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あなたが電車内で失った“忘れ物”の運命

6/9(金) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 「傘の忘れ物にご注意ください……」

 雨の日、電車内の自動放送のあと、車掌さんが付け加える時季になった。電車の手すり、プラットホームのベンチに、ぽつんと取り残されている傘。忘れられたのか。捨てられたのか。強風などで骨が曲がっていたらごみ、きれいに畳まれていたら忘れ物。そういう区別はない。食品の空容器など明らかにごみと分かるもの以外は、忘れ物として扱われる。

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 阪急電鉄は5月24日、「傘のお忘れ物の保管期間を2週間に変更します」と発表した。従来の保管期間は3カ月だった。それを2週間に変更し、持ち主を特定できない場合は処分するという。大胆で厳しい変更に思えるけれども、それは誤解だ。今回の処置で、傘に関しては持ち主が引き取りやすい形になっている。傘以外の忘れ物に関しても、阪急電鉄は他社より丁寧な対応をしており、それは継続される。

 阪急電鉄公式サイトの「阪急線内でのお忘れ物のご案内」を見ると、同社の忘れ物の対応は次の通り。各駅に届けられた忘れ物は、梅田駅のお忘れ物センターに集められる。ここで3日間保管されたのち、大阪府警曽根崎警察署に移され、さらに3カ月間保管される。これで持ち主が引き取りに現れなかった忘れ物は処分される。

 今後、傘に関しては扱いが変更になり、警察署に移されない。梅田駅のお忘れ物センターに2週間保管され、引き取り手がなければ処分される。全体で3日+3カ月だった保管期間が、傘に関しては2週間となり大幅に短縮となる。しかし、梅田駅のお忘れ物センターの保管期間は3日から2週間の延長だ。これまでは4日目以降に傘の忘れ物を申告すると「警察署に移しました」となった。今後は、3日+2週間まで阪急電鉄内に保管されるから、取り戻しやすい期間が延びた、という話である。

●他社の忘れ物の対応は……

 阪急電鉄以外の鉄道事業者は、忘れ物についてどんな対応をしているだろうか。JRグループ各社の場合はほぼ同じ対応だ。届けられた駅でデータを登録したのち、集約場所にまとめられる。ここで一定期間保管されたのち、集約駅の最寄り警察署に移される。ここでいう“一定期間”は、保管場所によって異なると説明されている。しかし、遺失物法に照らし合わせると、一定期間は最大2週間だろうと思われる。

 遺失物法では、忘れ物を拾った人は速やかに持ち主に返すか、警察署長に提出する義務がある。施設内で忘れ物を拾った人は施設占有者に届けてもよい。ただし、不特定多数が利用し、忘れ物件数が多く、適切な保管場所を用意できる施設は、政令で特例施設占有者として扱われ、忘れ物の保管ができる。

 特例施設占有者も速やかに持ち主に返すか警察署に届ける義務がある。しかし、実物を届けなくても、2週間以内に忘れ物に関する書類を警察署長に提出すれば、そのまま保管を続けられる。見方を変えると、2週間以内に実物を警察署長に届ければ、書類を提出する必要はない。書類作成の手間を省くため、2週間以内に実物を警察署に渡したい、となる。鉄道事業者が保管期間を2週間とせず、保管場所によって異なるとする理由は、毎月○日と○日、あるいは毎週○曜日など、締め切り日を設定しているからだろう。

 大手私鉄各社は対応が異なる。JR同様「一定期間保管したのち警察へ」とする会社が多い。しかし、「1週間以内に警察に届ける」(東急)、「最大3カ月間保管」(京急)という会社もあった。

 遺失物法には処分に関する条文もある。保管中に忘れ物の価値が下がりそうな場合、保管に過大な費用や手数がかかる場合は売却してもいい。また、持ち主が2週間以内に判明しない場合も売却できる。この場合、忘れ物がモノからカネになっただけで、持ち主に返還するために現金を保管する必要はある。いずれにしても、忘れ物は3カ月間で拾い主のものになる。

 ただし、買い手が現れず、売却しても売却のための費用が回収できない場合は処分できる。また「傘、衣類、自転車その他の日常生活の用に供され、かつ、広く販売されている物」は2週間で売却処分可能だ。阪急電鉄が「2週間保管ののち処分」と発表した根拠はここだ。

 処分された場合は持ち主には戻ってこない。鉄道施設や電車内に限らず、忘れ物をした場合、気づいたらすぐに取り戻す行動を起こそう。先延ばしにするほど取り戻せる可能性は低くなる。

●処分された忘れ物たちは……

 持ち主が現れず、拾い主からも権利放棄された忘れ物たちはどうなるか。警察署の保管期限が切れると、廃棄または払い下げとなる。デパートの催事場などで開催される「鉄道忘れ物市」の商品になる。また、大阪市天王寺区には常設店舗「鉄道わすれもの店 兼商」があり、鉄道忘れ物の話題には欠かせない店舗だ。

 忘れ物販売イベントの日程を知る方法は専門業者やデパートが発信している。筆者が見聞きするところでは、神奈川県の百貨店「さいか屋」が開催している。また、埼玉県吉川市のリサイクルショップ「よろづや」は、イベントホールで「鉄道 忘れ物市」を開催しており、Twitterで開催日と会場を告知している。

 鉄道忘れ物市ではどんなモノが売られているだろう。よろづやのチラシを見ると、雨傘は10円から。衣料品、ハンカチなどは100円から。大手メーカー製イヤフォンは300円から。こうしたものを電車内に忘れがちな人は、いっそはじめから忘れ物を買った方がいいかもしれない。腕時計やサングラスなどのブランドものは市場価格の3分の1程度の値付けだ。アクセサリー、貴金属類もある。本は50円均一、トレーディングカードは10円。お宝が眠っていそうな気配……。

 新品と表示されているものは、おそらく買ったばかりで箱のまま、網棚にでも乗っていたのだろう。引き取りに来ないとは、取り戻す方法を知らないか、新たに買い直してしまったか。景気の良い人もいらっしゃるようだ。

●東京都では1年間に36億円も落ちている

 景気が良くなったと思える話題として、5月23日、相模鉄道と相鉄バスは共同で「2016年度のお忘れ物件数が8万4759件で過去最多」と発表した。前年比4158件の増加だという。最も多い忘れ物は傘で、2万2671件。梅雨の6月と台風や秋雨の9月に多いそうで、この報道発表も梅雨を控えて「傘を忘れないで」という意味を含めているようだ。1日に300本が届けられる日もあるという。忘れ物2位は袋、封筒類。書類や手紙だろうか。

 鉄道事業者にとって、忘れ物の保管、手続き費用も見過ごせない。阪急電鉄と相模鉄道の報道発表は、小さな悲鳴とも言えそうだ。

 相模鉄道の報道発表で注目すべきところは、3位の現金。総額は表記されていないが、件数としては5839件、前年比10%の増加となった。小銭を落とす程度なら仕方ないとして、財布などは取り戻したい。

 ちなみに、報道によると、東京都内で2016年に落とし物として届けられた現金は約36億7000万円だった。産経新聞の記事によると、7年連続の増加。過去最高記録となった。バブル景気のころの1990年に記録した約35億円を超えたという。ただし、2016年は返金額も過去最多の約27億円で、取り戻した人も多かった。いずれにしても、差し引き約10億円が拾い主のものになり、拾い主が権利放棄した場合は東京都の歳入となった。

 東京都では年間で36億円以上も現金が落ちている。そう思うと、なんとなく下を向いて歩きたくなる。しかし空を見上げれば梅雨入りだ。くれぐれも傘をお忘れないように。

(杉山淳一)

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