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【アグネスのなぜいま(15)】いじめられた本人以外、全員に責任がある

6/11(日) 10:01配信

ニュースソクラ

20年以上前に書いた「いじめ」についての本 日本の教育現場は変われたか?

 20年以上前、私は『いじめない、いじめられない、いじめさせない』(1996年、労働旬法社)という本を出版したことがあります。

 その中で、どんな理由があろうと、いじめられっ子には、まったく責任がないこと。いじめは人権侵害であり、犯罪であり、責任は全ていじめっ子にあること。いじめがあることを知りながら、見て見ないふりをする子供や教師は、犯罪の共犯者と同じであることを指摘しました。

 そして現在、2年前に15歳で「いじめられたくない」と日記に残して自殺した、茨城県取手市の中島菜保子さんへのいじめ問題が再燃しています。市の教育員会は、自殺の原因を調べるために、昨年3月に第三者委員会の設置を決定しました。

 しかし、すでにその時点でいじめ防止対策推進法で規定する「重大事態」には該当しないと議決していました。第三者委員会のメンバーは全員が男性で、文科省が指導する“県外”ではなく県内の専門家です。

 両親が独自に調査した結果、いじめがあったことを確認し提示していたにもかかわらず、それらの証拠に基づく聞き取り調査もしていませんでした。

 そこで不信感を抱いた両親が、今年5月29日に文科省に調査委員会の中止を申し出た結果、30日になって、市教育委員会は「重大事態に該当しない」とした議決を撤回しました。そして、教育長が両親に謝罪することになったのです。

 両親の個別の生徒への聞き取り調査によれば、主に3人の同級生による陰湿ないじめがあり、水飲み場やトイレに呼び出して授業に遅れさせたり、くさやと呼んだり、日々いじめの行為があったということです。

 文科省の指導の結果、ようやく教育長は「遺族に配慮が足りなかった」「反省している」と謝罪しました。しかし、こうした学校や教育委員会の対応の不手際が、問題をさらに深刻化させてしまったように思えます。

 義務教育の下で学校に来ている一人の生徒の命を失った事は、学校の教職員、市の教育委員会、全ての関係者に責任があります。

 子供の命を守る事ができなかった事は、教育に何かしら足らないことがあった結果であり、その責任から逃げることは、決して出来ないのです。問題は遺族に対する謝罪だけでは済みません。

 いじめは犯罪です。教育者は、いじめられた生徒ばかりではなく、いじめをした生徒にも、見て見ないふりをしていた生徒に対しても責任があります。適切な教育をしなければならないはずです。

 もし、教育現場が責任取りたくないために、いじめをした生徒の行為を摘発せず、庇うようなことをしたら、いじめた子供は反省することも更正することも出来ず、救いのない状態に陥ります。

 いじめをした子供に反省の機会を与え、学ぶ機会を与え、再生するチャンスを与えることこそ教育です。そうした教育や指導がなければ、少しでも良心がある子供なら、自分を責め続け、その後は楽しい人生を送れなくなります。

 もともと心が病んでいる子供なら、そのまま「悪い事をやっても、別に罰は与えられない。逃げ切った!」と喜んで、また、同じような行動を繰り返すかも知れません。

 さらに、いじめを目撃した子供に対する教育も必要です。いじめを見て見ないふりをした子供は、トラウマになるケースが多いといいます。もし、「いじめた側が勝ち、いじめられた側が負ける」という結果になれば、子供は、世の中には正義が存在しないと思ってしまいます。

 教育現場が責任逃れをやっていれば、子供達は社会に絶望し、権力者を軽蔑し、「黙って自分を守る事が一番賢い!」と、間違ったメッセージを覚えてしまうかも知れません。

 「実は、真相を追求しようとする親が、地域からのけものにされるケースが多いのです」と、ニュースを取材したテレビ関係者が私に話してくれました。「波風を立てても、子供は帰ってこないのに」「学校や地域のイメージを悪くする」と変な目で見られるのだそうです。

 それもこれも教育現場の初動の対応が間違っているからです。教育現場の責任者が親や、いじめを知っていた子供達と一緒になって真相究明をし、「いじめをやった生徒を確認しました。適切な指導をして、更生に全力を尽くします。」と誓ってくれれば、遺族の親も納得したはずです。

 アメリカでもいじめは頻繁に起きています。学校は教育を誤った責任を取らされないために、低学年から親達に対する対応を徹底しています。

 私がスタンフォード大学の博士課程に留学していた頃、長男は大学内の保育園に通っていました。ある日、長男が顔に小さな傷をつけて帰ってきました。手渡された先生からのメモには、「アーサーは○○くんにぶたれて、顔に傷を負いました。適切な手当てをして、○○くんにも注意しました。これが○○くんの親の名前と電話番号です。もし法的な手段をとるなら、本人に直接連絡してください」と書いてありました。

 次の日、保育園に行くと、相手の親から丁寧に謝まられました。子供同士にも良く言いきかせ、先生にも指導をお願いし、それからは同じような事は起きませんでした。アメリカでは先生が親と連携して、子供に「加害者」になることの恐ろしさと罪深さを教えています。

 訴訟社会のアメリカと日本を一緒にすることはできませんが、それでも未成年の子供を抱えている親には、子どもを加害者にさせてはならない責任があります。

 教育の基本は家庭にあると、私は思っています。

 いじめという行為も、その子が育った環境、とりわけ親子の関係に大きく影響されているように思います。事実関係をうやむやにせず、いじめた子供の親の賠償責任をはっきりさせることも、いじめ防止につながっているのがアメリカの現実でした。

 賠償責任を問われることは、単に金額の問題ではなく、親の責任の重さを自覚させられるきっかけになるのです。さらには、家庭教育の大切さに、改めて親が気づくことにもつながります。

 私がいじめの本を書いてからもう、20年。それでもなくならない「いじめ」に、学校も教育委員会も、そして親も、今度こそ本気で取り組まなければなりません。

■アグネス・ M ・チャン:アグネスのなぜいま(教育学博士)
1955年香港生まれ。本名金子陳美齢。72年日本で歌手デビューしトップアイドルに。上智大学を経て、トロント大学(社会児童心理学)を卒業。94年米スタンフォード大学教育学博士号取得。98年日本ユニセフ協会大使。2016年ユニセフ・アジア親善大使も兼務。

最終更新:6/11(日) 10:01
ニュースソクラ

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