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10分で分かる、今さら聞けないクラウドの真の価値

6/9(金) 12:12配信

ITmedia エンタープライズ

 この10年で私たちの生活を劇的に変えたものといえば、モバイルとクラウドだろう。この2つのトレンドは、日々の生活から時間や場所の制約をとりはらい、そのおかげで私たちはいつでもどこでも必要な情報が得られるようになった。

【画像】クラウドがもたらした新たな価値とは

 さらに大きなモバイルとクラウドの恩恵を受けているのが、企業のビジネスシーンだ。この2つのトレンドは今、企業のビジネスプロセスを変え、大きなパラダイムシフトを巻き起こそうとしている。

 企業はこれからモバイルとクラウドの価値をどのように捉え、自社のビジネスにどのような形で取り入れていけばいいのか――。エンタープライズ編集部主催の勉強会、「デジタル改革塾」の斎藤昌義氏の講演から読み解く。

●クラウドを理解するための基礎知識

 「クラウド」と「モバイル」は、カテゴリーこそ異なるものの、相互に深く関わり合っている。この2つのテクノロジーが登場したことで、世の中における『ITの価値』は大きく変わったという。

 「クラウドとは何か」を正しく理解するためには、「情報システムの構成」を理解することが重要だと斎藤氏。情報システムは、「インフラストラクチャ―(インフラ)」が土台にあり、その上に「プラットフォーム」が乗り、さらにその上で「アプリケーション」が動くという3層構造になっていると説明する。

 最も上位にあるアプリケーションは、特定の用途を実行するために作られたシステムだ。例えば、生産管理や販売管理という業務のために作られた生産管理システムや販売管理システムなどがそれにあたる。

 アプリケーションを動かすには、データを管理する仕組みや通信、セキュリティを管理する仕組みなどが必要になる。こうしたデータベースや通信機能、セキュリティの機能は、あるアプリケーションのためだけに「専用に作り込む」必要はなく、異なるアプリケーションでも共通に使える。この共通に使える機能を備えたソフトウェアを総称して、「プラットフォーム」と呼ぶ。WindowsやAndroid、iOS、Linuxなどのオペレーティングシステムは代表的なプラットフォームといえるだろう。

 アプリケーションとプラットフォームはソフトウェアだが、これらのソフトウェアを動かすためには「土台」となるハードウェアが必要となる。そして、ハードウェアを動かすには、電力なども必要だ。ハードウェアや電力など、付帯する設備、建物までを総称して「インフラ」という。

 斎藤氏は「情報システムは3つの階層によって構成されている。クラウドを理解する上では、このことをしっかりと押さえておくべき」と強調した。

●情報システムの3階層とクラウドの関係

 それでは、情報システムの階層構造とクラウドとの関係はどうなっているのだろうか。斎藤氏は、「アプリケーション、プラットフォーム、インフラという情報システムの各層をネットワーク経由でサービスとして提供するのがクラウドコンピューティング」と説明した。

 斎藤氏によれば、従来、企業にとってコンピュータとは「自社で持つのが当たり前」のものだった。ところが、巨大なデータセンターにコンピュータの機能や性能を集約して、ネットワーク経由でコンピュータのさまざまな機能や性能を「必要なときに」「必要な量だけ」使わせてもらう形態が登場した。具体的には、CPUの能力を「何時間分」というような、使用した量に応じて費用を支払うスタイルだ。「従量課金がクラウドの利用形態」だという。

 クラウドによって、企業にどのような変化が起きるか。例えば、従来ならサーバを調達するのにさまざまな手続きやセットアップを含めて2カ月から3カ月の期間がかかっていた。その上、企業がハードウェアを調達(購入)すれば、それは資産化されるので、計上などといった経理上の処理も必要になる。

 ところがクラウドなら、従量課金なので「経費」になり、必要に応じて減らすことも増やすこともできる。企業にとってはTCOの大幅な削減が可能になるわけだ。さらに、クラウドなら用意されたメニューからサーバの機能などを選んでいくだけで、必要なシステムを素早く構築できるというメリットもある。

 ソフトウェアの設定だけでインフラを設定したり、構築、調達したりできる技術の総称を「SDI(Software Defined Infrastructure)」といい、これが、まさにクラウドコンピューティングを形作っているといえるだろう。

●「失敗のコスト」が劇的に下がり、イノベーションを加速

 企業はクラウドが登場したことで、必要なシステムを簡単に素早く、低コストで手に入れられるようになった。従来であれば、ITを使って新しいプロジェクトを立ち上げたいと思っても、失敗した場合のリスクを考えて着手できなかった案件が、クラウドなら「数千円の損失」で済むのでハードルが下がる。これこそが、爆発的なイノベーションが起きている理由の1つだ

 「クラウドの登場によって、失敗のコストが下がった。成功確率は今も昔も変わらないだろうが、今は失敗のコストが安くなったからたくさん失敗できる。失敗の数が増えれば、当然、成功の実数も増える。それがITにおけるイノベーションを爆発的に加速させている」(斎藤氏)。

 ITの難しさが隠され、利用者の裾野がどんどん広がっていく。そしてITの利用価値がさらに高まっていく――。このようなサイクルが生み出されたことが、クラウドのもたらした大きな価値というわけだ。

