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「今も走れるんですか?」真顔で尋ねる客も SLまるで現役の雄姿 磨き方の秘密は

6/11(日) 11:10配信

西日本新聞

 年間約20万人が訪れるという九州鉄道記念館(北九州市門司区)には、いつもピカピカに磨かれた2両の蒸気機関車(SL)がある。「野ざらし状態で朽ち果てて、解体される」という例も少なくない中、戦前に造られたSLたちは、なぜ現役時代の雄姿を保ち続けることができるのか? 磨き方の秘密を探りに出掛けた。

⇒【画像】直径175センチもある動輪に油を塗る記者。一つ塗るだけで腕が痛くなった

 開館2時間前の午前7時、朝日が差し込む記念館は静まりかえっていた。ゲートの向こうから姿を見せた宇都宮照信副館長(67)は、往年のSL整備担当者が着ていた紺色の服に、旧国鉄の略称「JNR」の文字入りヘルメットを着用している。

 私も磨き方を体験すべく事務所で同じ紺色の服に着替えた。「制帽をかぶれば気分は鉄道マン!」と、うきうきしていると、「SLを磨くにはこの布がちょうどいい」とメリヤス製の布を手渡された。

涼しい顔で作業する副館長の腕前を思い知った

 2両のSLのうち、ゲートに近い方は1922(大正11)年に造られ、北九州地区での運行を最後に75年に廃車になった「59634」。その後ろに控えるのは、41年製で65年まで鹿児島線などで活躍した「C59形1号機」。いずれも全長約20メートル、高さ約4メートル。この巨体をどう磨くのか?

 宇都宮副館長は59634の先頭部分に上がり、金属を磨くためのスプレーを吹きつけた。金文字のナンバープレートを布で丁寧に磨き始めると朝日が反射し、顔が金色に輝いた。「ここまで光るのが理想」という。屋根に備えられた汽笛も手際よく磨いた。車輪も「走っているように見せるため」に、さび止めの油を塗る。記念館のSLは屋根付きの場所で保管されているが壁はなく「(300メートルほど離れた)関門海峡から吹く潮風でさびやすい」という。

 作業を見ていると、意外と簡単そうに思えてきた。私もSLによじ登り、円筒状の汽笛磨きに挑んだ。足場の高さは約2メートル。左手で手すりをつかみながら、右手で磨く。力の加減が難しく、表面のさびは思ったほど取れない。

 続いて、私の身長より高い直径1・75メートルの車輪に油を塗る。余分な油が垂れないように、はけで薄く伸ばそうとするが、気付くと地面にしたたっていた。立ち上がったり、しゃがんだり、車輪一つを塗り終えただけで腕が痛い。涼しい顔で作業する副館長の腕前を思い知った。

「中高生の頃に撮影して楽しませてもらった。恩返しのようなもの」

 「汚れていたら(SLから)早く風呂に入れてくれ~と言われている気がする」(副館長)。手入れは通常2~3日に1回、雨が多い時期は連日、2人がかりでやるという。2003年の同館オープン時から続けて14年。現役当時の輝きを放つSLに、「今も走れるんですか?」と真顔で尋ねる観光客もいるという。筋金入りの鉄道マニアだったという宇都宮副館長は、毎回午前6時半から作業をしており「中高生の頃に撮影して楽しませてもらった。恩返しのようなもの」と笑う。全盛期を知らない世代でも一目で伝わるSLの雄姿は、熱い「鉄道愛」に支えられていた。

西日本新聞社

最終更新:6/11(日) 11:10
西日本新聞