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ダイハツとミラ イースに問う

6/12(月) 7:18配信

ITmedia ビジネスオンライン

 5月22日の連載記事でミラ イースとダイハツのリブランディングについて書いた。ダイハツは自らのブランドを再定義して、「Light you up」というスローガンを策定した。これは主役は自動車ではなく人間であり、人の生活を明るく照らす自動車作りをするというダイハツの覚悟である。

【電動パワステのフィールはかなり良い】

 三井正則社長の言葉を借りれば「お客さまに寄り添う、つまりユーザーオリエンテッドな姿勢は、1957年のミゼットから続くダイハツならではの原点であります。この原点を忘れることなく、1ミリ、1グラム、1円にこだわり抜き、今後も軽および軽直上のコンパクトカーを含めたスモールカー市場にダイハツらしい商品を供給し続けてまいります」ということになる。

 前回書いた通り、このリブランディングは新型ミラ イースがほぼ完成するタイミングで策定されたもので、ミラ イースは新スローガン「Light you up」をベースラインに置いて、その上に積み上げられた商品というわけではない。ただし、企業のブランドというのは来し方と無関係に策定されるものではないので、大筋において新生ダイハツのコンセプトとミラ イースはちぐはぐなものにはなってはいない。

●真面目な改良とそれで取り残されたもの

 さて実際に試乗してみてどうだったのか。第一印象としてダイハツの生真面目さは変わらないと感じた。変な山っ気はなく、より良いモノを作ろうとコツコツと努力する姿勢は基本線において信頼に足るものだと思う。

 一番良かったのはパワートレインで、まずエンジンの効率改善で得られた余禄を、ひたすらカタログ燃費競争につぎ込んできたやり方を改め、ドライバビリティの向上に振り向けたことは非常に大きい。発進加速や中間加速の頼もしさが上がり、軽自動車の頼りなさがだいぶ解消された。エンジンだけでなくCVT(無段変速機)のセッティングも目的達成のためにしっかり協調制御されている。ダイハツの目指す実用車として非常に好もしいものだと思う。

 新型ミラ イースの全体を眺めて、ダイハツは恐らく軽自動車の線の細さを克服したいという思いがあったのだろう。足回りの設定も大きく変えてきた。一言でいうならドイツ車志向。商用車的なゴツゴツした硬さではなく、ストロークさせながらロール速度を抑えたしなやかで張りのある乗り心地になっている。サスペンション担当のエンジニアによれば、「フラット」な乗り心地はメインテーマの1つだと言う。具体的にはショックアブソーバーの入力速度が遅い領域での減衰の立ち上げを早め、中速以上での減衰力の変化を抑えてフラットにしているという。

 その成果は直進安定性に如実に出ており、乗り心地的にも微舵角ハンドリング的にも従来の軽自動車より上質なものになっている。ただし、拍手喝采できない部分もある。もっと舵角の大きい領域で、舵角に対するクルマの挙動が一定ではないのだ。

 少しややこしいが詳細に書いておく。減衰の立ち上がりが早まったことで、ハンドルを切ったときのロール(車体の傾き)はゆっくり始まる。ロールが遅いということは路面とタイヤの接地圧の高まりが早いということだ。逆にロール速度が速ければ、タイヤが逃げて路面とタイヤの圧力は急には高まらない。ロール速度が遅ければ、タイヤが逃げない分接地圧は早く高まる。そのため初期減衰を高めれば切り始めてすぐにクルマが向きを変え始める。前述のエンジニアによれば、「今回は微舵角での応答性を上げました」とのことで、筆者が感じた通りだが、問題はその後の連続性だ。

 ダイハツのハンドリングは元来がギュンギュン曲がることを意図しない穏やかなもので、ざっくり言えば舵角に対する横力の高まり比率が低いのが持ち味だ。グラフの角度が寝ているのだ。これは思想の問題で、角度が立っている方が良いか寝ている方が良いかは一概には言えない。そのグラフが途中で急な角度変化をせずにリニアである限り、用途によってどちらもありだ。

 紛うことなき大衆車メーカーであるダイハツはずっと神経質なハンドリングになることを避けてグラフを寝かせた特性にしつけてきた。それは立派な見識であり、リッターカーのブーンなどはまさにこの典型で、穏やかだが一貫した安定感のあるものである。

 問題はミラ イースでは従来のダイハツの文法より高まった初期応答性から予測されるほどにそこから先の横力が高まっていかない。グラフの角度が途中で変わるのだ。クルマを受け取った駐車場で、出口ゲートへ向けて左折したとき、初期のクルマの動きから予想した曲がり方と切り増したときの挙動が合わず、大回りになった。つまり切り増しでのアンダーステア感が強いということだ。別に飛ばしていたわけではなく、駐車場の中なので速度はせいぜい時速10キロ程度である。

 ちなみにクルマが曲がるということは、最初にクルマがコマのように自転を開始し、次に、その自転速度を緩めてコーナー中心に対して公転運動に入る。このとき、緩まった自転速度と公転速度がうまくシンクロしている必要がある。ミラ イースの場合、最初の自転運動はキビキビとしているが、公転運動が始まった途端、自転運動が足りなくなる。

