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共謀罪で露出が増えるスノーデンは英雄なのか

6/8(木) 8:19配信

ITmedia ビジネスオンライン

 最近、エドワード・スノーデンの名前を、日本でも改めて目にするようになった。

 スノーデンは言うまでもなく、元CIAの職員で、NSA(米国家安全保障局)でも勤務経験があり、NSAの機密情報を大量に盗み出して暴露した内部告発者である。現在はロシアに暮らしながら、世界中でさまざまな取材などに応じ、活動家として活躍している逃亡犯だ。

【米情報機関の活動を暴露した理由】

 これまでスノーデン関連本は内外でいくつも出版されているが、最近なぜ日本でよく名前を見るようになったかといえば、米国のオリバー・ストーン監督の『スノーデン』という映画が公開されたことや、最近日本に言及する発言が増えていたということがある。特に日本で議論が進む「共謀罪」にからめてスノーデンの名前が取り上げられるケースも見受けられる。

 スノーデンは共同通信の取材に、「参院で審議中の『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が、個人情報の大規模収集を公認することになる」と警鐘を鳴らしたという。また「テロ行為とされる『該当犯罪』は現行法でも取り締まることができる」ことから、共謀罪には反対だと語っている。

 メディア関係者と話をしていると、スノーデンとは、国家に毅然と立ち向かった内部告発者、というイメージをもっている人も少なくない。確かにそれは間違いないのだが、一方で世界的には彼に対する否定的な見方もある。かつて日本に暮らし、日本文化が大好きだというスノーデンとは、一体何者で世界的にどんな評判なのか。また、最近彼が日本について語っている話は、どこまで信ぴょう性があるのか見てみたい。

●米情報機関の活動を暴露した理由

 まずここで明確にしておくが、筆者は、NSAの世界的な監視プログラム、秘密裏また不誠実に行なっているサイバー作戦、さらには米政府のサイバー戦略などをスノーデンが告発したことには意味があると感じている。また国際情勢を取材・研究する者としても、彼が暴露したものは非常に価値のある資料だと認めざるを得ない。欧米では当時「英雄」と呼んだ人もいるし、人生をかけての行動だったこともよく分かる。

 だが一方で、スノーデンの行為が犯罪であり、米政府へのダメージが計り知れないことも理解している。この件ではこれまで何人もの米政府関係者に取材をしてきたが、莫大な予算と時間を使って国家の安全保障のために作り上げた優れた技術を公表されたことへの憤りも多く聞かれた。

 スノーデンの暴露のインパクトは、例えば日本に当てはめると、警察庁が多額の税金を投入して開発した様々な捜査技術やテクノロジーを、出入りしていた人に盗まれ、その告発者が中国または北朝鮮のような国に逃げて、そこから世界に向けて情報を次々と暴露する、といったイメージではないだろうか。逃げた先の国にも秘密情報を与えたかもしれないし、その後に亡命する国にもそれらの情報をお土産にするかもしれない――。そう置き換えれば、日本人にもこの事件のダメージの大きさは実感できるだろう。

 スノーデンを支持するサイト「edwardsnowden.com」は、1983年生まれの33歳であるスノーデンのプロフィールをこうまとめている。「2013年5月にハワイの自宅を出て、ジャーナリストのグレン・グリーンウォルドに文書を暴露するために香港に渡った。米国から出る時点まで、スノーデンは米コンサル会社ブーズ・アレン・ハミルトンのシステム分析官として、NSAで請負仕事をしていた。彼が暴露した情報は、国内外の個人のコミュニケーションを収集して保管し続けてきたNSAの能力や詳細な極秘プログラムを明らかにした」

 スノーデンは、米情報機関が行なっていた活動を暴露した理由について、2013年6月に自ら、「私は、毎日オフィスにいて日々何が行われているのかを見ていた、どこにでもいるヤツだった。だが『これらのプログラムや政策を実施して良いか悪いかは、私たちがここで決定していいことではない。国民が決めなければいけないものだ』と考えたのだ」と説明している。

●政府の極秘プログラムに目を通さず暴露したのか

 現在ロシアに暮らすスノーデンだが、そもそも情報を暴露した後の2013年8月に1年間の暫定的な亡命がロシアで認められ、2014年8月にはそれが3年間延長された。2017年にはその延長期限も切れそうだったが、2017年初めに「数年間」延長になっている。まだしばらくはロシアに滞在することができる。

