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専業農家が増える未来 垂直統合型で農業ビジネスを変えるLEAP

6/9(金) 7:00配信

アスキー

seak株式会社は、農家で働いた経験がまったくない人でも就農を可能にする仕組み「LEAP」を提供することで、日本の農業をどのように変えていこうとしているのか。
 seak株式会社が提供している「LEAP」(Let's Agriculture Program)は、農家で働いた経験がまったくない人でも就農を可能にする仕組みである。seak代表である栗田紘氏は、未経験だった農業に取り組み、身体を張ってLEAPを作り上げた。
 
 「農業を仕事として始める人を1人でも増やしていきたい。これまで農業の事業化は大規模農業が必要とされてきたが、通常のビジネス同様、農業も事業細分化し、最小ユニットで小さく始めて最適化していくことで、小規模でも十分に事業化できる手応えを感じている。もっと気軽に農業に取り組む人が増えれば、日本の農業は変わっていくはず」(栗田氏)
 
 同社はLEAPを提供することで日本の農業をどのように変えていこうとしているのか。
 

新規就農者が即農業を始められる仕組み「LEAP」
 神奈川県藤沢市にseak株式会社の農地がある。ビニールハウスの中には、ミニトマト、キュウリが作られている。一見するとどこにでもある農家の畑だが、よく見ると栽培されているミニトマト、キュウリはビニールハウスがある地面ではなく、袋に入った土を使って栽培されていることがわかる。この袋に入った土は、seakで開発した独自のもの。「ココナッツ繊維、貝化石など、自然由来の原料にこだわって配合した独自の土」(栗田氏)だという。
 
 土だけでなく、ハウス内には無線LANが張り巡らされ、内部の温度、湿度、水やりなどの状況をセンサーで把握する仕組みが取り入れられている。現在可能な最新テクノロジーを使って農業を行なう、いわゆるITを使った、ハイテク農業のひとつだが、「いわゆる野菜工場とは決定的に違う点がある」と栗田氏は指摘する。
 
 「野菜工場といわれるものは、設備が整ったものが多く、投資額が大きくなりがち。それに比べ当社が提供する仕組みは低コストで農業を始めることができる」(栗田氏)
 
 テクノロジーを使った農法だが、インフラ設備を整えるためにそれなりの予算が必要であるのに比べ、LEAPはもっと低予算で農業を始められる仕組みを志向する。
 
 「現在の農地がある神奈川県藤沢市で、当社が法人として初めて認定新規就農者の認定を取得したので、優先的に農地を確保する権利を持っている。農地を持っていない人でも、就農意欲があれば、当社が提供する土地を使って、農家として活動を始められる。これまで興味はあっても、農地確保、農業のノウハウを持っていないなどの理由で就農をためらっていた人でも農家として働くことができるようになる。就農する人を1人でも増やしていきたい」
 
 戦略的に農業の事業化に挑んでいる栗田氏だが、2014年4月にseakを設立し、「ここまで来るのに丸3年。戦略的にすべてのことができていたら、こんなに時間はかからなかった」と苦笑する。
 
 seakという社名は、サイエンス、エンジニアリング、アグリカルチャーの3つを組み合わせた造語だが、まさにこの3つの要素を組み合わせることが、これまでの3年間の取り組みとなった。
 
ゼロから作り上げることへの憧れから起業を決意
 栗田氏自身が就農を考えるきっかけとなったのは、「ゼロから物を作り上げていくことへの憧れ」だった。2006年、大学を卒業後に大手広告代理店へ就職したが、2012年、新しいタイプの電動車椅子を作ることで有名なWHILLに参画する。
 
 「広告代理店の仕事から、電動車椅子を開発する企業で仕事をするようになって、ゼロから物を作ることの面白さを感じるようになった。そういった仕事をしたいと考えるようになっていた時期に、父親が体調を崩したこと、友人が一型糖尿病と診断されたことなどが重なり、健康な身体を作るためのベースとなる農作物に興味を持つようになった」(栗田氏)
 
