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【ライターコラムfrom山形】「歩」から「と金」へ…一歩ずつ着実に成長するMF中村駿の歩み

6/9(金) 17:33配信

SOCCER KING

 第17節FC岐阜戦。ベンチスタートの中村駿に出番が回ってきたのは69分のことだ。1点ビハインドの状況送り出した中村に木山監督が与えた指示は、岐阜の司令塔である庄司悦大のところを潰しながら、前へ出て行くこと。「点を取って来いと言ったかどうかは覚えていない」と指揮官は言うが、2列目に入った中村はその2分後、同点弾を叩き込んでいた。

 GKから始まったビルドアップが左サイドで勢いを増し、中村に一旦預けてオーバーラップした高木利弥が敵陣深く侵入する。最初のクロスは岐阜DFにブロックされたが、ボールは再び高木の元へ。この時中村は、自分に誰もマークが付いていないことを感じながら、ペナルティエリアにぽっかり空いたスペースに走り込んだ。するとそこに高木からパスが送られる。

「ファーストタッチが足を伸ばした状態だったので、止めることで精一杯。2タッチ目でファーに打とうと思って置いたら、キーパーとディフェンスがそっちに動いて、それでニアが空いたので、そこに思いきり振るだけでした」

 前半、岐阜の術中にはまりペースを握れなかったモンテディオ山形は、この1点によりアウェイの地から最低限の勝点1を持ち帰ることができた。ちなみに中村本人によると、投入の際に監督から「点を取って来い」と言われたそうである。「監督、覚えていないのかな……じゃあ空耳ということにしておいてください」と、困ったように笑った。

 さて、この1点はもちろんチームにとって大切なゴールになったが、中村個人にとっても重要な意味を持つものだった。

 今季、ザスパクサツ群馬から山形に加入したプロ2年目の中村は、「遠藤(保仁)選手が大好き」な、攻撃センスの高いボランチである。1月の新加入会見で、一緒に加入した同じポジションの本田拓也や風間宏希について「僕より年齢もキャリアも上。学ばせてもらいたい」という発言を聞いた時には、なんて謙虚な選手だろうと思ったものだが、シーズンが始まってみれば、先発・途中出場を含め、戦力となっていた。第13節ツエーゲン金沢戦では移籍後初ゴールも挙げた。持ち味を出すことが出来始めて、表情にも自信が表れているように見えた。だが、ここまでの間には苦しい葛藤の時期もあったようだ。先発で数試合チャンスをもらったものの、再び控えに回った頃だろう。

「自分の中で迷いというか、自分はこの世界でやっていけないんじゃないかという不安がプレーの邪魔をした時期がありました。でもそこで落ちることなく、もう一回自分を見つめ直して、チームのために自分ができることを100%やろうと気持ちを切り替えることができた。それが今につながっているんじゃないかなと思います」

 岐阜戦の同点ゴールは、苦しい時間の過ごし方が間違っていなかったことの証明でもあったのだ。「自分の中では本当に大きい1点だった。自分が一回り成長できたんじゃないかと感じています」。

 そういえば新加入会見の際、モンテディオ山形の本拠地がある天童市にちなみ「自分を将棋の駒に例えると?」という質問をした時、中村は「歩」と答えた。その理由を「たくさんいるタイプだと思うので」と説明したが、木山監督は中村を評して言う。

「あいつは、ああいう(空いている)所へ2列目からスルスルっと入って行く目を持っている。入って行くということは、その場所を見つけられるということだから。そういう目を持っている選手はうちにもあまりいない。そこが彼のストロングだと思いますよ」

 この厳しいプロの世界に差し出せる能力が、自分の中にあるはずだということは、中村自身もきっとわかっているのだろう。数の多い歩兵に例えるだけならまた「謙虚な選手」で終わってしまうところだが、彼はこう続けたのだ。「その中でも、成り上がっていけたら」と。一歩ずつ前に進み、やがて「と金」に成る。その輝きを心待ちにしたい。

 山形は次節、群馬をホームに迎える。中村にとっては古巣だ。「自分を最初に拾ってくれたクラブなので、いい意味で恩返しをしたい。自分の持っているものを少しでも伸ばせるように努力してきたつもりなので、成長した姿を元のチームメートや群馬のサポーターの皆さんに見てもらえればと思います」。それはもちろん、山形のチームメーとやサポーターたちの大いに望むところでもある。

文=頼野亜唯子

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最終更新:6/9(金) 17:33
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