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深層学習と顧客理解、衛星データのマネタイズの鍵とは?

6/10(土) 7:30配信

ITmedia ビジネスオンライン

 今年4月、米国・シリコンバレーにおいて衛星データ解析に特化したカンファレンスが開催され、関連ベンチャー企業が集結した。

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 その場のステージに登壇した衛星データ解析ベンチャーの米Orbital Insightが5月に5000万ドルの大規模資金調達を発表するなど、米国では今、衛星ビッグデータ解析が白熱している。キーワードはディープラーニング(深層学習)と顧客理解だ。詳しく見ていこう。

●注目は農業、エネルギー、金融

 4月25日にシリコンバレーで開催された「Earth Pixels」は、衛星データの解析と利活用に特化したカンファレンスで、ここ数年注目を集めている。筆者も今回初めて参加した。その特徴はユーザー視点での議論だ。

 登壇者は、各業界の顧客企業と顧客向けにアプリケーションやサービスを提供する企業であり、この手のカンファレンスで多い衛星の作り手側の企業は登壇しない。セッションは顧客業界ごとに分かれて実践的な議論が行われる。

 今年は農業、エネルギー、金融がテーマだ。さまざまな可能性が指摘されている衛星データの解析と利活用であるが、現在米国で注目を集めているのが、この3つの産業であることが分かる。

●ディープラーニングで衛星データを解析

 エネルギーセッションでは、顧客企業としてShell(英・蘭)のグループ企業で原油探索と生産を担当するShell Exploration & Production Companyが登壇。サービス提供側のアプリケーション企業として、衛星データ解析ベンチャーの米Orbital Insight、気象データ解析企業の米Weather Companyなどが登壇した。

 登壇者間で交わされたデータ解析のキーワードはディープラーニングだ。Orbital Insightのジェイソン・ローン副社長は「衛星画像解析にディープラーニングを適用することで、これまで業界統計に載っていなかった5000の石油備蓄タンクを発見した(計2万タンク)。石油備蓄指標は各国政府や金融機関にニーズがある」と語った。

 同社はIT大手米GoogleやNASA(米航空宇宙局)などを渡り歩いてきたAI(人工知能)のスペシャリストであるジェームス・クロフォード氏が率いており、これまで合計8000万ドル近くを資金調達。衛星自体は保有せずに、欧Aribus、米Planet、米Digital Globeなどの衛星企業から画像を購入、機械学習を活用して衛星画像の中からさまざまな物体を認識、カウントするサービスを実施している。最近はアジア地域の開拓も積極的に展開中だ。

●顧客の業務プロセスやペインポイントを理解

 また、同セッションでは顧客に対するサービス提供の視点として、「サービスを売るには、顧客の業務プロセスとペインポイント(悩みの種)を深く理解するために時間を使う必要がある」「アプリケーション開発企業は顧客業務を理解して、言語が分かる人を雇うことが重要だ」と語られるなど、徹底したユーザー視点が求められるという。実際、Orbital Insightの担当者に聞いたところ、新規のアルゴリズムを組む場合には、顧客企業との間に数カ月の開発、実証プロジェクトを行うとのことだ。

 また、「衛星データはSilver bulletではない(※狼男を1発で倒すと銀の弾いう比喩から転じて、万能な解決策のことを指す)、パズルのワンピースだ」「価値はデータではなく、インサイト(示唆)である」といったコメントも繰り返され、データ統合により顧客企業の事業判断や経営判断を高度化することが求められている。

●サービスオファリング形態には課題が山積み

 Shellは既にSPOT、TerraSAR-X、Sentinel、DigitalGlobeなどさまざまな衛星データを活用してきているが、サービス提供側に対して「新たなソリューションを導入する際に既存業務プロセスにうまく統合できること、契約形態・SLA(サービス品質保証)・ワークフローなどをシンプルにすること、また解析や検知などは自動プロセスで行われて、意思決定段階のみを人間が行うようになるべき」と努力を呼び掛けた。

 さらには、Shellと協業するにあたっては「衛星データの利用ライセンスは多国籍企業にとっての使いやすさ、アジア市場に対応した低価格などに対する対応が必要」であり、また「ベンチャー企業は信用を失うようなOver selling(誇大広告)をしてはいけない。例えば、衛星データだけで石油が見つかるわけではない」と冷静なコメントも語った。

●ディープラーニングで穀物収穫量を予測する

 農業セッションでは、顧客側としてCalifornia Department of Food and Agricultureが、アプリケーション企業として農業ベンチャーの米Farmers Edge、気象データベンチャーの米Climate Corporation、衛星データ解析ベンチャーの米Descartes Labsが登壇した。

 冒頭に議論されたのは、昨今の農業技術革命の盛り上がりについてだ。背景としては、穀物価格の上昇、トラクターなど農業ハードウェアの高度化、機械学習のような新技術の登場、ファンディングの増加が指摘された。今回登壇したDescartes Labsは機械学習を適用して農業における穀物収穫量予測のビジネスを展開している。

 同社は元々、ロスアラモス国立研究所から2014年にスピンアウトしたベンチャー企業で、共同創業者のマイク・ウォーレン氏は宇宙の素粒子1兆個のシミュレーションなどの経験がある。これまでに800万ドルを資金調達していて、今年3月にはDARPA(米国防高等研究計画局)から150万ドルの開発支援も受けた。中東・アフリカでは、食糧問題が政治的安定や民族移動の関係性のつながるため、穀物収穫量をモニタリング、予測、解析するケイパビリティを構築するのが目標だ。

●求められるのは目に見える成果

 サービス導入に向けては、「農業産業は新しい技術の導入が遅いが、農業従事者の世代が変わって導入の兆しが見えてきた。他方、農業従事者は1年に1回作物を作るのが一般的であり、求めるのはどれくらい農薬スプレーを止められるか、いくらコストが抑えられるかといった直接的な成果だ」とのコメントもあり、目に見える成果が出るかどうかが導入の壁だということが分かる。

 米バイオ化学メーカーのMonsantoに買収されたClimate Corporationは、「農業は信用からなっている。市場に浸透するにはMonsantoや他の大手企業との提携などを通じて、業界課題に対する知識などを得る必要がある。そして顧客からデータをもらうだけでなく、それらのデータを統合して顧客が勝てるようなツールを提供する必要がある」と語り、顧客チャネルおよび顧客事業への貢献の重要性を指摘する。

 ディープラーニングのような最先端技術の話と、顧客理解や目に見える成果などの極めて現実的な話といった、両極端な課題が挙がる衛星データ解析市場。今後の動向を注視したい。

(石田真康)