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京都花街お茶屋に学ぶ「切り捨て」の決断

6/8(木) 11:59配信

ITmedia ビジネスオンライン

※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

 リーダーは「リードする人」です。「担当者として最も仕事ができる人」とは違います。

 リーダーの日々の仕事は作業ではなく、判断と決断です。その基準となる方針、方向性を決め、それに沿ったさまざまな意思決定をするのが仕事となります。目の前の担当業務を直接進めることではありません。

 世のリーダーには、本業を明確にし、方針や方向性を決めたならば、あとはそれを徹底的に突き詰めて磨き抜き、世に問うてもらいたいです。

 経営者の場合、その判断や決断が誤っていた場合、中途半端な磨き方であって世に支持されなかった場合には倒産しかねません。巨額な負債を抱えてしまい、個人保証による破産をするかもしれません。倒産した会社の元社長では再就職も困難でしょう。

 文字通り体を張って倒産、破産というリスクを背負って決断をし、突き詰めて考え、実行しなければなりません。

 リーダーの対義語をフォロワーとすると、両者の最も分かりやすい違いは、給料やボーナスを「もらうモノ」と考えるか「払うモノ」と考えるかです。

 この「リーダーの仕事術」という記事の読者ならば、どのようなポジションであれ、いかにしたらより多くの顧客満足が提供でき、より多くの給料やボーナスをフォロワーに払い続けられるのかを考えることも判断や決断の一助となるでしょう。

●「350年間の存続」から学べることとは

 四半世紀にわたって公認会計士という仕事をしてきた経験に基づき、経営という観点から京都花街のお茶屋(以下、お茶屋)を題材として出版しました。お茶屋というと、一見(いちげん)さんお断りで、豪華な衣装の芸舞妓(まいこ)によるおもてなしという特殊な世界であって、通常の事業会社とは無関係に感じるかもしれませんが、実は現代の一般企業にとっても経営のヒントになる事象の宝庫です。

 お茶屋は、顧客も舞妓も経営者も当然に現代人であり、事業も一般的な企業と変わりありません。そんな中で「一見さんお断り」という営業形態を今に至るまで350年間も存続させ、価格競争を突き抜けて、宴会での芸舞妓さんが簡単には確保できないほど人気の日本文化の代表的存在にまでなっているという「結果」を出しています。

 残念なリーダーの典型パターンとして「それはウチの業界、業種ではできない」「地域性が違う」など、参考にならない理由を必死に探すという特徴があります。ここでは、どこをどうすれば参考になるのか、自社や自分の立場に生かせるのかを見つけることをお勧めします。

●一見さんお断りは「顧客満足」を突き詰めた結果

 まず自社(リーダーであれば自分のポジション)の本業は何か、という点が明確になっているでしょうか。例えばお茶屋の場合、本業は「顧客の宴会を成功させる、つまり宴会の目的を達成させること」です。

 そのために、宴会の目的、顧客の嗜好(しこう)、出席者の人数や年齢・性別、上座・下座の人数、季節その他もろもろの要素を把握して宴会をプロデュースします。これが通りすがりの一見顧客では、情報収集も万全の準備もできません。顧客がどの程度、宴会のルールを知っているのかも分かりません。となると、宴会の成功という顧客満足が提供できなくなってしまいます。

 つまり、宴会の成功を本業と定め、徹底的に顧客満足を追求した結果、一席ごとの単品生産とならざるを得ず、それが一見さんお断りとなる要因の一つとなってしまったのです。

 この突き詰め方の徹底度合いはすさまじく、宴会の夜は一切顧客に財布を出させる場面はありませんし、料金表もオーダーシートもメニューリストもどこにもありません。芸舞妓のお花代(料金)や、お座敷に取り寄せた仕出し料理、外での食事、帰りの各顧客のタクシー代、観劇の代金まで全ていったんお茶屋が立て替え、後日顧客に請求します。お茶屋の外での食事や観劇などの予約もお茶屋が手配します。予約困難な料亭や観劇も、なぜかお茶屋経由だと予約できてしまいます。

 一般企業でも、もう一度、自社が提供しているモノに関して徹底的に突き詰めて磨き抜いているかどうかを見直してみてはいかがでしょうか。

●何を諦めて切り捨てるか

 何事も特化して突き詰めると、それに伴って諦め、切り捨てるものが生じます。

 お茶屋の場合は、規模の拡大を切り捨てています。

 宴会ごとの単品生産でのきめ細かい顧客満足を追求するのですから、量産によるスケールメリットを追求することはできません。

 前項では宴会のプロデュースに関してのみ述べましたが、他にも、芸舞妓さんたちは原則として中学校卒業後から一定の「仕込み期間」を経て、日本舞踊の試験に合格して初めて舞妓としてデビューします。それまでに半分以上が脱落して実家に帰るという厳しい世界です。

 仕出し料理も、焼き物やわん物は熱い状態で、天ぷらはカラッとした状態で、一品ずつ料理屋からお茶屋の座敷に運ばれます。

 これでは規模の追求ができるはずありません。

 ここで言いたいことは、単品生産が良いということではなく、量産でも単品生産でも何か方針を決め、それに沿って徹底的に突き詰めた場合、別の何かを潔くバッサリと諦める必要があるということです。

 大事なのは、本業と方向性を決めたら、徹底的に突き詰め、提供するというスタンスです。一見さんお断りや単品生産を礼賛しているわけではありません。

●「やらないこと」を決める

 さて仮に、ある方向性によって顧客満足を提供すると決めた場合、お茶屋に限らず、「やらないこと」を決めるのは重要です。お茶屋の場合、宴会の成功のためには、いかに手間暇がかかろうとも合理化をしません。

 例えば、舞妓さんのトレードマークともいえるあの手間のかかる白粉(おしろい)に10キログラム以上もある裾引きという盛装。特に指定がない限り、舞妓さんは毎晩あの衣装です。自分1人で着ることはできず、男衆(おとこし)と呼ばれる男性によって着付けがなされます。男性の力でないとキッチリと手早く着付けることが困難なのです。白粉の化粧も男衆の手配も宴会に間に合うように逆算して毎日準備し、宴会後、深夜に着物を脱いで畳むとともに化粧を落とすということを毎晩繰り返しています。

 他にももろもろ非合理な部分がありますが「おもてなしによる宴会の成功」という観点に照らして合理化しない部分は守ります。

 掛け払いの清算方式が銀行振り込みになったり、お茶屋と顧客の連絡は電話がメインであったり、エアコンや水洗トイレの完備など、合理化すべき部分は合理化され変化しています。

 つまり、漫然と合理的なモノを導入しているのではなく、自社の方針と合っているのかどうか、細部まで一つ一つ検討しながら企業活動をしています。

 言い方を変えると、考え方や方針、方向性が、コストや利益や売上よりも優先しており、逆説的ですが、それが350年間もの維持存続の要因となっているのです。

 最後に、この記事では字数の関係で花街文化の細かな例外にまで言及していないことをお断りしておきます。

(高橋秀彰)

(ITmedia エグゼクティブ)