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鎌倉で「暮らすように旅する」。Hostel YUIGAHAMA + SOBA BAR

6/11(日) 19:10配信

朝日新聞デジタル

【鎌倉から、ものがたり。】

 若宮大路から長谷方面に抜ける由比ガ浜通りは、昭和時代に栄えた鎌倉のメインストリート。鎌倉彫、刀剣、蒲鉾店、甘味処など、由緒ある老舗が店を構える一方で、時代とともに空き店舗も目立つようになっていた。ところがこの1、2年、それらの空いた建物を、「いま」に合わせて再利用する動きが加速している。

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 2016年の夏にオープンしたゲストハウス「Hostel YUIGAHAMA + SOBA BAR」(ホステルユイガハマ+ソバ バー)も、そのひとつだ。六地蔵交差点からすぐの立地。植栽に彩られた前庭の奥にある白壁の建物は、以前、観光人力車の格納庫兼事務所だった。

 玄関を入ってすぐに帳場とラウンジ、その右手に「SOBA BAR ふくや」のスペース。蔵のような空間が、親密な雰囲気をかもし出す。

 部屋は、1階の左手に8床のドミトリーと、2階にツインとダブルの計5室。木造の幅広い階段、座布団を敷いた談話室、屋外のベランダに設けられた洗面所など、ひとりで訪れても、みんなで合宿に来ているような気分になってしまう。

 「設備は完璧ではないのですが、『暮らすように旅する』気持ちで、鎌倉の時間を過ごしていただきたい。そんな思いで古い建物をリノベートしました」

 そう話す支配人の渡部辰徳さん(36)は、ホステルユイガハマをプロデュースした「エンジョイワークス」の社員である。

MEET LOCAL――地元に出会おう、が合言葉

 由比ガ浜通りに拠点を置く同社は、鎌倉ならではのユニークな経営を掲げる不動産プロデュース・まちづくり会社だ。創業者で代表の福田和則さん(42)が、東京の金融機関に勤務した後、葉山暮らしを経て、2007年に立ち上げた。

 「住の民主化」を標榜するエンジョイワークスが手がける仕事は、従来の不動産会社のそれとはひと味違う。

 たとえば、定型の躯体(外側)に対して、インフィル(内側)を施主の自由にレイアウトできる住宅の「スケルトンハウス」。そのスケルトンハウスを複数棟まとめて、隣家との境界に塀を設けず、広々とした住み方を提案する「ヴィレッジ」。あるいは、物件探しから設計・施工、資金調達までワンストップで行う「リノベーション」。いずれも、住まいを提供する側が工夫をほどこし、住む側が創意をもって日常生活をつくり出す仕組みだ。その根底には、「住み方とまちづくり」に対する革新がある。

 由比ガ浜通りでは、ホステルに先駆けて、老舗の魚店をリノベートした「HOUSE YUIGAHAMA(ハウスユイガハマ)」を14年にオープンした。ここは、カフェ、建築関連書籍のライブラリー、ギャラリー、オフィスを混合し、地元の人たちが集う場としても機能する。

 「MEET LOCAL――地元に出会おう、というのが僕たちの合言葉。ホステルの運営にしても、観光地としての鎌倉ではなく、鎌倉のまち暮らしの“一部分“を、ここで体験していただけるように、と思いました」

 ホステルのプロジェクトは、多様性を生み出す「ミクスチャー(混ざり合う)」がコンセプトとなっている。空間構成、アート&ロゴ、植栽計画、施工は、湘南を拠点に活動するクリエイターたちがチームを組んで取り組んだ。朝、昼、晩と食事を供する食堂は、鎌倉の大町にある山形の郷土料理と蕎麦の人気店「ふくや」が出店している。

 ホステルユイガハマに宿をとった夜。その「ふくや」には、地元の馴染み客からはじまって、フランスから来たファミリー、明日の課題を案じる学生、正体不明の美女と、いろいろな人たちが集まっていた。その雑多なざわめきの中に、観光が前面に出る昼とは違うカマクラの顔が、確かに見えたのだった。

(文 清野由美 写真 猪俣博史/ 朝日新聞デジタル「&w」)

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