 改めていうまでもなく、日本の農業は高齢化、就農者不足などいくつもの課題を抱えている。世界的な食糧不足が叫ばれる中で、自給率向上のために農業に取り組む人を増やす必要があるものの、就農者を増やすことができないことも現実だ。
 
 「メーカー系ベンチャーは、自己実現をしたい人が取り組むことが多い。さらに、社会的な課題解決につながることを実現できるというもう1つの要素が加わると、化学反応が起こる。この化学反応の有無がビジネスを拡大していくためには重要な要素となる」
 
 農業をビジネスにすると起業した栗田氏だが、周囲には農業に取り組んでいる人はいなかった。その状態で取り組んだことが「今から思うと良かった」と振り返る。
 
 新規就農者として1年間農家でのトレーニングを受け、個人として利用権を得て獲得した土地が記事冒頭にある現在のseakの農場だ。「木の根があちこちにあって、畑としては土を使うことが難しい、農業を始めるには難しい土地だった」と栗田氏は当時を振り返る。
 
使えない畑ばかりの中に参入する新規就農者ができる農法
 この荒れた土地でどう農業を始めるか。栗田氏はさまざまな検討を行なった。土壌改良、土を使わないハイテク農業などの先に行き着いたのが独自の「袋栽培」だ。
 
 「土壌改良も、ハイテク農業も設備投資が必要となるためコストと時間がかかる。コスト、時間をかけずにスタートできることから、現在の袋栽培というスタイルとなった」
 
 袋栽培という農法は、「隔離土耕」という名称として農業試験場で試されていたレベルで、本格的な農家でこの農法を試した例は数少ないという。「普通の農家はあえて袋の土を使った農法を試す必要がない、畑を作る土地を持っている。そもそもが使えない畑ばかりが残っている中に参入する新規就農者だからこそ、この農法を試すことになった」と栗田氏は振り返る。「この畑がダメだったらほかに逃げるところがない。だからこそ、土地を使ってできることを真剣に考えた」という。
 
 もちろん、袋農法をスタートしただけですべてがうまくいったわけではない。2セットのハウスからスタートし、「試しては直し、直してはまた改良して試すを繰り返していった」と時間を積み重ねながら、まずは栽培難易度が高いミニトマトに挑んだ。
 
 「ミニトマトは栽培が難しい野菜。それだけにトマト栽培に成功できれば、ほかの野菜も栽培できる。また購入する人も多く、付加価値を付けた作物として栽培し、提供することができる有望な野菜」
 
 その試みは、果たしてどうなったのか。
 
1時間半で農作物が届けられる範囲が商圏
 厳しい環境から挑んだ農業だが、ただ作物が作れるようになればいいわけではない。WHILL参画の後に、インキュベーション事業を手がけるアーキタイプ株式会社での経験を経て、栗田氏は農業を事業として捉え、どうすれば就農者を増やすことができるのかについても早い段階から課題としてきた。
 
 自ら厳しい条件の土地での農業に取り組みながら、「農業を事業として細分化し、『最小ユニットで考えてその中での最適化を行なう』という通常の事業であれば当たり前に行なわれていることに取り組んだ。農業を事業化するというと、大規模農業ととらえるのが一般的だが、それが事業化ではない」(栗田氏)と小規模でも収益が出る事業を模索した。
 
 じつは藤沢市にある農地で収穫したミニトマト、キュウリについては、すでに「ゆる野菜」というブランド名を付け東京のスーパーで販売している。品質が認められ、デパート、高級スーパーでブランド野菜として評価を受けた。LEAPでは、農作物の栽培支援だけでなく、このような販路までセットにして提供する。
 
