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ITの仕事って、ホントに田舎でもできるんですよね?――UIターンの理想と現実(鳥取)

6/12(月) 6:10配信

@IT

 はじめまして、「ミノハラ製作所」の蓑原康弘と申します。鳥取県の真ん中の倉吉市で町工場を経営しています。

【土曜夜22時の倉吉駅前など、その他の画像】

 別地域の筆者はITエンジニアやIT企業の方ばかりですが、私はITエンジニアではありません。社内のネットワーク環境の構築や、VBAを使って生産現場の管理をしていますが、本業ではありません。でもITに興味があり、アナログチックな生産現場にITを導入するべく日々奮闘しています。

 また私は生まれてから約40年間、鳥取県から出て暮らしたことはありません。

 しかし、地方の経営者として「人口減少が激しい鳥取県を何とかしたい」「UIターンする人が増えてほしい」という思いは、人並み以上にあります。

 鳥取県は、毎年約3000人の人口が減少しており、現在57万人弱の日本で1番人が少ない県です。経済産業省の「地域経済分析」によると、2040年には44.1万人まで減ってしまうそうです。

 鳥取県の人口が加速度的に減少していくのには、それなりの理由があるのだと思います。本記事でリアルな情報を見て、皆さんがUIターンをする際の判断材料にしていただければ幸いです。

●鳥取良いとこ、一度はおいで

 都市部の方が「鳥取県」でイメージするものは、「鳥取砂丘」でしょうか?

 でも、他にも良いところはたくさんあるんです。海は「沖縄か?」と思うほど透き通っており、関西圏からサーファーがたくさん来ます。そのすぐ近くには日本百名山にも指定されている「大山(だいせん)」があり、登山やトレッキング、サイクリングなどのアウトドアに最適な山々が広がっています。その地形を生かして日本初のトライアスロンが開催され、私も数回参加しました。また、20分くらい車を走らせると必ず温泉地があります。

 食べ物でしたら、皆さんご存じの「二十世紀梨」「スイカ」「カニ」。他にも「二十世紀梨『以外』の梨」「長いも」「岩ガキ(生食)」「白イカ」「猛者(もさ)エビ」など、おいしい食べ物があります。

●鳥取県倉吉市の日常

 鳥取県の良いところを紹介しました。しかしUIターンを希望される方がなかなか移住決断まで至らないのは、「観光地的な部分は分かるけれど、実際に暮らしたらどうなのか?」が見えないからではないでしょうか。

 そこで鳥取県の「現状」を、倉吉市に住む私の日常生活を元に紹介します。参考になれば幸いです。

○人通り

 皆さんの「田舎」のイメージを崩すことなく、人通りは少なく、夜は真っ暗です。街灯がないところもあります。そこは漆黒の闇で、足元に縁石があるかどうか目を凝らして見ていないとコケるほどです。

 倉吉市中心部の「倉吉駅前」でも、昼間に歩いているのは高校生くらいで、とても静かです。

 夜は、駅前なのに暗いです。しかし活気がないわけではなく、駅前周辺には飲み屋街があり、人気のお店はいつも満席です。昔から続いているお店も多く、前述の山海の幸をいただけます。

 私の会社は倉吉市の山側にあり、目に入るのは山と田んぼ、時々車。人にすれ違うことはほとんどありません。

○生活圏

 皆さんの「ちょっとそこまで」ってどれくらいでしょうか?

 東京や大阪の方に聞くと、2駅くらい先までのようです。一方、倉吉市民の「ちょっとそこまで」は、「家周辺~見える範囲」です。

 500メートルも離れていないコンビニにも車で行きます。歩けそうな距離ですが、「帰りの荷物が重いし……」などの言い訳をします。

 職場探しの際も、通勤時間30分以上は対象外です。他県からIターンされた方は、カルチャーショックを受けるようです。

 車がないと通勤も日常生活もほぼ100%不可能なので、18歳を過ぎれば1人1台です。

○土地、住宅

 倉吉市の住宅地の土地売買価格は坪2~20万円位、平均6.8万円です。

 賃貸でしたら、2LDKが約5~6万円です。さらに、月々同じくらいの支払いで、3LDK1戸建てが土地代込みで買えちゃいます(30~35年ローンの場合)。

 最近は空き家の有効活用をしているところもたくさんありますので、さらに安く確保できるようです。

 なお倉吉市には、「人が住む建屋とトラクターや農業資材がしまってある建屋」「おじいさんおばあさん世代が住む建屋と若者夫婦が住む建屋」など、1つの敷地に建物が複数ある大きな家がたくさんあります。

○通勤

 私は家から会社まで1キロ未満なので、マウンテンバイクで通勤しています。天気が良い日は歩いて行きます。

 倉吉市の人たちは、少しでも雨が降れば、この距離でも車で行きます。歩くのは家から車庫までと、駐車場から会社の建屋まで。歩数計で100歩以下です。

 公共の交通機関は。バスとJR(ディーゼル)がありますが、ほとんど高校生の通学用です。私は年単位で使っていません。

 倉吉駅は市の北に位置し、行き先が東の鳥取市か西の米子市しかありません。さらにいずれも車の方が断然早く到着しますし、行った先での移動を考えると、車の方がだんぜん便利なのです。