●クラウドの分類

 斎藤氏は続けて、クラウドには提供されるサービスモデルによって「SaaS」「PaaS」「IaaS」があることに触れた。アプリケーションをサービスとして提供するのがSaaSで、これは例えば、Office 365、Salesforce、Gmailなどが挙げられる。

 PaaSは、データベースの機能を提供する。データベースを使うには、導入設定やバックアップ、トラブル対応、ソフトウェアの修正パッチの適用などを行う必要があり、この運用の手間を全部請け負ってくれるのがPaaSだ。

 IaaSは、物理的なコンピュータをユーザーごとに能力で切り分ける。「1台のハードウェアだが、それをあたかも10台や20台のコンピュータが存在するように見せかける技術を『仮想化技術』という。仮想化によってサーバやストレージを貸し出してくれるのがIaaS」(斎藤氏)。

 クラウドはサービスモデルだけでなく、「配置モデル」でも分類できる。企業が「自分たちの会社だけで専用のクラウドを使いたい」と考えた時に適しているのがプライベートクラウド。施設やデータセンターを自社で借りて専用のクラウド環境を構築するスタイルで、当然、費用も掛かる。

 一方、パブリッククラウドは共同利用モデルだ。運用管理の全てを「クラウドの事業者へ任せる」という考え方だ。クラウドは、大きく分けるとプライベートとパブリックに分けられるが、物理的にはパブリックで、全体の運用管理はクラウド事業者に任せ、特定の領域を自社専用に割り当ててもらう使い方がある。これを「ホステッドプライベートクラウド」という。また、プライベートとパブリックを必要に応じて使い分けようという、「ハイブリッドクラウド」という考え方もある。

●クラウドが備える5つの特徴とは

 斎藤氏は、クラウドの特徴として次の5つを挙げた。

・オンデマンドセルフサービス→メニューから選ぶだけで必要なシステムの構成や機能を調達できる
・幅広いネットワークアクセス→PCだけでなく、スマートフォンなどさまざまなデバイスからアクセスできる
・リソースの共有→複数の企業が共同で利用できる領域を持っている
・迅速な拡張性→必要に応じて拡張や縮小ができる
・サービスの計測可能・従量課金→どれくらい使ったかがひと目で分かる

「これらの5つの特徴を持っているものを、クラウドコンピューティングと呼ぼうという考え方がある」(斎藤氏)

●「モバイルのクラウド利用」を加速させたiPhone

 クラウドとモバイルの関係について考えるとき、忘れてはならないのが2006年のiPhoneの登場だ。斎藤氏は、モバイルインターネット普及の原動力となった「iPhone登場」の衝撃の1つに、搭載ブラウザで「Flashが使えなかったこと」があると指摘した。

 スマートフォンが普及すればするほど、多くのコンテンツプロバイダーがFlashでアプリを作ることに対して危機感を持つようになり、その結果、Flashのシェアが落ちて、それに代わる技術が注目されるようになった。それが、「Ajax」という技術だ。

 この技術によって、プラグインを必要とせず、ブラウザが持っている標準的な技術だけを使って、Webアプリネイティブなアプリのように滑らかに動かせるようになった。ブラウザ上でも滑らかにWebアプリを動かせるようになった。

 「Ajaxの登場で、ブラウザがあればPCにアプリを入れなくても、インターネットの向こうにあるアプリをPCに導入したアプリのように滑らかに、使い勝手よく利用できる世界が実現可能となった」(斎藤氏)。つまり、クラウドの利用がこの技術によって加速したのだ。

●クラウドがもたらす「パラダイムシフト」とは

 講演の最後に斎藤氏は、インターネットの歴史を振り返りながら、ITがどう進化してきたかを振り返った。

 インターネットやクラウドが登場する以前は、限られた利用者同士がネットワークを結び、特定のサービスを利用していた。そして、インターネット以降は、誰もが利用するオープンなネットワークでサービスを利用し、それらをお互いにやりとりできるようになった。斎藤氏は「このようにITの使い方が大きく変わってきた」と述べた。

 その結果として、さまざまなサービスや企業がインターネットとクラウドを経由して、お互いにデータをやりとりできる環境が整ってきた。それが、新たなサービスを生み出し、ビジネスや社会の仕組みを変化させているという。

 当初クラウドは、単にコンピュータを安く調達するための1つの手段と考えられていた時期もあったが、今は状況が大きく変わり始めている。クラウドやモバイル、IoTが一体となった「新しいITの基盤」が構築され、ビジネスや社会に本質的な変化をもたらし始めているのだ。

 「仕事でも日々の暮らしでもネットワークを経由して情報システムとつながるという新しい社会基盤ができあがろうとしている。クラウドがもたらした本当の価値はそこにある。これによって仕事のやり方が変わり、人との関わり方も変わり、価値観も変わっていく。こうした本質的な変化が、クラウドの登場によって引き起こされている。これらは常識が変わる、いわゆる『パラダイムシフト』だ」(斎藤氏)

 斎藤氏は、パラダイムシフトによって「世の中には、今後、どのようなことが起きていくのか、それについてはデジタル改革塾の最終回で詳しく説明したい」と述べ、セミナーを締めくくった。