 「大都市圏に近いという立地から、朝に収穫したミニトマトを昼過ぎには店頭に並べることができる。高級スーパーであれば、朝採れ野菜としてこの点をアピールし付加価値商品として販売できる。コストも抑えているので、高級スーパーに並んでいるミニトマトの中では決して高くはない卸値となるので、スーパー側にも評価を受けている」(栗田氏)
 
 小規模農業でも収益が出るビジネスモデル実現の鍵のひとつが、農作物を作ることだけではなく、販売、さらにはその先まで視野に入れていた点だ。2016年9月、寺田倉庫株式会社、三菱UFJキャピタルからはシードラウンドで6000万円の資金調達を実現しているが、この時点から現在のLEAPの見通しは評価されていた。
 
 「資金調達が実現できたのは、栽培したトマトが評価を受けたから。さらに、三菱UFJキャピタルさんには商品の販売面でも協力を受けている。明治屋さんを紹介してもらって、店頭でトマトを売ることができるようになった。朝に収穫したトマトを昼過ぎに都心店舗に並べるというビジネスモデルは、農業にありがちな薄利多売というストレスを減らすことができる。商圏から1時間30分圏内に農地を持つことで、就農者にとって付加価値の高い農家として事業を展開することができる」
 
 日本の農業がいくつもの課題を抱えていることは確かだが、「部分改善となる提案だけしても、本質的な改善にはならない。農業に必要な技術、販売における価格、すべてを含めたコストなどトータルにものごとを考えなければ本質的な問題解決につながらない。一生懸命働いて時給が400円や500円では、新たな就農者を募ってもうまくいかない。農業にITを取り入れることも、部分的な改善にはつながるものの、農業改革につながらない」とトータルな改革が必要だと栗田氏は主張する。
 
 東京23区内から1時間30分圏内であれば、藤沢市だけでなく、埼玉県辺りまでが農業を行なう候補地となる。関東だけでなく、関西であれば大阪を中心に滋賀県辺りまでが農業を行なう場所として候補地となり、同様の視点で新たな農地を増やしていけるようになる。
 
 「格好をつけて垂直統合型と呼んでいるが、農作物を作るところから販売まで含めて一貫して提供できることに大きな意味がある」と栗田氏は話す。現在、農家の高齢化が大きな問題となっているが、LEAPでは農業に興味がある人であれば、農地など農家としてのバックグラウンドを持たない人でも就農できるプラットフォームを目指している。
 
 既存の農家は年間4000時間の労働時間が必要とされていると試算されているが、LEAPであれば年間1500時間の労働で生計を立てていくことができる。副業として農業を手がけることは難しいが、専業農家としては既存の農家よりもワークライフについてもバランスよく取り組むことができる。
 
もっとライトな感覚で農業をスタートすべき
 地道な取り組みが実って、seak株式会社は2016年9月、神奈川県藤沢市から認定新規就農者として認定を受けた。法人格での取得は藤沢市では初めてとなる。この認定を受けたことで、優先的に農地を確保できるようになったことから、LEAPを本格的に展開するベースが整ったという。
 
 就農者を増やすために、全国にある農業高校、農業大学と連携し、進路としてLEAPを提供するという取り組みも進めている。
 
 「日本の農業は、軽い気持ちで挑戦することが否定され、本格的に取り組むことが求められているような雰囲気がある。就農人口をもっと増やしていくためには、もっとライトな感覚で就農を選択肢とできるようにする必要がある。そのためのベースがようやく整ったので、2017年、現在のビジネスモデルをさらに磨き、1年後にはもっと大きな事業とすることを目指したい」(栗田氏)
 
 栽培野菜もミニトマトだけでなく、キュウリ、ピーマンと種類を増やしている。「野菜の種類ごとにKPIを算出し、1ファーマーあたり1種類の野菜を手がけていく。販売する店舗も増やして、ゆる野菜を育てる人、売る場所を増やしていく」(栗田氏)ことを進めている。
 
