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23歳、女性UIデザイナーの「大学不要論」

6/9(金) 6:10配信

@IT

 「行くと決めたら、最短距離を進みたい」――強い意志と実行力で自ら道を切り開き、フリーランスのデザイナーとしてスマホアプリのUIデザインに携わっているのが河野彩子さん(23歳)だ。

 同期の友人たちが就職活動にいそしんだり、駆け出し社会人だったりという一方で、TicketCampのアプリリニューアルや家庭教師のトライが展開する「Try It」の立ち上げに関わり、「Google ベストアプリ」も受賞している河野さん。

 だが、実は「大学に入るまでPCの経験はありませんでした。デザインを学ぼうと決めたときも、学生でお金がなかったので、インターネットで一生懸命安いものを探して購入したiPadで始めました」という。そんな彼女は、どうやって今の場所にたどり着いたのだろうか?

●2回の休学を経て、インターンでデザインの現場へ

 河野さんは、もともとイラストやデザインが趣味で、学園祭用にポスターや新聞をデザインしたこともあった。

 しかし、「デザイナーというのは特殊な職業で、恐らく食べていけないと思っていたので、普通に就職しようと考えていました」と、アルバイトに打ち込みつつ普通の高校生活を送っていた。進路も無難に法学部を選択した。

 だが、大学でビジネス系サークルに参加したことが運命を変える。起業を志す学生たちと交流し、情報を知る中で、「世の中にはユーザーインタフェース(UI)デザインという分野があり、しかもとても実用的なものだ」ということを知るようになる。

 「ぜひこれを仕事にしたいと思ったんですが、今通っている学部ではUIデザインは勉強できないし、デザイナーにはなれないだろう。ならばデザイン系の学校に行こう」と即断。大学は休学し、中学時代の美術の教諭に頼み込んで生徒と一緒にデッサンをしながら受験勉強に取り組み、翌春、デザイン専門学校に再入学した。

 そこでまた知ったのが、インターンという制度だ。

 「学校に行って学ばなければデザイン会社には入れないと思っていたのですが、UIデザインは、働いた方が早いということに気付きました。どうしても行きたい会社があったので、まずインターンとして採用していただき、その後正式に働き始めました」

 持ち前の行動力もさることながら、起業サークルに参加し、進路は一本道ではないと知ったことが一連の行動を後押ししてくれた。周りには学校を休学、中退して起業を試みる人が多かったため、学校を辞めて働くという選択肢は、自然と彼女の中にあった「失敗するかもしれないけれど、その過程で得る経験はきっと何かに生かせるはず、そんなふうに『失敗をこわがらなくてもいい』と知ったことが大きいですね」

●学校で学ぶものとは別物、仕事として学んだUIデザイン

 デザイン専門学校への進学を志してからというもの、河野さんは本を読んだり、「ドットインストール」をはじめとした学習サイトを活用したり、独学でスキルを身に付けようと試行錯誤してきた。初めのころは「検索して出てきたPHPの勉強会にHTMLすら知らないのに参加し、別の参加者にいろいろ教えてもらいました」ということもあった。

 だが「インターンとして採用していただいて、仕事としてUIデザインをやってみると、スキルの伸びがまるで違うことが分かりました。学校と社会は全然違うと痛感しました」と振り返る。

 特に、趣味としてのデザインと仕事としてのUI/UXの違いは大きかった。

 「ビジネスですから、いかに自分なりの世界観を作っても、全ては数字で結果が出ます。そもそもユーザーエクスペリエンスを良くするのも、その先に数字があるからです。自分だけ良いと思っていてはダメだということを知りました」

 彼女が、インターンとして、また駆け出しデザイナーとして経験を積んだのが、UIデザインに特化したデザイン会社「グッドパッチ」だ。チーフデザイナーのアシスタントとして、UIデザインとは何かを学び、実践的な知識を身に付けた。さらに「人」の面でも大いに恵まれ、学ぶことが多かったという。

 実はグッドパッチにインターンとして採用してもらった経緯も、「最短距離」を進んだ結果だった。「当時、グッドパッチではインターンを募集していませんでした。けれどどうしても働きたいと考えていたので、まず社長宛に私の思いをつづった長文の手紙を送り、面接にこぎ着けました」

