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アカデミー賞ボイコット女優が語るトランプ大統領への怒り「とても小さな人間」

6/10(土) 6:50配信

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 第89回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したイラン映画『セールスマン』の主演女優、タラネ・アリドゥスティが初来日を果たした。ドナルド・トランプ米大統領が打ち出した入国制限に抗議し、メガホンを取ったアスガー・ファルハディ監督とともに同賞の授賞式をボイコットした彼女の胸中とは?怒りに震えた当時の思い、そして作品の中で描かれた“暴力”と“復讐”について真摯に語った。

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 本作は、『別離』(11)でも外国語映画賞を獲得している名匠ファルハディ監督が製作・脚本も務めた心理サスペンス。予期せぬ暴行事件をきっかけに、平穏な日々を送っていた夫婦の日常が徐々に狂い始める様を濃密かつスリリングに描く。ファルハディ監督の過去作『彼女が消えた浜辺』(09)で共演したシャハブ・ホセイニとタラネがひび割れていく夫婦を迫真の演技で見せる。

 イスラム教徒の移民に対するトランプ政権の入国制限処置に抗議し、今年2月に行われたアカデミー賞授賞式をボイコットしたタラネ。自身のツイッターでは、「トランプ氏によるイラン人へのビザ発給禁止は人種差別だ。私はこれに抗議してアカデミー賞に出席しない(一部抜粋)」と投稿したが、当時の心境は、「怒りに震えていた」と述懐する。「ただ、ツイートに関しては、怒りを感じながらも、努めて冷静に投稿しました。今、改めて当時を振り返ってみても、全く後悔していません。むしろ、あのとき沈黙を選択していたら、逆に自責の念に駆られていたと思います」と表情を引き締める。

 トランプ大統領に対しては、「彼は政界においても、ビジネスにおいても、真のリーダーの器ではないと思います。政策の内容だけでなく、冷静な行動も取れない小さな人間。だから、現在のポジションにいること自体が問題。どれだけ多くの人間を傷つけていることか…」と怒りを露(あらわ)にする。そして、その思いが多くの人々の心に届き、本作は見事に外国語映画賞を受賞。映画に国境がないことをアカデミー賞側が示すカタチとなり、欠席したタラネ、ファルハディ監督らに代わり、イラン出身の実業家アニューシャ・アンサリ氏が壇上で声明文を読み上げることになった。


 入国制限や人種差別の壁を越えて“作品”として高く評価された本作。物語は、何気ない日常が、謎の侵入者による暴行事件によって一変していくが、「この映画は、イランに特化した問題ではなく、世界中、どこでも起こりうる出来事」とタラネは主張する。ファルハディ監督も、「イランの女性には、“ガードは固く、身体や家庭は隠すもの”という考え方はあるものの、今回はそれを特に意識して描いているわけではない」と語っているが、「戦争の多いイランは“暴力”をとても身近に感じている国。平和な日本の皆さんが、この夫婦の在り方に“違和感”を持つとしたら、生まれ育った国の違いがあるかもしれない」と懸念するタラネ。

 ただ、「一つ言えるのは、“復讐”というものは、どこの国の人間の心の中にも芽生えるもの。その状況に置かれたとき、どんな行動に出るかは誰にもわからない。この作品では、暴行事件の犯人に対して、夫はどんどん復讐心を募らせていきますが、実際に被害を受けた妻は、“暴力を暴力で返してはいけない”と主張する。ここに強いメッセージが隠されていると思います。つまり、さまざまな争いで苦しんでいるわれわれが暴力で返してしまったら、彼らと同じになってしまうのです」と力説した。(取材・文・写真:坂田正樹)

 映画『セールスマン』は6月10日よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

最終更新:6/10(土) 6:50
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