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日本代表、不満残るシリア戦はなぜ「チャンス」なのか?“ケガの功名”になる予兆とは

6/8(木) 18:41配信

GOAL

「ピンチはチャンス」という格言があるが、6月7日に行われたシリア戦の日本代表が、まさしくそれだった。

6月13日のイラクとのロシア・ワールドカップ・アジア最終予選の前に組まれたシリアとの親善試合。「修正点、改善点がたくさん出た」とヴァイッド・ハリルホジッチ監督が振り返ったように、1―1という結果だけでなく、とりわけ前半の内容には不満が残った。

シリアのスピーディでアグレッシブな攻撃に手を焼き、13分、16分と連続してシュートを許すと、攻撃でも決定的なチャンスを作れない。“良い攻撃は良い守備”からと言われるが、その守備において問題があったと分析したのは、左ウイングとして先発した原口元気だ。

「最初は前から奪いに行こうと思ったんですけど、何回か剥がされてしまったので、行きどころがうまく定まらなかった」

一方、指揮官が指摘したのは、中盤の問題だった。

「守備でも攻撃でも、相手にコントロールされてしまった。守備では我々は相手から遠すぎた。攻撃では引いてボールを受ける姿が多すぎた。前の3枚が少し開きすぎて思うようなプレーができず、ボールを持ちすぎた場面もあり、我々本来のゲームができなかった」

その背景にはいくつかの想定外があったと言える。まず痛かったのが、香川真司の負傷退場だ。前半10分、相手DFともつれ合うようにして倒れた香川が左肩を傷めて交代を余儀なくされた。日本は序盤でプレーメーカーを失ってしまったのだ。

また、3月のアラブ首長国連邦(UAE)戦で負った骨折から復帰したばかりの今野泰幸は――後半に同点ゴールを決めはしたが――トップフォームからは程遠く、今野自身も「もっと高い位置でボールを奪いたかったし、もう少し攻撃に絡みたかった」と反省を口にしている。さらに3月のUAE戦とタイ戦で2試合連続ゴールを決めた久保裕也もボールが足についていなかった。チーム全体の出来が悪かった影響もあっただろうが、攻撃面で違いを見せることができなかった。指揮官が中軸と考えていた選手たちが思うようにフィットしなかったわけだ。

だが後半、日本は攻守において本来のリズムを取り戻す。

その上で大きな役割を担ったのが、後半開始から登場した本田圭佑、53分に投入された井手口陽介、58分から出場した乾貴士の3人だった。

本田が右サイドを中心にボールに絡み、ゴール前まで飛び出せば、山口蛍と代わってアンカーに入った井手口は「人に付け」との指示どおり、持ち味である強烈なアプローチでピッチを走り回ってピンチの芽を詰んだ。原口に代わって左ウイングで起用された乾は柔らかさと鋭さを織り交ぜたドリブルでシリアの守備陣を翻弄。これには指揮官も「乾、圭佑、井手口は後半、良い形で入ってくれた。後半に入ってからは、我々がいつも見せているプレーをすることができた」と称賛を惜しまなかった。

とりわけ興味深かったのは、本田のインサイドハーフでの起用である。

久保と代わって右ウイングに入った本田は、63分に浅野拓磨が投入されたタイミングでインサイドハーフにポジションを移した。本田がこの位置でプレーするのは、日本代表では初めてのことだ。

ピッチの中央付近でボールに触る回数が増えた本田は、ときにボールをキープして時間を生み出し、ときにテンポ良くパスを散らして攻撃のリズムを作っていく。右ウイングに入って本田とコンビを組んだ浅野拓磨が、香川との違いについて言及する。

「真司さんはタイミングを見てパッと出せる方ですけど、圭佑さんはタメを作って周りを見られる選手なので、タイミングを見て走るのが大事かなと思います」

特筆すべきは、77分のシーンだ。

センターサークルの右側でパスを受けた本田がターンして前を向き、左足で一気にサイドチェンジを敢行すると、左サイドで走り出していた乾の足下にピタリと届く。それを乾が完璧なトラップからドリブルで相手DFを抜き去り、シュートへと持ち込んだのだ。

この右サイドからのサイドチェンジこそ、左利きのプレーメーカーの真骨頂だと乾が説明する。

「左利きの人は左サイドを見てくれるので、あそこで受けられる。右利きだとなかなかああいうボールは出てこないので、圭佑くんがあそこに入ることで左のワイドの選手は楽になると思います」

実はこの場面の前に二度、本田は左インサイドハーフの倉田秋と入れ替わったが、二度ともすぐに、ハリルホジッチ監督に右に戻るように指示されている。

イラク戦の会場となるテヘランのPASスタジアムについて指揮官は「フットボールをするグラウンドではないかもしれない」とピッチ状態の悪さを懸念しており、乾と本田がショートパスによって崩すのではなく、本田のロングボールによって攻める形を狙わせたかったのかもしれない。

もちろん、シリアのインテンシティが高い前半と運動量が落ちた後半とを単純に比べて後半のメンバーを持ち上げるつもりはないが、本田のインサイドハーフ起用、乾のジョーカー起用、井手口のアンカー起用に一定のメドが立ち、オプションが増えたのは確かだろう。

中でも本田のインサイドハーフでの起用は選手起用と戦術に大きな幅をもたらすことになる。これによって久保との共存が可能となるし、4―2―3―1の際にはザックジャパン以来となる本田のトップ下起用も視野に入ってくる。

もし、久保のパフォーマンスが悪くなかったら、それでも本田は後半の頭から起用されただろうか。

もし、香川のアクシデントがなかったら、それでも本田はインサイドハーフで起用されただろうか。

ある選手によれば、本田のインサイドハーフ起用は「(練習では)やってなかった」という。だとすれば、少なくとも本田のインサイドハーフでのプレーは、香川のアクシデントに乗じたテストだったと言えるだろう。前半の不出来や香川のアクシデントは想定外のことで、いわば「ピンチ」だったはずだ。それを好転させるあたりに、指揮官の采配の幅、戦術面における柔軟性が生まれてきたことが感じられる。

昨年10月のオーストラリア戦では本田を1トップ、槙野智章を左サイドバックで起用し、11月のサウジアラビア戦では大迫勇也と久保をスタメンに抜擢した。3月のUAE戦では4―3―3を導入して今野泰幸をインサイドハーフに指名し、タイ戦では酒井高徳をボランチで起用した。そして今回のシリア戦、指揮官はピンチをチャンスに変えて、さらに新しい“カード”を手にした。

ハリルホジッチ監督は試合を重ねるたびに新しいオプションにトライし、選手もそれに応えている。対戦相手や状況に応じた戦い方、選手起用が結果につながっている点は、1年後に向けた強化ステップが着実に進んでいることを示していると言っていい。ワールドカップ1年前のこの時期からメンバーやシステム、戦術を固定し、ひたすら“自分たちのサッカー”を磨いていたザックジャパンとの大きな違いが、ここにある。

果たして13日のイラク戦ではどのようなメンバーがどのポジションで起用され、どのような戦いを見せるのか――。今回のシリア戦はイラク戦だけでなく、ワールドカップ本番を見据えたとき、大きな意味を持つゲームとなるかもしれない。

文=飯尾篤史

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最終更新:6/8(木) 18:41
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