 社員の中にはタジキスタン人のスタッフもいる。「彼は大変なノウハウを持った人で、袋栽培の土の配合をはじめとしてさまざまな知見がある。実際に農地で試行錯誤をする実践に加え、こうした最先端ノウハウを展開できることも当社の大きな強みといえる」(栗田氏)
 
日本以外の国でのパッケージ展開も視野に
 LEAPのモデルが興味深い点は、「土」という農業にとって大変重要なファクターを、従来の農業と比べるとかなり自由に調整できる点が大きい。気候条件とマーケティング要素さえ合致すれば、これまで農業が成りたたなかったような場所での実現も見込めてくる。
 
 ハウスでのクラウドやITの活用は当たり前で、徹底したワークフローの省力化・これまでイチから学ばなければならないような技術の平準化が目指されている。こういったこれまでの農業で見えなかった数値が実現することで、見えてくる価値はさまざまだ。
 
 藤沢市での耕作許可を得たことで、LEAPでの耕作を希望する就労者の募集も始まってくる。さらに今後、一定量の収穫量と単価保証が見込めれば、エグゼクティブオーナーからのクラウドファイナンスとして一定の資金調達プラットフォームを作る予定もあるという。
 
 このような点でも、seakはこれまでの農業ベンチャー企業とはあり方が異なっている。資金調達で協力を申し出たグリーベンチャーズや、三菱などの大手各社はいずれも農業からは遠いが、だからこそ外側からの視点としてその存在が重要だと栗田氏は語っていた。
 
 現在の日本の農業では、とにかく就労者が足りない。栗田氏は就農者を増やすために、「日本には20万人程度の就農者が増やすことが必要という試算があるが、そのための人財はすべて当社から提供できるようにするくらいの野望はある。就農者をこれだけ増やして、本格的にビジネスにするためには一次産業だけでなく、二次産業、三次産業へとしかるべきタイミングで進出する必要もあるだろう。そういったことも当たり前にやっていきたい」と意欲的だ。
 
 提供された土地が利用できないという窮地から始まった袋農法だが、「水さえあれば取り組めるという特徴から、日本以外の場所でも取り組める目処が出てきた。LEAPは日本だけでなく、アジアで展開することも検討しており、これが実現すればさらに大きなビジネスとしての可能性がある。フランチャイズモデルを確立していきたい」と栗田氏は目を輝かせる。
 
 食糧難の対策として農作物を輸出することをビジネスとすることもできるが、「輸出にはデリバリーコストがかかる。むしろ、技術ごと輸出する方がビジネスとしてメリットがあるのではなないかと考えた」という。
 
 こうした野望を実現するためには、「これまでは外部のパワーを活用してきた技術開発のスタッフを社内にそろえる必要がある。フランチャイズビジネスを展開するために、システム面、オペレーション面での強化も必要」と体制とマンパワー増強が今後の課題になる。
 
 日本の農業が抱える大きな課題を解決するために、seak自身の課題をどう解決していくのか、栗田氏の経営者としての戦いはこれからが本番となりそうだ。
 
●seak株式会社
2014年4月10日設立。農産物の生産、販売、農業にかかわる総合的なプラットフォーム「LEAP」の構築を目指す。
調達関連では、2016年9月に寺田倉庫株式会社、三菱UFJキャピタル5号投資事業有限責任組合、個人投資家を引受先とした総額約6000万円の第三者割当増資を実施。2017年3月にはグリーベンチャーズ株式会社、寺田倉庫株式会社、三菱UFJキャピタル5号投資事業有限責任組合を引受先とした第三者割当増資を実施すると同時に、日本政策金融公庫の農業資金も活用し、総額約3億円の資金調達を実施。
社員数は2017年6月現在14名。さらなる栽培体制拡大に伴い、藤沢市拠点におけるファーマー社員を募集中。
 
 
文● 三浦優子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

最終更新:6/9(金) 7:00
アスキー

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