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<英総選挙>首相の戦略に誤算 「エリート」支持離れ

6/9(金) 21:42配信

毎日新聞

 【ロンドン矢野純一、八田浩輔】8日の英総選挙(下院選、定数650)で、地滑り的な勝利をもくろんでいた保守党の狙いは外れ、過半数を割る大敗をした。総選挙実施を宣言した直後は労働党との支持率の差は20ポイント近く開いていたが、「反エリート」を前面に打ち出したコービン氏が党首を務める労働党が保守党を猛追。一方、保守党のメイ首相は「欧州連合(EU)との離脱交渉には強い指導者が必要だ」と訴えたが、エリートのイメージがつきまとい労働者の支持を得ることができなかった。

 EUからの離脱を決めた昨年6月の国民投票の結果に、国民の間には交渉の行方に不安が広がっていた。2020年に予定されていた総選挙の前倒し実施を決断したメイ氏の狙いは、交渉を確実に進めるために「選挙で勝利して強力な権力を握る」(保守党議員秘書)ことだった。

 メイ氏は選挙を「離脱交渉のため」と位置づけ「EUとの交渉では強く安定した指導者が必要だ」と繰り返した。選挙戦序盤には40%台後半を維持するメイ氏個人への高い支持率を背景に、保守党ではなく「私に投票して」とメイ氏個人を前面に打ち出した。

 しかし、「私」を繰り返すメイ氏に対し、国民は徐々に距離を感じるようになった。メイ氏が、各党党首が出演するテレビ討論会に参加しないことを宣言すると、国民に向き合わないメイ氏に対し「逃げている」と批判が上がった。

 メイ氏は内相時代からアドバイザーとしていた人物を首相官邸に引き入れ、夫も含め4人だけで全てを決めていた。保守党内からもメイ氏の密室政治に対して不満の声が上がっている、と英メディアが報じると、エリート臭のしないコービン氏への支持が広がっていった。

 「コービン氏は労働党内でもアウトサイダーだった。だから労働党が大きく議席を伸ばした」。ロンドン北部の元労働党地区委員のマシューさん(64)はこう説明する。コービン氏は15年9月に党首に就任するまでは党員の間では反核などを叫ぶ「活動家」とみられていたという。左派色の濃いコービン氏への反発もあったが、「保守党よりはまし」と支持者離れは広がらなかった。

 コービン氏は「少数の金持ちではなく、多くの人のための政治をする」と訴えた。マニフェストは、鉄道やガス会社などの国営化を盛り込んだ左派色の濃い内容だった。同時に大学の授業料無償化や福祉の充実など、国民が最も関心のある暮らしの改善に焦点を当て、身近な問題とは結びつきにくい離脱交渉の争点化を避けた。高齢者に負担を強いる保守党のマニフェストを徹底的に攻撃した。

 ロンドン政治経済学院(LSE)公共政策研究所のトラバーズ所長は「昨年の国民投票では、多くの労働者が、政治家にないがしろにされ経済発展から取り残されていると不満を抱いた。そんな労働者が、何かを変えなければならない、と離脱を支持した。今回の結果も、労働者の多くが、エリート層の支持を得る保守党やメイ氏に反発したのではないか」と分析する。

最終更新:6/9(金) 23:49
毎日新聞