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「ALS患者だって電子音声で親子ゲンカする」 母でも、娘でも、妻でもある日常

6/8(木) 17:01配信

BuzzFeed Japan

知性や感覚はそのままなのに、手足が動かなくなり、声が出なくなる、ALSという病気がある。当然、患者は周囲とコミュニケーションが取りづらい。有効な治療方法が発見されていない中、発症者の7割が人工呼吸器をつけずに亡くなる現状があるという。では、人工呼吸器をつけた患者はどうやってこの難病と向き合い、生活しているのか。ALSを発症して10年、病気についての情報提供を続ける、酒井ひとみさんの日常を取材した。【BuzzFeed Japan / 朽木誠一郎】

初めてALSの患者さんにインタビューをするときは、少しだけ戸惑うかもしれない。

私たち記者は、取材をするとき、相手の反応をうかがいながら、どう話を運ぶか、次に何を聞くかを考える。「あっ、この質問は失敗だった」「いや、今が本音を引き出すチャンスだ」--そんな判断の根拠が、ちょっとした仕草や声のトーン、表情だったことに気づかされるからだ。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、知性や感覚はそのままなのに、運動能力が衰えていく病気だ。症状が進行するにつれ、手足が動かなくなり、声が出なくなる。表情を変える筋肉の機能も低下するため、喜怒哀楽を表現しにくくなる。

知識としては知っていた。しかし、それらがない状態で行う取材は、当初、想像以上に難しく感じた。

目の前にいるのは、酒井ひとみさん。2007年にALSを発症した37歳の女性だ。一般社団法人日本ALS協会の理事を務める彼女は、取材前日、金沢で講演をしてきたばかりだった。

「金沢は日帰りで行くところではありませんね」

酒井さんはそう「言う」。正確には、彼女が視線で入力した(不思議なことに、ALSでは目を動かす筋肉には障害が起きにくい)通りに、コンピューターの電子音声が流れる。

彼女が今、どんな気分なのかを知るための材料はほとんどない。しかし、自ら会話が始まるように水を向けてくれた言葉には、たしかに気づかいを感じた。少しリラックスして、質問を始める。

取材は酒井さんの自宅で行われた。隣室では高校生と中学生の酒井さんの2人の子どもが、スマホやテレビを見て思い思いに過ごしているようだった。身の回りの介助は、ヘルパーのSさんが1人、酒井さんの横に立ち、担当してくれた。

自由がきかない体で遠方まで、それも日帰りで行くのが負担であろうことは、容易に想像できる。聞けば、取材の翌日も別の仕事があるとのこと。どうして、ALSの情報提供をするために、ここまで熱心に活動するのか。

「私が地方に行くことによって、呼吸器をつけていても、支援者さえいれば、暮らせることを知ってもらいたいという気持ちが強いので、最近は、来てと言われれば、行ける機会が増えました」

ALSは「重病」というイメージが先行してしまっている。もちろんそれは誤りではないが、最近では人工呼吸器や経管栄養・胃ろうなどで長期療養も可能になった。酒井さんも発症からすでに10年が経過している。

「未だに7割の人が、呼吸器をつけずに亡くなります。家族に迷惑をかけたくないという気持ちはとてもよく理解できますが、ALSになっても、私のようにヘルパーを呼んで、家族の負担をできるだけ減らしながら生きていくこともできることを、伝えたいのです」

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最終更新:6/8(木) 17:01
BuzzFeed Japan