、人材シェアリングサービスやクラウドソーシングを活用して有能なフリーランサーを雇用し、データ分析のアルゴリズム作成などのハイレベルな業務に従事させることが効果的としている。

●「AIが人の仕事を奪う」未来に、なぜ人材マネジメントが必要なのか

 現在、一部の識者の間では、「テクノロジーの発展によって、人間の仕事がなくなる」「AIが人間の仕事を奪う」などの議論が存在する。多くの仕事をAIが担う時代が来る可能性があるにもかかわらず、なぜ「人材」のマネジメントが今後も重要なのだろうか。

 土田氏は、「ビジネスとは単純なものではなく、仕事の一部をAIやロボットに置き換えることはできるが、全てを任せることは不可能。ただ、AIやロボットなども新たな“労働力”として考え、正しく理解すべきだ」と話す。

 「人間は今後、AIやロボットを制御・メンテナンスし、うまく業務に組み込んで生産性を上げるためのマネジメント能力が求められるようになる。また、企業はこうした能力を持つ人材の育成も重要になってくる」と予測する。

 「人間にしかできないことは必ずあるため、人材マネジメントは重要であり続ける。企業は今後も、HRの発展に向けた取り組みを積極的に進めてほしい」(土田氏)