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“安い・早い・多い”だけじゃない 社食で企業価値向上へ

6/12(月) 11:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 重要な経営課題として認識されつつあるワークスタイル変革。その実現に総務部門の働きは欠かせない。しかし、社員全員の働き方を見直し、変えていくことは簡単ではない。そこで、切り口の1つとして「社員食堂」に注目してみてはどうだろうか。安くて量が多い、いわゆる“食堂”のイメージはもう古い。社内コミュニケーションの活性化、モバイルワーク推進、健康への意識向上など、さまざまな課題に対応する機能を持った社食が増えているのだ。

【カラフルなメニューの例】

 この特集では、最新の社食の傾向と取り組み事例を紹介しながら、課題解決に向けた一手として社食を改革する方法を探る。

●社食が企業価値を高める

 社食は目覚ましく進化している。とは言っても、きれいな設備で、メニューが充実している……というぼんやりとしたイメージしか浮かばない。最近の社食事情について詳しく知るために、企業の社食を紹介するWebサイト「社食.com(ドットコム)」のスーパーバイザーとして活動する、帝京大学法学部の露木美幸准教授に話を聞いた。

 露木准教授によると、企業文化や社会情勢の変化と同じように、社食にも発展の歴史があり、3つの形態に分類できるという。

 まず、日本の社食の初期形態である「第1世代」。工場など、周辺に飲食店がない事業所で、従業員への食事提供を目的に食堂を設置する形態だ。肉体労働者向けに、量が多くて味付けが濃い食事が多かった。

 次に、会社の周りに飲食店があるのに社食をつくるようになった「第2世代」。この形態では、社食を設置する目的は福利厚生だ。会社の外の飲食店と比べて、格安で食事を提供する。多くの場合、スペースが余る地下にあるのが特徴だという。

 そして、今、注目されているのは「第3世代」。IT産業が発展したころから見られるようになったという。都心の駅の近くにオフィスを構え、飲食店に困らないのに、あえて社食をつくる。その点は第2世代と同じだが、目的が違う。単なる食事提供、福利厚生にとどまらない。コミュニケーションの活性化、社員の健康増進、地域社会との連携などによって、企業のブランド価値を高めることまで社食が担う。そのため、オフィス内で社食の優先度は高く、社内で最も眺めのよいフロアに設置される傾向がある。

 「一番いい場所を社食にするのがトレンド。社長室ではないんです」(露木准教授)。

●会社に対する愛着を高める場所に

 第3世代の特徴は、社食にさまざまな機能があることだ。働きやすく、最高のパフォーマンスを引き出せる職場づくりの一環として設置するなら、コミュニケーションが生まれやすいレイアウトを採用したり、健康的でおいしいメニューを充実させたりする機能が必要になる。

 社食を企業のブランドイメージ向上に活用する目的があるなら、地域と連携したメニューや、環境に配慮した設備などを取り入れ、強化することが効果的だ。露木准教授は「社食から直接、利益が生まれることはないが、間接的な効果はある」と指摘する。

 また、社員が会社に対する愛着や誇りを持つきっかけを提供する社食もある。「ある住宅設備機器メーカーでは、自社製品の消臭機能付き壁紙を社食に使用しています。また、農業支援事業を実施している企業は、自社で育てた野菜を使ったメニューを提供し、事業を社員にアピールしています」(露木准教授)。事業を社食に反映させることで、社員が自社の製品やサービスの良さを再認識する機会を提供している。

 一方、このような社食を設置できるのは大企業が中心。宅配社食など、企業向けサービスのバリエーションが増え、利用する企業も増えているが、中小企業向けのサービスは「まだあまりない」(露木准教授)のが現状だ。

 ただ、本格的な厨房を備えた社食を設置できない企業でも、社食のノウハウを生かすことはできる。「コミュニケーションが課題になっているなら、簡単に食事ができる休憩スペースだけでも確保すると、変わるかもしれません。オフィスの机以外でコミュニケーションを取ることができれば、風通しは改善するのでは」(露木准教授)。宅配型の社食や弁当サービスなどを開拓してうまく活用できれば、本格的な社食がなくても、食事や休憩を社内の活性化につなげることができる。

●サービスもここまで進化

 実際に企業の社食を運営している会社は、最近の社食をどう見ているのだろうか。また、多様化する要望にどのように対応しているのか。食堂運営大手のエームサービスに聞いた。

 エームサービスには、メニューやサービスを開発する研究開発部門のIDSセンターがある。同センターMD企画室長の宮田佳泉氏によると、「最近は社食の在り方が変わってきている。昔は目立たないところにあったが、今は会社のブランディングの場所になっているケースが多い」という。やはり、社食を重視する企業が増えているようだ。

 また、社食で提供されるサービス内容に目を向けると、従来の“食堂”というイメージとは異なる、カフェを設置するケースが増えているという。食事を提供する場所に併設する形で、軽食と飲み物を提供するカウンターを設置し、ランチタイム以外も利用できるようにしたコーナーだ。仕事や打ち合わせの場にもなる。また、移転を前提とした仮のオフィスで、厨房を設置できない場合に、簡易的なカフェを設置するニーズもあるという。

 多様化するニーズの中でも、必ず出てくるのは“健康”というキーワード。しかし、「健康的な食事を提供してほしい」という要望に応えるだけなら、単調で味が薄いメニューになりがち。そうではなく、「楽しく、おいしい食事で健康への関心を高めてもらう」ことまで狙ったメニュー構成を提案し、差別化を図っているという。

 例えば、野菜を中心にしたメニューを提供する「カラフルデリ」というサービス。赤・橙・黄・緑・紫の5色をふんだんに取り入れたメニューで、幅広い世代がカジュアルに健康メニューを楽しめる構成になっている。従来の社食では見られなかったバイキングによる提供スタイルを選択することもでき、マンネリ化も防げる。

 また、「健康社食」というサービスには、社食で食事を提供するだけでなく、会社と家庭を“つなぐ”仕掛けがある。それぞれの企業の社員が抱える健康問題を分析して選んだヘルシーメニューを社食で提供。社員はそのレシピと使用している健康食材を持ち帰り、家庭で再現する。社食を通じて、社員とその家族の食生活を見直すきっかけを提供している。

 「健康」を重視したメニューを考えるとしても、さまざまなアプローチがある。会社の業務の特徴や社員が抱える課題に応じて、提案の幅も広がっているようだ。宮田氏は「最初は“何をやりたいか”という部分がぼやけているお客さまも多い。パートナーとして、それを突き詰めていくことが役割」と話す。求められるままに食事を提供するだけではなく、企業のニーズをくみ取って提案してくれる、心強い存在になっているようだ。

 働きやすい職場づくり、企業価値向上の一環として、社食を改革している企業は、どのような取り組みを実施しているのだろうか。次回から事例を紹介していく。