ここから本文です

農業データはだれのものか?

6/9(金) 18:00配信

ニュースソクラ

情報一元化プロジェクトスタート 農家には警戒感も

 今や農水省よりも農業改革に熱心な内閣府が音頭を取って、農業データの一元化構想が動き出す。5月半ばには慶応大学や企業、農業団体を集め日の丸プロジェクトが発足した。1年後からの本格稼働を目指す方針だ。構想にはIoTやAI、ビッグデータなどのICT用語が飛び交う。だが、肝心のシステムの主導権を誰が握るのかが不透明のように見える。

 内閣府が進めているのは農業データ連係基盤(プラットフォーム)と呼ばれるデータ共有の仕組みだ。企業や団体ごとにバラバラに完結している現在のICT利用を改め、データを一元的に使えるようにする。

 日本では勘や経験に基づき付加価値の高い農業を進めてきた。篤農家や名人芸のようなスキルの高い技術は、親から子へと伝わってきたが、高齢化や後継者不足で急速に技術が失われようとしている。「ICTを活用してデータを蓄積し、それを活用することで世界に先駆けたデータ活用型の農業を実現する」と言うのが、推進する内閣府や慶応大学の神成淳司准教授の説明だ。

 井関農機、ヤンマー、NEC、NTT、ソフトバンク、パナソニック、富士通など19企業が参加する。こうした企業や団体は、農機やほ場に設置した環境計測装置などから得られたデータをもとにして、農家に独自の支援サービスを提供している。多くが農機や情報機器を購入した顧客に対する「付属サービス」の色合いが濃く、囲い込みの意味もあって、競合他社との協力には消極的だった。

 その壁を壊そうというのが内閣府の考えだ。

 「データに基づく戦略的な経営判断」「無償・有償での農家に役立つ情報提供」「世界に先駆けて実現」。記者会見で配られた慶応大学の資料には、ICTの恩恵が強い農業経営に結びつくというメッセージが多くちりばめられている。

 しかし、同構想が掲げるデータ連携や共有はもろ刃の剣でもある。元データを提供する農業経営者は、利便性と引き換えに自らのほ場や経営に関する情報を企業に渡すことになる。個別経営の生データが直接開示されないとしても、蓄積されてビッグデータとなれば、企業の側に大きな利点が生じかねないからだ。

 たとえば、米国グーグル社は便利な検索サービスを提供し、そこで収集したデータを基盤にして、広告などさまざまなビジネスに結びつけ急成長した。利用者は無料で多くのサービスを受けられる半面で、一企業が膨大な利益を稼ぎ出す結果になった。

 同構想に参画するある農業法人の社長は「農業分野のICT利用促進に異論はない。だが、経営者として、貴重なデータを無条件で第三者に吸い上げられるわけにはいかない」と話す。農産物の生産販売だけではなく、作物の栽培方法や人材育成などの分野で蓄積したノウハウも、新たな法人の収益源に育てたいと考えているからだ。

 農業経営の中で生じるさまざまな情報は誰のものか。あいまいなままだった農業経営と知的所有権との関わりが、農業データのプラットフォーム構想の中で問われることになるだろう。

山田 優 (農業ジャーナリスト)

最終更新:6/9(金) 18:00
ニュースソクラ