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【NIE先生のなるほどコラム】156時間目「ひよっこ」に思う

6/11(日) 7:55配信

産経新聞

 ■日本の成長支えた「名もなき星たち」

 4月から始まったNHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」は日本の高度経済成長が始まる1964(昭和39)年の東京五輪の開催直前からスタートし、茨城の田舎から東京の工場に集団就職で上京した主人公・谷田部みね子が、働きながら成長していく姿を描いた物語です。陸上競技解説者の増田明美さんの情感あふれる語りや素朴な問いかけなどにも新鮮さを感じます。

 時代の流れの中、失われ忘れられた場面も多いですが、みね子たちの暮らしは確かに存在し復興から成長へと進む日本を支えた人々の姿を伝えています。

 例えば、みね子が初めての月給1万2千円を手にする場面が印象的です。寮生活での食費や光熱費を差し引かれ、手元に残ったのは6千円。みね子は考えた末に5千円を実家に仕送りし、残った千円でやり繰りします。感動的だったのは、父や母が世話になった洋食店に行き40円のコロッケ料理を注文し、いつかは数百円するビーフシチューを「食べられるように頑張る」と心に誓う場面でした。

 現在とは貨幣価値が違いますが、1960年代に小学生だった私は忘れていた記憶を呼び戻され、郷愁とともに現在の生活を恥じるような気分になりました。当時は病気にでもならない限り、バナナなどを口にすることはありませんでしたし、食事も全般に質素で、残さず食べることがごく普通のことでした。日本全体がまだつましく、限られた金額の中でやりくりをする生活が当たり前でした。

 現在はどうでしょう。潤沢なモノに囲まれ、口に合わない食べ物は残し、使わないモノまで買い込む。金銭の使い方に節度や節制を欠いていないか。そんな自問自答をしていました。同時に、そうした環境のもとでは人として持つべき目標や向上心も少しずつ失われていくのではないか。そう痛感しました。

 ドラマでは1室に6人で暮らす寮生活も描かれていました。生まれた土地も家庭環境も異なるうえ、多感な時期の少女たちが同じ室内で生活する毎日。多少の行き違いや衝突を乗り越え一緒に働きながら互いの身の上を少しずつ知る中、一人一人が絆で結ばれ、思いやり助け合う様子が描かれています。6人で銭湯に出かけた帰り道、焼き芋を3本買って半分に分けて食べる場面が印象に残ります。

 現在、各家庭で1人部屋が主流の子供たちに、6人部屋での生活は可能でしょうか。「プライバシーが守られない」「1人になる時間がなく、ストレスがたまる」。そんな不満が出て、難しいのではないでしょうか。

 個を尊重し、一人一人のよさや可能性を伸ばす教育が戦後の主流ですが、同時に集団として生活をともにしながら連帯感や助け合う気持ちを育てる教育もやはり大切だと、感じました。林間学校など施設を活用した集団宿泊訓練なども実施されています。成人へと向かう中、長期間、生活を共にすることができる施設や仕組みを充実させ、集団生活という体験を通じて一人一人が成長していくことも大切だと思います。

 みね子たちの生活をそっくり再現することは無理でしょう。しかし、現在の日本の繁栄や安定が、敗戦・復興から高度成長へと向かう中、それを支えた人々の頑張りや努力に負うことを忘れてはならないと思います。別れの際、寮生たちが合唱した「見上げてごらん夜の星を」にある「ささやかな幸せ」を祈る「名もなき星たち」こそが当時を生きた人々だと思うのです。(石田成人・東京未来大非常勤講師)

最終更新:6/11(日) 7:55
産経新聞