 また、汽車は1本乗り過ごすと次の便まで20~30分待ちます。もちろん駅周辺にスタバやドトールなどありません。

 私の自宅から倉吉駅まで車で20分、市役所まで7分です。「通勤1時間は当たり前」という都会の皆さんよりも、日々の移動時間は少ないでしょう。

 その分有効な時間が生まれます。仕事が終わって10分後にはビールを飲んでいたり、子どもたちと夕食を一緒に食べたりしています、その直前まで仕事をすることができますし、会社で忘れ物をしても、すぐに取りに帰れます。

○休日の過ごし方

 週末の趣味は、競技用のロードバイクに乗ってあちこち遠出することです。

 最近自動車専用道路ができたため、国道9号線が自転車専用道路化しています。日本海沿いのこの道路は、景色が良く、適度にアップダウンもあり、最高のサイクリングコースです。

 しかし、ロードバイク本体やその部品、ウェア、ヘルメットなどのグッズは、倉吉市には売っていません。近くても50キロ以上先の鳥取市か米子市まで行かなくてはなりません。

 そこまで行っても、品ぞろえは都会のショップにはかないません。都会だったら、良いモノ、気に入ったモノを納得して買いそろえられますが、ここでは商品を見比べて買うことはできません。インターネットやロードバイク仲間から仕入れた情報を元に、グッズを取り寄せて買っています。

●「ITエンジニア」の仕事は鳥取県にあるのか?

 移住希望者が最初に考えるのは、「仕事があるのか?」ではないでしょうか。仕事があっても「収入がどうか?」も気になると思います。

○求人状況

 鳥取県の仕事探しは「ハローワーク」がメインです。人材紹介会社を使う人は、あまりいません。

 一般的に、ハローワークの求人で必要とされるITスキルは、「Officeの操作」です。文字入力や印刷が問題なくできればOKです。

 では、開発系のスキルを持っていたら、どうなのでしょうか。

 「ハローワークインターネットサービス」で、地域を「鳥取」、フリーワードに「エンジニア」と入力して検索したところ、338件ヒットしました。しかし、そのほとんどは土木系でした。そこで、フリーワードを解除し、職種を「情報処理・通信技術者」に変更して検索したところ、結果は65件でした(2017年6月2日現在)。

 ちなみに、地域「東京」×職種「情報処理・通信技術者」で検索したら、8135件もヒットしました。

○給与、年収

 給与面は、20~30万円がボリュームゾーンのようです。中には「13万9800~60万円」という大変幅の広い求人もありました。上限側であれば東京と遜色ないでしょうが、下限側だったら……。なお、鳥取県で60万円の月給をもらえる仕事って、私はお医者さんくらいしか知りません。

 再び、経済産業省の「地域経済分析」を見てみましょう。

 鳥取県の全産業の平均賃金は「361万円」で、東京都「548万円」の65%ほどです。しかし情報通信業に限ると、鳥取県の月収「58万3307円」(年収にすると699万9684円)は、東京都の「52万5465円」(年収にすると630万5580円)を、超えています。

○IT関連の教育

 IT教育の実態も紹介します。

 倉吉市の「鳥取県立倉吉総合産業高等学校」では、情報科でプログラミング、ネットワーク、データベースなどのシステム系の学習が行われていました。しかし、平成28年度から募集を停止してしまいました。情報科を設置しても、鳥取県内には就職先がないからかもしれません。

 ITスキルを学びたい若者が県外の学校に行き、県外企業に就職し、そのまま帰ってこない。その結果、鳥取県のITエンジニアは増えず、仕事も生まれない……という構造が定着しているようです。

●ITエンジニアの仕事はどこでもできるって本当?

 ここでひとつ、ITエンジニアの皆さんに教えていただきたいことがあります。

 「ITエンジニアの仕事は、PCとネットワーク環境さえあればどこでもできる」という話を、いろいろなところで聞きます。この情報を、私は鵜呑み(うのみ)にしていいのでしょうか?

 そうであれば、わざわざ数少ない鳥取県の求人を探さなくても、8135件もある東京の仕事の中から気に入ったもの選び、それを鳥取県ですることは可能ではないでしょうか?

 また、東京の仕事を鳥取でもすることが可能なのであれば、鳥取にもっとIT企業があってもいいのではないでしょうか。本社は難しいとしても、鳥取支店、鳥取ラボなど、もっとあってもいいはずです。

 でも実態は違うようです。

●なぜUIターンを考えるのか

 そもそも、皆さんはなぜ、UIターンを考えているのでしょうか。

 「一生、このまま都会で過ごすのか」「結婚して落ち着くところはどこなのか?」と今後の人生を考えている人もいるでしょう。

 また、私くらいのアラフォー世代だと、「そろそろ実家に帰って親の面倒を見ないといけないのではないか」、実家が会社経営をしていれば「親父の会社をこのままなくしてしまってもいいのだろうか」と、希望や欲とは別の「義務感」のようなものが先立っている場合も多いでしょう。

 「静かにのんびり暮らしたい」という願望はUIターンに踏み切らせる強烈な理由にはなり得ませんし、「自然がたくさんある」「食べ物がおいしい」などの一般的に言われている田舎の良いところも、「義務感」を凌駕(りょうが)するほどではありません。

 皆さんが田舎への移住に踏み切れない理由は何でしょうか?

 U&Iターンの理想と現実:鳥取編、次回はUIターンをされた方の「リアルな」経験談を紹介します。


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●筆者プロフィール
ミノハラ製作所蓑原康弘
地方の町工場の2代目社長。異業種から製造業に入り、さまざまなギャップに困惑しながらも、プログラミングを習得し、山積みの経営課題をIoT導入で解決しています。

最終更新:6/12(月) 6:10
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