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ロンドンの下町の食料雑貨店に運び込まれた、仮想通貨ATM

6/8(木) 15:30配信

ニュースソクラ

【資本主義x民主主義4.0】第一部 WannaCryの教え(6)「仮想」が「現実」を凌駕する

 ハックニーは、カリブ系やアフリカ系、インド人、バングラデシュ人、中国人らアジア系が入り混じったロンドンの中でも最もロンドンらしい下町だ。

 5月9日の昼過ぎ、ハックニーのダルストン・レーンにある、ごく普通の食料雑貨店に1台の自動預払機(ATM)が運び込まれた。現金を引き出す銀行のATMではなく、仮想通貨ビットコインを取引するATMだ。

 日本では一時、世界最大級のビットコイン交換所だったマウントゴックス(東京都)が破産(債権者約2万4700人、債権総額約2兆6630億円)し、社長が業務上横領罪で起訴されたため、仮想通貨にはいかがわしいイメージが付きまとう。しかし、仮想通貨に罪はない。悪いのは邪な心を持つ人間だ。

 政府にも中央銀行にも支配されない仮想通貨ビットコインは必ず普及するとの思惑から、対ドル相場はものすごい勢いで最高値を更新し、ついに対ドル相場が2000ドルを突破した。政府も、中央銀行も、トランプ米大統領の誕生で基軸通貨のドルも信頼できなくなった今、ビットコインは「仮想の黄金」とも言うべき存在になったのかもしれない。

 ビットコインATMの操作方法は至って簡単だった。電子メールで連絡を取り、待ち合わせたビットコインのオペレーター「BCB ATM」の責任者ランドリー・ナタヘ(28)の指示に従って、自分のスマートフォン(多機能携帯電話)に「ブロックチェーン」というアプリをダウンロードする。次に、パスワードや個人識別番号(PIN)を決めて入力すれば準備終了だ。

 ビットコインの取引レートは5月9日時点で、買い1BTC(ビットコインの単位)=1401.99ポンド、売り1282.87ポンドだった。もたもたしていると、みるみるうちに上がってしまう。ATMのタッチパネルには「買い」と「売り」のほか、「払い戻し」「送金」のアイコンが設定されている。実際にビットコインが海外送金できるようになるのは年末になってからだという。

 5ポンド紙幣をATMに差し入れてタッチパネルを操作して、仮想通貨のお財布であるスマホのアプリ「ブロックチェーン」のQRコードをかざすだけで取引はアッという間に成立した。ビットコインに換算すると、0.0037BTC。このATMでは最低5ポンドから取引できる。「このATMがロンドンでは8台目。来週にはさらに3台設置する」とナタヘは声を弾ませた。

 ナタヘはロンドン・メトロポリタン大学で会計を学んでいたが、「他人のカネを数えるより、自分のカネを稼ぎたい」と中退して2015年12月、「BCB ATM」社を立ち上げた。世界中で1000台、このうちイギリスでは60台のビットコインATMが稼働している。

 「わが社のATMの手数料は最も低い4%。他社は7~9%。毎月赤字だが、ATMの設置台数を1台でも増やすことを最優先にしている」。ビットコインを利用できるオンラインゲームやオンラインショッピングが増え、消費者が手軽な財テクとしてビットコインを購入している。

 「信頼できるのは自分だけ。P2P(ピァ・トゥ・ピァ)、銀行や政府、中央銀行を介さずに対等の者同士が取引するビットコインは時代にマッチしている。今年、仮想通貨はビッグブームを迎えている」と、ナタヘは解説した。


【用語解説】仮想通貨のウォレット(お財布)

 前出の仮想通貨Monero(マネロ)コア・チームの1人、リカルド・スパグニによると、スマホで使える仮想通貨のウォレットは非常に便利だが、100万円を財布に入れて持ち歩くのが危険なように巨額のビットコインを入れたままにしておくのはとても危険だ。ウォレットに関係している人間が欲に駆られて盗み出したり、着服したりしてしまうことがあるからだ。ハッカーに盗み出される恐れもある。ウォレットには普段使う金額を入れておくと良い。巨額のお金は金庫にしまっておいた方が安全なように、オフラインのストーレージの方が安全を確保できる。大切なデータはハードディスクドライブに保存しておき、使う時だけパソコンにつなぐのと同じように、仮想通貨を貯めたストーレージを必要な時だけオンラインにつなぐ方法もある。

(文中敬称略、第一部おわり)

■木村 正人(在英・国際ジャーナリスト)
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

最終更新:6/8(木) 15:30
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