 だが、その場で厳しい言葉をかけられた。

 「『まだ何ができるかもよく分からないし、受け入れられない。学校を休学して働きに来ると言うけれど、もし仕事がつまらなかったらまたやめるの?』と言われました」と、正論を突き付けられたことが印象に残っているという。

 それでも、河野さんの熱意は伝わったようだ。専門学校の1年時にサマーインターンに参加し「仕事は全然できなかったけれど、とても楽しく働けました。その後、『うちの雰囲気も分かったと思うし、どう?』『ぜひ働きたいです』という流れでフルタイムインターンを始めました」

 こうして今度はデザイン学校を休学し、正式に就職した。「インターンのときもそうでしたが、チームでコミュニケーションを取りながら仕事ができました。経験のない私もミーティングに参加し、発言権を持たせてもらえました」

●フリーランスとして独立、自分なりの基準で仕事に向き合う

 グッドパッチは、楽しくやりがいのある会社だったが、2016年5月にフリーランスとして独立した。

 フリーランスとして、今まで以上にさまざまな企業との付き合いが増えた河野さん。デザイナー不足の風潮も相まって多くの引き合いがあるという。

 「自分の実績になるかどうか、それから、自分が使ってみたいと思ったり、応援できるサービスかどうかという観点で仕事を選ぶようにしています」

 フリーランスと切っても切れない「料金」についても、自分なりの基準を設けた。

 「UIデザインの見積もりは、とても難しいです。何日も試行錯誤したり、開発の途中で要件が変わったりするので、初めに全体の見積もりを出すのは難しいですし、発注側も決められません。なので、私はシンプルに時間と日数で決めるようにしています」

 独立前から、分からないことがあればまず関連する書籍を複数冊読み、学習してきた河野さん。独立に当たっても、『デザイナーとして起業した(い)君へ。成功するためのアドバイスーWork for Money, Design for Love』(David Airey:著、小竹由加里:翻訳、ビー・エヌ・エヌ新社:刊)などの関連書籍を読みあさり、参考にしてきた。

 これまで、リニューアルなどのタイミングで既存サービスの改良に携わることの多かった河野さんだが、いずれは、「一からスタートアップに携わって、自分がゼロから作ったサービスを育ててみたい」と考えているそうだ。

 こんなふうに「常に一択。こうと決めたら最短距離を進みたい」と進んできた河野さんは、先日、大学のビジネスサークルで知り合った男性と結婚した。お相手も、目下スタートアップの立ち上げに取り組んでいる最中で、かつてグッドパッチのインターンに尻込みした河野さんにチャレンジするよう勧めた人物でもあるという。

 「最初は『とても無理』と言っていた私を、『失敗したから何?』というスタンスで応援してもらいました」

河野さんが独立する際に参考にした書籍。今も読み返すことが多いという

●IT系で働きたいと決めているなら最短距離もあり

 「最近、妹が私と同じ道に進みたいと言い出しました」という河野さんに、これから進路を考える学生にどんなアドバイスがあるかを聞いたところ、「もし、『自分はIT系に行きたい』と心に決めているのなら、卒業という資格を得るためだけに4年間という貴重な時間を費やすよりも、大学を休学するか、中退して働き始めてしまう方がいいと私は思います」という。

 「IT業界は、スキルがあれば、新卒でなくてもどこでも働けると思います。現にデザイナーはどこも足りていない状況です。大学に行って就職活動をして……と考えると、時間がもったいないように思います」

 まずは、休学やインターンといった制度を活用してみるのも1つの手だという。ただその際は、「インターンには2種類あると思います。『インターンを安い労働力として見ている』企業と、『採用したい人物を見極めたいと考えている』企業です。自信があるなら後者に行けばいいし、経験を積みたいなら前者に行けばいいと思います」

 もう一つ、若者に許される特権もあるという。「『若くて、頑張っている子を助けたい』と思っている大人の気持ちに甘んじることも大事ではないでしょうか。若いときはそれが許されると思いますし、私もこれからは若い子を助けたいと思います」

 「若いのですから、恥をかいていいと思います。恥をかいても許される。自分も恥をかいてきましたが、今思えば、大した恥ではありませんでした。これからも恥をどんどんかいていく覚悟で、新しいことにチャレンジしていきたいです」

最終更新:6/9(金) 6:10
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