ここから本文です

中華帝国がほくそ笑むAMEXIT

6/11(日) 14:00配信

ニュースソクラ

中国の「覇権」は束の間か

 NATO(北大西洋条約機構)首脳会議と、シチリアでのG7(主要7カ国)首脳会議を「米国第一」でかき回したトランプ大統領は、帰国するや、地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」離脱を発表した。

 その翌日、ブリュッセルで、EU(欧州連合)首脳とパリ協定履行を踏まえた協力強化で合意した中国の李克強首相は、満面の笑みを見せていた。

 NATOとG7は、民主主義と自由市場経済を共有する「西側」の中核機構だが、新顔のトランプ氏は、NATO加盟国に防衛費負担増を求め、ドイツの貿易黒字を責め、パリ協定残留の説得を振り払った。

 G7の翌日、メルケル独首相は「ほかの国に頼れる時代は終わった。欧州は自らの手で運命を切り開くべきだ」と演説した。「西側」の結束が揺らぐ。この2週間ほどで、欧州の立ち位置が、大西洋岸からユーラシア内陸部へ、ぐんと東方に移ったかのようだ。

 昨秋の米大統領選直後、この欄に「AMEXITが始まる」と書いた。米国が、戦後果たしてきたリベラルな国際秩序の後見人を降りるAMEXIT(米国の退場)を懸念してのことだ。案の定、トランプ大統領は、戦後の世界貿易のルール「自由、無差別、多角的」の3原則をほとんど無視している。

 ティラーソン国務長官や愛娘イバンカさんも止めようとした「パリ協定離脱」は極めつきだ。世界でパリ協定に入っていないのは、内戦のシリアと、より強い規制を求めたニカラグアの2カ国だけなのに。

 AMEXITにニンマリするのは中国だろう。「一帯一路」(陸路と海路で中国から中央・東南・南アジア、中東、アフリカ、欧州にいたる経済圏)構想を提唱するなど、国際秩序の新たな担い手に意欲を見せている。中華帝国のDNAのなすワザかもしれない。

 習近平主席は、1月のダボス会議(国際経済フォーラム)で講演し、保護主義や反グローバル化を批判し、自由貿易支持を表明している。そして温暖化対策でのEUとの協力が加わった。

 AMEXITのせいで、中国があたかも自由貿易や地球環境の守護者のごとくはやされるのは、倒錯した認識だ。PM2.5をまき散らし、マスクが庶民の必需品。尖閣問題で日本向けレアメタル輸出を止め、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備で韓国製品や企業をあの手この手で締め上げている国でもある。

 先のEUとの首脳会議でも、中国の市場開放や鉄鋼の過剰生産能力の扱いなどは合意にいたらず、共同声明が見送られている。

 とはいえ、成長が続く13億人の市場は魅力で「一帯一路」も、西端にあたる欧州には、得難いビジネスチャンスに映る。先月、北京で開いた一帯一路フォーラムに、イタリアやギリシャの首相も出席した。

 これからの国際秩序は、旧来の「西側」に代わり、中国と欧州が中心的な役割を果たすのだろうか。そうはならないと思う。大胆に先読みしてみる。

 まず、トランプ大統領は任期を全うできない、とみる。ロシアゲートの捜査が進み、トランプ氏のビジネスの暗部も暴かれ、弾劾か辞任かはともかく政権を手放す。共和党本流のペンス大統領(副から昇格)は、AMEXITを逆転させ、米欧関係の修復、パリ協定復帰、自由貿易の尊重など「西側」再生に努めるはずだ。

 中国の一帯一路構想は挫折するだろう。英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、一帯一路沿線国への中国の直接投資は、昨年は前年比微減、今年も減っている。銀行や国有企業には、政府に不採算事業を押しつけられているとの不満が強いという。経済原則を無視した経済圏は出来ない。「笛吹けど踊らず」だ。

 一帯一路の内実は、中国の過剰な生産能力のはけ口を求めた「チャイナ・ファースト」の政策だろう。中国経済のソフトランディング=共産党一党独裁の永続というねらいが、透けて見える。

 グーグルも、ツイッターも、フェイスブックも、ウィキペディアも規制する国は、21世紀の国際秩序の担い手の資格を満たさない。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:6/11(日) 14:00
ニュースソクラ