 この「edwardsnowden.com」のサイトには「よくある質問」というページが設置されているのだが、そこには一部ジャーナリストらが暴露当初から指摘してきた質問と、それに対する答えが記されている。質問は「なぜスノーデンは、(NSAから盗み出した)すべての書類を一度に暴露しなかったのか」というものだ。

 スノーデンはもともと機密情報を含む20万ファイルを盗んだとされていたが、米下院情報特別委員会が2016年に公表した報告書によれば、その数は150万ファイルに上るという。いずれにしても莫大な機密文書が持ち出され、ジャーナリストのグリーンウォルドとその仲間に手渡されたわけだが、そもそもスノーデンは自分が盗んだ文書のすべてに目を通しておらず、盗み出した情報をすべて把握しないままジャーナリストに提供していたと指摘されていた。

 このサイトによれば、その答えはこうだ。「あちこちでグリーンウォルドが言っている通り、エドワード・スノーデンは文書を公表する前に、ジャーナリストらが公表すべきとする文書を事前に調査・分析できるよう文書を手渡した」という。

 ただ内部告発者が、政府の極秘プログラムのすべてに目を通していないまま暴露したことが事実だとすればそれは驚きであり、問題である。実は米テレビ局「HBO」で人気番組をもつコメディアンのジョン・オリバーが、2015年にスノーデンとのインタビューでこの点について突っ込んでいる。

●“理解している”のと“読んだ”は違う

オリバー: (暴露した)文書のうちどれだけを実際にあなたは読んだのか?

スノーデン: すべてのアーカイブ書類を調べた。

オリバー: 1枚残らず読んだの?

スノーデン: 私は何を渡したのかは理解している。

オリバー: でも、文書に書かれた内容を“理解している”というのと“読んだ”とでは違うが。

スノーデン: あなたが何を心配しているのかは分かります。

オリバー: 大量のNSAの文書を人に渡す時には、読んでないとダメですよね。

スノーデン: この人はきちんと注意していたのかというのを気にするのは分かりますが……。

オリバー: あなたが扱っているような文書なら、なおさら、そうです。

スノーデン: まず自分を擁護すると、もう私は何も扱っていないです。ジャーナリストたちに手渡して、彼らが最も責任のあるやり方であることを確認しながら非常に厳重に注意して使っている。

オリバー: でもそのジャーナリストたちは、あなたよりも断然、技術的な能力が劣るのですよね……。

スノーデン: でも私とあなたのように、正しく扱うのがいかに重要であるかは理解している。

オリバー: ニューヨークタイムズ紙はあなたの暴露したスライド(文書)を、適切に情報を消さずに掲載した。そして何かプログラムがイラクのモスルで(国際テロ組織の)アルカイダに対して使われたことがバレた。大失態ですよね。

スノーデン: 大失態です。でも報道では起き得ることです。ジャーナリズムでは間違いが起きることを受け入れなければならないのです。これは“自由”というものの基本概念なのです。

オリバー: そうですが、でも、(暴露した)文書はあなたが所有していなければいけない。有害となる可能性があると自覚している情報が、(自分の手から離れて)公表されるかもしれないのです。

●当初の理念はどこかに行った

 オリバーの質問に対し、スノーデンはのらりくらり対応しているが、要は読んでいないのである。

 こうした指摘だけでなく、暴露情報が結果的にビジネスとして利用されてしまっているのではないかとの指摘もある。スノーデンの莫大なリーク書類を受け取ったグリーンウォルドは、盗み出された機密情報を暴露するという名目で、IT系企業家から2億5000万ドルの投資を受けて自身のニュースサイト「ザ・インターセプト」を2014年に共同設立した。そこでスノーデンが盗んだ機密情報を小出しに暴露しながら、読者を獲得している。

 またグリーンウォルドがNSAの暴露情報のうち、「無実の人に危害を与えないもの」で「他国を利しないもの」を公表し、「最も議論を起こす方法で掲載したい」と2013年のスピーチで述べていることなどから、英公共放送のBBCや英インディペンデント紙を経て英エコノミスト誌などに寄稿する英国人ジャーナリスト、エドワード・ルーカスは、著書『ザ・スノーデン・オペレーション』の中で、「グリーンウォルドは何様のつもりだ」と批判をしている。

