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<Hulu>1000円返金でもトラブルへの怒り収まらず

6/12(月) 9:30配信

毎日新聞

 新システム導入後に深刻な視聴トラブルが発生した動画配信大手Hulu(フールー)が6月2日、視聴に不自由を感じた利用者に対し、1カ月分のサービス利用料を事実上返金する措置を発表しました。しかし現在も、トラブルの原因について満足な説明はありません。ジャーナリストのまつもとあつしさんが詳細を報告します。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇URLはなぜ変更されたのか

 フールーが5月17日、サービスの大規模リニューアルを行いました。「日本仕様への進化」を打ち出しましたが、ネット上の住所にあたるドメイン(URL)が、従来の「hulu.jp」から「happyon.jp」に変わりました。また、「動画が再生されなくなった」といった不具合がネット上で報告され、騒ぎになりました。いったい何が背景にあるのでしょうか。

 フールーは2007年、米国で生まれた動画配信サービスです。YouTube(ユーチューブ)などへの違法な動画の投稿が相次ぐ中、米NBCユニバーサルやFOX、ディズニーABCグループなどのメディア企業が合同出資し、映像作品を配信し始めました。

 11年に日本に進出するも、利用者数は伸び悩みました。そこで、日本テレビが日本向けサービスの継承を提案。14年にHJホールディングス合同会社(以下、HJ)を設立して以降は順調に利用者数が増え、16年末には有料会員数が150万人を突破したと発表されました。現在の国内シェアは、通販大手アマゾンの「プライムビデオ」に次ぐ2位とみられています。

 フールーはこれまで米国のシステムを使用していましたが、日本市場に対応するため、スマホなどモバイル端末へのリアルタイム配信や子供向け視聴制限などのシステム更新を実施しました。その結果、トラブルが続出しました。

 まず、サービス名は「Hulu」のままなのに、なぜドメインを「happyon.jp」に変更したのでしょうか。

 テレビやスマホで動画配信サービスを利用するなら、フールーのアプリをスタートしたり選択したりすればよいので、利用者がドメイン変更で手間や不便を感じることはないでしょう。

 しかし、パソコンでフールーを視聴する人は、フールーにアクセスする際に新たなURLを探してブックマークを変更する必要があります。利用者にとっては手間が増えることになります。

 HJ広報部にドメイン変更の理由を尋ねたところ、「(システム)移行時の長時間にわたるサービス停止を避けるとともに、大規模な新システムへの移行リスクを最大限回避するため」という回答でした。

 ドメイン名の管理や運用を企業に助言したことがあるコンサルタントは次のように言います。

 「ネットサービスのリニューアル時に、システム上の理由でドメインを変更したケースはありません。ドメイン名はネット上の住所であり、重要な識別子です。一般的に言って変更は考えられないことです」

 例えば大規模リニューアルの場合、テスト用のドメインにコンテンツやサービスを一時的に移して検証し、あるタイミングで本来のドメインに切り替えることは難しいことではありません。

 ◇米Huluの苦境が原因?

 ドメイン変更に関しては、「米国フールーの商標使用契約の期限が切れるためではないか」という臆測も一部で報じられましたが、HJ広報部は「関係ない」と言います。同社は「フールーというブランド名は今後も使用していく」としています。

 それでは、なぜドメインを変更したのでしょうか。新しいドメイン名は、もともとHJのキャッチコピー「Happy on」から取られています。しかし、キャッチコピーは、変更される可能性もあります。期間限定のキャンペーンサイトに使われるケースはあっても、公式サイトに使うのは異例です。

 米国フールーは、同業で米国シェア1位のNetflix(ネットフリックス)に、米国内の配信タイトル数、登録者数で10倍近い差をつけられています。ITサービスは1番手とそれ以下で大きな差がつく傾向があり、米国フールーが今の状況にいつまで耐えられるかは不透明です。HJのリニューアルは、米国フールーが事業に行き詰まった場合に「hulu」のドメインが使えなくなることを見越した対応といううがった見方もできます。

 ◇事前告知なしで視聴環境を大きく変更

 リニューアル後、「映像が見られなくなった」という声もネット上で上がりました。これは、インターネット上で動画を配信するコンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)のトラブルと、利用者の視聴環境に関する大きな変更について事前告知がなかったという二つの原因があります。

 CDNの問題は、リニューアル後数日で復旧しました。今も解決の見込みが立っていないのが、映像コンテンツの不正コピーを防ぐ著作権保護技術のHDCPを、事前告知なく導入した問題です。例えば、動画を視聴するためにテレビを利用する場合、テレビがHDCPに対応していなければならず、HDCP対応の接続ケーブルも必要です。

 アマゾン・プライムビデオやネットフリックスなど他の動画配信サービスでも、限定的に導入されていますが、フールーでは利用者がHDCPに対応する設備を必ず整えなければなりません。買い替えとなれば、利用者は相応の負担を強いられます。

 著作権保護が強化された背景には、「映像提供元(コンテンツプロバイダー)の強い要望があった」と報道されていますが、これについてHJ広報部は、「著作権保護の契約条件はコンテンツプロバイダーごとに設定されている」と肯定も否定もせず、事前周知を徹底していなかったことをわびています。

 同業他社は、画質や視聴できる機器をテレビに限定するといった対応を作品ごとに行うこともあります。HJも、著作権保護に関して同様の対応ができたはずです。利用者の利便性に配慮することも可能でしょう。

 HJ広報部は、「お客様にご迷惑をおかけし大変申し訳ございません」と、繰り返し利用者への謝罪を述べていました。今回のリニューアルで問われるのは、利用者への影響をどこまで考慮して判断したのかという点です。

 フールーは6月2日、視聴に不自由を感じた顧客に対し、事実上の1カ月分のサービス利用料に相当する1000円分のチケットを提供すると発表しました。しかし現在も、ドメイン変更や著作権保護の強化について満足な説明はされていません。サービス提供者としての姿勢が問われています。

最終更新:6/12(月) 9:30
毎日新聞