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【漢字トリビア】「降」の成り立ち物語

6/11(日) 11:30配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「降る・降りる」、「降水確率」「天孫降臨」の「降」。雨の季節にひもといてみたい漢字です。

「降」という字の向かって右側、つくりの部分は、「各(カク・おのおの)」という字の上半分と、カタカナのワ行二段目、ウヰスキーの「ヰ(ウィ)」という字を書きます。
このふたつはいずれも、つま先を下に向けた足の形をあらわしたもの。
「降る」の左側、「こざとへん」ははしごの形。
これは、神が天上界から地上へ降りてくるための神聖なはしご。
そこから「降る・降りる」という意味をもつ漢字になったのです。

田植えをすませた稲の生長に、雨は不可欠。
農地に適切な量の水をひく灌漑設備が整っていなかった昔は、日照りが続くと、人々の間で「水争い」が起こります。
石や板を使って小川の水の流れを変えて「我田引水」、文字通り、自分の田んぼに水をひく人が出てくるのです。
闇夜にまぎれてことを行う水盗人(みずぬすっと)と間違えられぬよう、この時期の夜は、白い衣服を着ることを申し合わせた集落もあったとか。
でも、雨が続けば続いたで、気持ちは休まりません。
雑草が伸びれば草取りに励み、稲の背丈にあわせて水の量を調節したり。
降りみ降らずみ、神さまの采配に一喜一憂。
目には見えないはしごのその下で、人々は懸命に生きていたのです。

ではここで、もう一度「降」という字を感じてみてください。

神さまからの恵みの雨とはわかっていても、出掛けや出先で降る雨は、憂鬱な気分をつれてきます。
そんなときに思い出したいのが「青梅雨(あおつゆ)」ということば。
初夏の青葉に降り注ぐ雨のことをさすのですが、その言葉どおり、新緑を青くつやつやと濡らす雨の美しいこと。
紫陽花、牡丹、百日紅(さるすべり)。
しっとりと咲き誇る花々を眺めるのも、今、この時期だけの幸福です。
梅雨の晴れ間に気がゆるみ、突然の雨に降られたあなたには、小林一茶のこんな一句を。
「着ながらに せんたくしたり 夏の雨」
雨の降る日も風の日も、心のもちようで人は笑顔になれるのです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『読んでわかる俳句 日本の歳時記 夏』(宇多喜代子、西村和子、中原道夫、片山由美子、長谷川櫂/著 小学館)
『話したい、使いたい 心ときめくことばの12か月』(山根基世/監修 KADOKAWA/エンターブレイン)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2017年6月10日放送より)

最終更新:6/11(日) 11:30
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