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大学受験でも「契約書を読み、理解すること」が必要になる時代

6/9(金) 17:10配信

ZUU online

■もはや「知らない」では済まされない契約書の読み方

文部科学省は16日、現行の大学入試センター試験に代わって2020年度から実施される「大学入学共通テスト(仮称)」の原案を公表、独立行政法人大学入試センターのサイトでは「記述式問題のモデル問題」が公開されました。たとえば、国語の試験では「行政が発行した架空の広報資料や「駐車場使用契約書」に書かれている内容を読解・解答する」など、実社会とのかかわりが深い文章を題材にすることも検討されているようです。

モデル案ではこうした出題のねらいを「法律知識を問うのではなく、論理が明確で実社会とかかわりの深い文書を通じて、内容を読解し、自分の考えを論理的に表現する力を問う」としています。

ですが、このような文書は独特の表現が多く、慣れていないと社会人でも読み解きづらいものです。そこで、契約書を例に「難解な文書を読み解くコツ」を見てみましょう。

■あの難解で独特の書き方は何を表しているのか

契約書とは「当事者間でこういうことが起きたら●●する」「△△したいときはこのようにする」などの「約束ごと」を文書化したものなので、あいまいな書き方で多様な解釈ができるようでは意味がありません。そのため「明快かつ論理的な文にする」ことを最優先として、多少難解な言い回しや厳密な表現が用いられています。

◆甲や乙って何? なぜ置き換える必要があるの?

どの契約書でも最初に「~(以下、甲とする)」などと記されています。これは、いちいち正式な名称を書くのは面倒だから甲や乙といった表記に置き換えているだけです。なので、別に「ABC…」で置き換えても構わないのですが、慣例として古代中国や日本の陰陽五行で使われてきた十干「(甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸)」が主に用いられています。

◆権利と義務の表記

契約書では「このような場合には、甲は●●することができる」「次のような場合、乙は◆◆しなければならない」という書き方がよく見られます。これは、それぞれ権利と義務について規定したものです。

後者の「しなければならない」という書き方は義務を示すものとしてわかりやすいのですが、前者の権利を示す書き方はどういうことなのか、具体的にみてみましょう。

【例文】
第一条
太郎は次郎に対し金500円を貸与する。次郎は2011年12月31日を期限としてこれを返済する。
第二条
太郎は、次郎の側に合理的理由があると認めるときは、返済の期限を延期することができる。

仮に、次郎が2011年12月31日になっても太郎から借りていた500円を返したくないと思い、「第二条によると『期限を延期することができる』んだから、まだ返さないよ!」と言い張ったとしましょう。次郎は正しいでしょうか?

例文の第二条は、太郎の権利を規定したものです。太郎が「返済の期限を延期することができる」という条文は、「太郎は返済の期限を延期しないこともできる」ことを意味します。つまり、期限を延期するかどうかは太郎が一方的に決めてよいことなのです。

したがって、次郎が勝手に「まだ返さない」と決めることはできません。もちろん、太郎が「まだ返さなくていいよ」と言ってくれれば話は別です。

(『読解力の基本』速越陽介著 P.154-155より一部編集のうえ引用)

■一見複雑に見える例外・二重否定

実社会では、どのような約束事を決めても必ず例外というものがでてきます。当然契約書でも、権利や義務を規定するにあたり、例外についても厳密に書いておかなければなりません。なかには、二重否定の書き方をつかって「例外のなかからさらにまた例外を規定している」など、一見わかりづらい書き方になっている場合もあります。具体例で見てみましょう。

【例文】
第3条
1 当会社は、次の(1)から(12)までのいずれかに該当する事由によって生じた傷害または発病した疾病に対しては、保険金を支払いません。

(中略)

(9)戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱またはその他これらに類似の事変。ただし、テロ行為(注5)を除きます。

(中略)

(注5)テロ行為
政治的、社会的もしくは宗教・思想的な主義・主張を有する団体・個人またはこれと連帯するものがその主義・主張に関して行う暴力的行動をいいます。

(『読解力の基本』速越陽介著 P.164より一部編集のうえ引用)

この条項は、保険会社(=サービスの提供側)が「保険金を支払う(=サービスを提供する)義務を負わないパターン」を書いた「免責事項」と呼ばれるものです。通常、保険会社は「契約者が事故や病気にあったときに保険金を支払う」というサービスを提供しているため、このような免責事項は「支払い条件の例外」を規定していると言えます。

ここで(9)を見てください。この第3条の1は「支払わないケース」について規定しているので、「戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱またはその他これらに類似の事変」といった理由で契約者がケガをした場合は、保険金を支払わないとしています。

しかし、その直後に「ただし、テロ行為(注5)を除きます」と書かれており、その下の注釈でテロ行為とはどういうものを指すのかを規定しています。この場合、「支払わない」というケースからさらに例外として除かれているので、仮にテロ行為によってケガをした場合は保険金が支払われるということになります。

ついでに、この文面についてもう少し考えてみましょう。「革命や内乱による被害に対しては保険金が支払われないが、テロ行為によるときは支払われる」とありますが、現実的に考えると、革命や内乱も一定の政治的・社会的信条のもとに行なわれている行為なので、テロ行為との境界は非常にあいまいです。

それらの違いを定め、保険金支払いの判断を下すのは保険会社です。ここでもし「保険金を支払わない」という結論になったら、契約者と保険会社の間で利害の衝突が生まれます。実際、保険に限らずとも契約書の文面の解釈をめぐって裁判になることも珍しくありません。

こうしたことを防ぐには、契約締結時に例外(ときには例外の例外)を把握したり、不明な点についてしっかり確認することが必要です。そのためにも、契約書よく読む習慣をつけることが重要だといえます。

(提供:日本実業出版社)

最終更新:6/9(金) 17:10
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