 またルーカスはこうも書いている。「そもそも、合法的な権利を行使する情報機関や機関トップを監視する権限を憲法上もつ、選挙で選ばれた国の政府やリーダーたち、裁判所や国会議員たちがNSAなどに(監視の)権限を与えているのである」

 少なくとも、スノーデンの当初の告発動機である「国民が決めなければいけないものだ」という2013年6月の理念は、どこかに行ってしまったようだ。

 スノーデンに対するこうした批判的な指摘があっても、彼が天才的な技術者だった評判は変わらない。ただ高卒の彼が自称していた大学などの学歴を盛り過ぎていたことが確認されており、例えば「夏の特別コース」に参加したことを「卒業見込み」と書いていることもあった。もちろん、そんな話は内部告発とは何ら関係ないのだが、彼の人となりを知るちょっとした材料にはなるだろう。

 そんなスノーデンは最近、積極的に日本にからんだ発言をしている。例えばNHKは4月、スノーデンが暴露したNSAの機密文書に、新たに日本にからむ13の内部書類があったと報じた。その中でひとつ気になったのは、「Xkeyscore(エックスキースコア)」という大規模監視プログラムをNSAが日本側に供与したという文書があったことだ。

 これについては、やはりグリーンウォルドの「ザ・インターセプト」が、NHKと共同で記事を掲載している。「NHKとのパートナーシップによる記事」と書かれた同記事には、このエックスキースコアに関する文書そのものがリンクで掲載されている。またNHKはこの13ファイルを大々的に報じるに当たって、スノーデンにもインタビューを行ない、放映している。

●とんでもないプログラムが日本に提供された!?

 エックスキースコアが日本に提供されたというのは事実なのか。プログラムの実態を知れば、それがどれほど大変な問題なのかが分かる。

 エックスキースコアはとんでもなく大規模な監視プログラムである。電子メールやインターネット検索、サイトの訪問履歴、チャットや保存されているドキュメントなど、おおよそ一般的にユーザーが携帯やインターネットで扱うすべての情報を、日本も含む世界150カ所の収集拠点で集めるプログラムだ。

 収集拠点では、何百万人という人たちのデータが盗み取られ、最大で5日間、サーバーに保存される。つまり明日になれば5日前のデータは削除されるが、新たに明日の分が今後5日にわたり保存されるという仕組みだ。メタデータ(ファイルなどの情報データ)については、30~45日にわたって保存され、またあるWebサイトにどんな人が訪問したか、といった情報も分かるようになっている。集められたデータのほとんどは、NSAのエックスキースコア・システムで検索や閲覧ができるのである。まさに治安当局専門の「Google」のようなもので、個人情報を調べ放題になる。

 こんなとんでもないプログラムが日本の情報当局に提供されていたというのである。これが事実だとすれば、共謀罪どころの騒ぎではない。米国では、このプログラムは原則的に自国民に対して使うことは許されていない。NSAはテロ関連の国内法に基づいて、米国外または米国民以外であればどれだけ収集しても問題ないという認識でこのプログラムを使っているのである(ちなみに米国民と接触する外国人は監視が可能だ)。

 日本政府は米国とは違い、外国の国民のコミュニケーションを盗み、監視する権限はもたない。にもかかわらず、供与されたエックスキースコアで世界中の人たちのデータを盗み見していたとなれば、それは国際問題に発展しかねない。また自国民を大規模に監視しているのではないかと指摘されても仕方がないだろうし、そうなると、私たちすべてのデジタルでのやりとりは提供先であると文書に記されている防衛省情報本部が握っていることになる。すべての国民のプライベートなやりとりや、ビジネスパーソンの愚痴などですら、情報本部は独自に収集し、検索して見ることができるのである。 

 スノーデンにインタビューをしたNHKは、この話を日本政府は知っているのか、つまりエックスキースコアが日本に提供されていたのは事実なのかと質問している。スノーデンは、「自分はそうした情報を暴露できる立場ではありません」と答え、「私から言えることは、それが素晴らしい質問だということです」とだけ述べている。

 この文書を読んでいないから、何とも答えられないという可能性は大いにありそうだ。その上、日本について暴露した情報の重大性にも気が付いていないと勘ぐってしまうのは、筆者だけではあるまい。

(山田敏弘)