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記者1年目、あの夏が「原点」それぞれの高校野球取材の思い出

6/12(月) 14:03配信

スポーツ報知

 各地では組み合わせ抽選も行われ、いよいよ球児の夏が始まります。新聞記者にとって、高校野球取材は誰もが通る「原点」。炎天下の球場、朝から汗まみれになって取材しながら、書いた原稿はボツ―。そんな悔しさを糧に、記者も成長していきます。今週の「週刊報知高校野球」では現在、スポーツ報知のアマ野球取材の最前線に立つ3人が、心に残る球児や忘れられない出来事など、記者1年目の夏を振り返りました。

 ◆中越典子さん直筆サイン…青柳明(アマ野球担当)

 何度も何度も、携帯電話の画像を確認した。灼熱(しゃくねつ)の甲子園三塁側アルプス。目を引く女性が、佐賀北ナインに声援を送っていた。目の印象、鼻、口元、公表されている身長…。何より、隣にいるのはマネジャーとおぼしき男性だ。自信が確信に変わった。

 「あの…。女優の中越典子さんでよろしいでしょうか」

 07年夏。佐賀北の“がばい旋風”が吹き荒れた。野村祐輔(現広島)と小林誠司(現巨人)のバッテリーを擁する広島の名門・広陵との決勝戦。加藤キャップ(当時)の指令は「アルプスで著名なOB・OGを探せ」だった。

 超満員のアルプスを何往復しただろう。何人の関係者に話を聞いただろう。体力も限界に近づいていた。「無理だ…」。そう思い始めていた時だった。目に飛び込んできたのは、同校OGで、03年NHK朝ドラ「こころ」のヒロイン、その人だった。

 汗と涙が染みこんだスコアブック。そのラストページには、中越さん直筆のサイン入りメッセージが書き込まれている。

 佐賀北!!!! ゆうしょう本当におめでとう そしてありがとう。

 無理なお願いを快諾してくれ、本紙独自で掲載した。極太マジックで「優勝」が読みにくくなるため、新聞掲載への心遣いから、平仮名で書かれたことを付け加えておく。

 熱い夏だった。苦しい時もあった。悔しい思いもした。あの夏の甲子園は、記者生活の原点。激闘の記憶が詰まったスコアブックは、10年が過ぎた今でも、心を奮い立たせてくれる。

 ◆堂上直倫大物伝説…山崎智(アマ野球キャップ)

 ナゴヤドームに強烈な金属音が響いた。05年夏の愛知大会。地方大会初のドーム球場での決勝には、観衆約2万6000人が詰めかけた。場内の視線を独り占めにしたのは、その春のセンバツを制した愛工大名電の2年生主砲・堂上直倫(現中日)だった。

 3点リードの5回無死二、三塁。左翼席に大会3本目となる3ランを叩き込み、春夏連続出場を決定づけた。「たくさんの人の前で打てて、うれしい」。ナゴヤドームでは、中学時代にも中日のファン感謝デーの交流戦に出場し、あの福留孝介から一発を放っている。センバツでも2本塁打で優勝に導いた。スターになる男は、大舞台ほど、めっぽう強いことを印象づけられた。

 夏の甲子園でもV候補だったが、初戦で清峰に延長13回で敗れる波乱。5回2死満塁の守りで、遊撃手の前に弾んだ打球が、ユニホームの胸ボタンの隙間に入り込み、適時内野安打になった。三塁手の堂上も驚くしかなかった。珍事からの敗戦も、大物らしい逸話だった。

 翌06年の高校生ドラフトで中日、巨人、阪神と3球団1巡目競合。元中日投手の父・照さんが寮長を務め、兄・剛裕も在籍していた地元球団に導かれた。高校時代に輝いた本拠のドームで、まだまだ花を咲かせてほしい。

 ◆青春ファンレター…加藤弘士(野球デスク=05、07、08、10年アマ野球キャップ)

 入社時の配属は広告営業。記者になったのは社会人7年目だ。03年夏、私は29歳。原稿はヘタクソだったが、うまくなりたかった。あの日々で学んだのは「記事を書く上での不安は、取材で解消するしかない」ということ。一人の選手を描くため、控え部員や家族、クラスメートに至るまで「俺は取材マシンだ」と自己暗示をかけ、話を聞きまくった。

 そして気づいた。高校野球の主役は選手だが、それだけじゃない。熱演するブラバン、グラウンド整備する下級生、手を合わせ祈る親御さん…。球場に詰めかけた一人一人に多様なドラマがある。おのおのの情熱がぶつかり、熱狂を生む。それが高校野球を日本特有の文化にしているのだ―と。

 思い出す情景がある。市営大宮で行われた埼玉大会5回戦。花咲徳栄のエース・福本真史投手は武蔵越生戦で延長12回を投げ抜き、勝った。その春のセンバツ8強に導いたナイスガイ。爽やかで熱い男だった。話を聞こうと選手出口で待っていると、一人の女子高生が立っていた。ファンレターを手にしながらも恥ずかしそうに、渡そうか渡すまいか逡巡(しゅんじゅん)していた。大きなお世話だったが、私は人生の先輩として彼女に告げた。

 「勇気を持って渡した方がいいよ。青春は一度きりだから」。取材を終えた福本投手はそれを受け取り、「ありがとうございます」と礼を言った。彼女は顔を真っ赤にして走り去った。あの可憐(かれん)な少女は今、30代を迎えたはずだ。元気でいるだろうか。高校野球シーズンの始まりに、あの夏を回想したりするのだろうか。

 ◆高校野球取材は「原点」

 スポーツ報知の場合、新人記者は研修を経て夏の高校野球取材班に組み込まれ、各地で行われる地方大会の球場に向かう。普通に観戦して、囲み取材に入るだけではライバル紙と差がつけられないため「いかに他紙を出し抜くか」「独自の話題を届けられるか」の方法論を学ぶ。ネット裏のスカウトや選手の家族、友人らに総力取材し、最もエキサイティングなネタを取ってきた記者が、紙面のトップ記事を飾れる。昨夏は和光(西東京)の「逆一本足男」が本紙の独自で話題を集めた。

最終更新:6/12(月) 14:03
スポーツ報知

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