 エンジニアの説明によれば、リヤの踏ん張りを増やしているとのことであり、それは公転での遠心力に対抗するのには好適だが、自転運動に関しては回転を止める作用が起きる。だからクルマの鼻先が入っていかない。つまり前述の大回りの原因は、リヤが踏ん張り過ぎているか、フロントの横力が足りないかのどちらかということになる。

 これは欠点だとまでは言わないが、少なくとも良いものではない。つまりミラ イースはハンドリングの基本を従来の穏やかなダイハツの特性に置いたまま、初期応答だけを改善した結果、そのつながりに違和感が生じてしまっている。パワートレインの素晴らしいリニアリティと比べると残念ながら雲泥(うんでい)の差である。

●ユーザーに寄り添う

 ダイハツの軽自動車は一番低いミラ イース、中間のムーブ、一番高いタントの3車種で構成されており、現在一番低いミラ イースはその存在意義が希薄化している。室内スペースという分かりやすいメリットがあるムーブとタントに対して、意義を確立するのが難しい。だから先代のミラ イースは「低燃費」に特化した。背が低ければ軽いのは自明なので、そこに活路を見出すのは分かりやすい。しかし先代が登場した2011年と比較すると2017年の現在、低燃費はもはや十分な価値とは言えない。

 燃費が良いのは当たり前、その上でどんなプラスアルファがあるかが重要だとダイハツは考えた。初代ミラ イースのユーザーに対して全社横断でヒアリングした結果、「安全・安心」や「質感」に注力することにした。それがパワートレインの頼もしさや、フラットな乗り心地の実現に向いたのだと思う。

 ダイハツのエンジニアは新たな安全装備「スマートアシストIII」についても力説を始めたが、正直それは意味があるとは思えなかった。長期的展望において、運転支援システムはもはや必要なのが当たり前、「あれができるようになりました。これができるようになりました」と訴求したいのは分かるが、それが通用するのは2017年の今だけで、1年も経てばスタンダードは変わる。もっといろいろとできるようにならなくてはならない。それは技術的課題ではなく、あくまでもコストの問題にすぎない。しかもこれらのシステムは自社開発ではなく、サプライヤーの技術である。だから軽自動車に導入できる程度にコストが下がれば採用されるというだけの話である。

 なので、筆者はここで改めてダイハツに問いたい。「お客さまに寄り添う」「Light you up」とは何なのか?

 今回ダイハツは旧型ミラ イースのユーザーにヒアリングをしたという。筆者はそれは視野狭窄(きょうさく)だと考えている。三井社長の挨拶にあった原点のミゼットとは何だったのか? 日本のモータリゼーションが発達していく中で、魚屋や八百屋、電気屋といった街の商店主たちは、その恩恵に浴することができずに、相変わらず自転車やリヤカーで商品を運んでいた。当時のダイハツはこの人たちの生活を楽にしてあげるにはどうすれば良いかを考え、個人商店でも買えるミゼットを生み出した。これこそが「Light you up」ではないか。翻(ひるがえ)って旧型オーナーへのヒアリングとはミラ イースの枠組みの中での進化しか考えていないのではないか?

●真の「Light you up」のために

 2017年の今、自動車の恩恵に預かれない人は誰だろう? 考えれば、免許を所持することが針のむしろになりつつある高齢者や、所得が少なくてクルマが買えない人たちだ。ダイハツはこうした人たちを照らすべきではないか?

 中国では政府の新たな規制の影響で電気自動車メーカーが雨後の竹の子のように誕生している。当然、低所得者に向けた電気自動車もたくさんある。汎用のモーターに昔ながらの鉛バッテリーを組み合わせた、ある意味原始的な電気自動車は技術障壁が低いこともあり簡単に作れる。

 恐らく日本最古の自動車メーカーであるダイハツの目から見れば取るに足りないものだと思うし、安全性にも疑念があるだろう。だったらそういうプリミティブな電気自動車をダイハツが安全性を高めて作ってみたらどうだ。もしかしたら革新的な価格破壊ができるかもしれない。新型ミラ イースの最廉価モデルが84万2400円。エンジンや変速機を取っ払って、廉価なモーターとバッテリーに置き換えたら、もしかしたら60万円くらいで商品になるかもしれない。低所得層には安価に、高齢者向けにはこれに安全支援装置をベンツも驚く最先端レベルに搭載して、現在のミラ イースと同等の価格で売る。きっと彼らを照らす光になるはずである。

 ダイハツは真面目な会社だと思う。ただ真面目であるがゆえに、型を破るのが難しい。知らず知らずに常識に囚われて視野狭窄しがちなのではないか。「Light you up」はダイハツのトップが生き残りを賭けて考え抜いて生み出したコンセプトだと思う。それを血が通ったものにできるかどうかは全社員の意識改革にかかっているような気がしてならない。

(池田直渡)