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米国経済のアキレス腱、企業借金の急膨張

6/9(金) 15:00配信

ニュースソクラ

矛盾だらけのトランポノミクス

 トランプ大統領が誕生後、大幅な法人減税や10年で1兆ドル規模のインフラ投資が米国の景気拡大をもたらすというトランポノミクスへの期待が高まってきた。米国の株価が高値を更新して企業収益も高水準を続けている。米国の企業経営者にとっては我が世の春であろう。

 しかし、そういう中で見逃せないのは長引く金融緩和と好景気が続く中での強気な姿勢があいまって米国企業の負債レバレッジ、つまり借金の規模が急速に膨らんでいることだ。米国の債務問題というと、家計部門が取り上げられがちだ。最近でもサブプライム危機、リーマン・ショックと続いた金融危機は家計の過剰な住宅ローン借り入れとそれを証券化した商品の焦げ付きがきっかけとなった。

 確かにいったん落ちこんだ家計部門の債務は再び増えている。ニューヨーク連銀の発表によると、2017年3月末の家計債務残高は12兆7,300億ドルとリーマン・ショック前のピークを抜いた。とくに高額の学生ローンや低所得層に対するサブプライム型自動車ローンの伸びが大きい。

 家計債務問題も重要だが、それに目を奪われて見過ごされがちなのが米国企業部門の債務累増である。IMFが4月に発表した世界金融安定化報告書(Global Financial Stability Report)では米国企業部門におけるユーフォリアともいうべき現象に警戒感を強めている。

 債務累増の背景として指摘されるのは、長らく続いた超金融緩和の中で、銀行間の過当競争が激化して、借り手の財務状況を監視する、いわゆる「財務制限条項」が緩和され続けたことが挙げられる。また石油価格の高騰を眺めた石油産業、オイルシェール業界などの投資が増え続けてきたこと、不動産市場の活況に伴う不動産業界のレバレッジ拡大も大きな要素である。

 IMFではS&P500社のインタレスト・カバレッジ・レーシオ(支払金利前、税引き前利益に対する利払い費用)は1.5倍とITバブルやリーマン・ショック時と並ぶ高水準になっていると指摘している。とくにエネルギー、電力、不動産という三業種が最近二年間の借入急増により伸びを高めている、と警告を発している。すでにクレジットサイクル(信用が回復、拡大、減少の循環をたどること)からみても最終局面に近づいていることも経験的に見て将来の不良資産増加につながるとの懸念を示している。

 現在の金融情勢を考慮すれば、直ちに金融危機が起きるとは思われない。しかし、IMFでは米国企業の総資産ベースで1割の企業が現状でも経常収益からの利払いに四苦八苦(struggle)しているとも試算している。仮に金利上昇シナリオとなるとその割合は2倍に増えるという試算を示している。要警戒水域にあるといえよう。

 一番怖いのはトランプ大統領の経済政策がもたらす不確実性である。トランプ大統領が唱える貿易赤字の縮小と大幅減税、大規模インフラ投資といった政策が並び立つことはない。

 トランプ大統領は貿易赤字を企業の赤字と同一視してその分、米国の国力がそがれているとの考えのようだ。しかし、貿易赤字は過剰消費と裏表の関係にある。もし貿易赤字を減らすことを最優先するのであれば増税と投資抑制で国内総需要を抑え込む必要がある。

 その反対の減税とインフラ投資は消費・投資の拡大につながり、貿易赤字を一段と膨らませる。減税、インフラ投資の拡大によりインフレ期待が高まり、財政収支も悪化するので長期金利が上昇する。FRBも黙っていない。インフレ抑制のため金融引き締めに入る。そうなると、消費・投資が冷え込む。このようにトランポノミクスで市場が期待している需要拡大効果は金利上昇により阻害される。

 財政中立を党是とする共和党が減税、投資の財源を手当てせずにトランポノミクスを承諾するか疑わしい。そもそもロシアゲートで揺れるトランプ政権に強力な経済政策を打ち出すような信認が国民、議会の間であるのかが問われよう。ひょっとして、想定外の景気後退、予期せぬ金利上昇が生じるかもしれない。IMFのメッセージは、トランポノミクスの直接的批判は避けながら、企業経営者は万一の景気後退、予期せぬ金利急騰に備えて、これ以上債務を膨らませることには慎重であるべきだということに置かれている。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:6/9(金) 15:00
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