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脱北テーマ映画の監督が語る 国家に壊される庶民のリアル

6/9(金) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

 映画「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」は、中国の貧しい農村へ嫁として売り飛ばされた北朝鮮の中年女性B(ベー=仮名)のドキュメンタリー。北に残してきた夫と息子を脱北させ、さらに自らも韓国へ亡命しソウルでの再会を試みる姿を韓国の新鋭ユン・ジェホ監督(37)のカメラが捉えた。

 ――監視社会の息苦しさ、恐怖がとてもリアルに映っているが、撮影して危険はなかったのですか。

「もちろんありました。車で撮影中、公安当局の車両がすぐ横を通ったことがあるのですが、こちらの車を止められて映像を検閲となれば、身柄を拘束されていた恐れがあります。止められなくて、本当に運が良かった。撮影でも目立った行動はできないので、スマホの動画撮影で行い、それでも危ないときは対象も見ないで、スマホだけ向けて撮っていました」

 ――脱北ブローカーのマダムBはどうやって身を守っていたのでしょう。

「脱北者を迎えに天津まで行った際、10時間もの道中でタクシーが現地の若者の車と事故を起こしてしまったことがありました。向こうは、こちらの言葉から、中国人ではないと分かり、『当局に通報するぞ』と脅してきた。マダムは何がしかのカネを渡して対処していましたが、こうした住民どうしの密告もあるし、いつ何があるか分からないという緊張感を持っていました。普通の市民が生活費のためにブローカーをやるケースが多いのですが、街のやくざに脅されたり、儲けていて生意気と、同業者を当局に売るケースもあったそうです」

 ――中国からラオス、バンコク経由での亡命も、撮影は危なかったのでは。

「そうですね。12人くらいのグループでの行動だったのですが、真っ暗闇の山中を10時間以上、歩きっぱなしで、誰ひとり休もうとしないのですから、体力も限界ぎりぎりでした。ただ、マダムはなけなしの食料、自分のリンゴや水まですべて均等に仲間に分けるんです。私もその一人に加えてもらったから、生き延びることができた。マダムには、ああした窮状を世界に知らしめたいという思いがあったのでしょう」

 ――命からがら亡命し、ソウルに着いても、念願の家族揃った暮らしは幸せには見えません。

「今度は韓国でスパイ容疑をかけられたりしますからね。売り飛ばされた先とはいえ、中国で自分を送り出してくれた夫や義母のことも心配で、どうにもならない。そういうことに追われ、幸せかどうかなど考える余裕はないのです」

 ――共謀罪などによる監視社会が目前の日本で、見て欲しいところは。

「大きく言うと、国家という巨大なシステムが、何の罪もない平凡な庶民の生活をぶち壊していること。そんな現実があるということです」

 10日(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開。