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中国ネットビジネス、「防火長城」の中で隆盛

6/12(月) 15:42配信

ウォール・ストリート・ジャーナル

 中国のインターネットを理解する上で外国人が知っておくべきことは何か。頻繁に米国を訪れる北京在住のベンチャー投資家に筆者がそう尋ねたところ、彼はいつも耳にするという一連のコメントを送ってきた。

 そこには、「わたしは、表現の自由がなければ、イノベーションは無理だと思った。検閲があると、どんな商品を出せるかについて、常に混乱することになろう。中国の保護主義がなければ、米国企業は(中国で)成功しているだろうと思った」といったものがあった。ほかにも、「中国の人々はできることなら、米国のウェブサイトを見たいと希望していると思った」というコメントもあった。

 多くの外国人が中国のテクノロジーと聞いて最初に思いつくのは、検閲や保護主義、模倣といったことだろう。中国のインターネットを理解する上で、これらが重要な要素であることは間違いない。だが、それらを超越して考えることが中国のインターネット理解には不可欠だ。

 中国は多くの面で世界をリードしている。中国は今や、世界最大の電子商取引市場であり、世界最大のモバイル決済市場でもある。政府のリポートによると、昨年の中国のモバイル・ネットユーザー約7億人のうち、店舗やレストランでの支払いをスマートフォンで済ませた人は半数、食事の宅配を依頼した人は28%、ネット上でフィクションを読んだ人は44%に達している。

 中国のインターネットと、それが諸外国にもたらす影響について、知っておくべきことをまとめてみた。

1. 中国人は、政府のネット検閲を迂回(うかい)してまで、グーグルやユーチューブ、フェイスブックといったサイトを訪問することを強く求めていない。

 確かに、中国はインターネットを厳しく検閲している。いわゆるグレート・ファイアウォール(防火長城)によって、生活および仕事に課される制限に不満を持つ人は少なくない。

 それでも、大半の中国人は、自分たちが手を伸ばしても見られないもの、つまり空白部分にあまり気を取られていない。なぜなら、国内のウェブサイトがその穴を埋める以上のことをしているからだ。

 中国本土に住む親戚の13歳の少女が今年、筆者の住む香港を訪ねてきた。私は彼女にユーチューブの動画を見たいかと尋ねたが、彼女は見たくないと言い、中国の動画サイトの方が良いと答えた。言葉の壁が問題だったのではない。彼女の英語力は素晴らしい。問題は慣れ親しんでいるかどうかだ。彼女はネットで中国のテレビドラマやバラエティー番組を見て育ったのだ。

2. たとえ外国製アプリへのアクセスが遮断されていないとしても、中国のライバルが勝つ。それは、極めて多くの人々が中国製品を使っているため、欠かせないものになっているからだ。

 インターネット通話やチャットができるスカイプ、ワッツアップやスラックといったアプリには、中国からでもアクセス可能だ。だが、それらは地元の大勢の人々が使う中国製アプリの代替品になり得ない。例えば、騰訊控股(テンセントホールディングス)のチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」のアカウント数は9億を超えている。

 ベンチャー投資会社、HAXアクセラレーターのプログラム責任者を務めるジ・ケ氏は、「中国は微信で動いている。われわれのスタートアップ(新興企業)もそうだ」と述べる。同社は主に北米や欧州のハードウエアを扱う新興企業を深センに誘致する。工場やサプライチェーンに近いという立地の優位性を生かすためだ。これらの外国からやって来た人たちに対してHAXが最初に行うことの1つが、微信をダウンロードさせることだ。それは、地元住民とコミュニケーションを取ったり、決済したり、イベントを組み立てたりできるようにするためだ。

 ケ氏によると、彼らは何度かスラックの使用を試したことがあった。しかし数日後には微信に戻っていた。話し相手の多くがスラックを持っていなかったからだ。

3. 新しいテクノロジーやビジネスモデルが登場すると、中国人は素早くそれを地元市場に適応させる。これは中国で「マイクロ・イノベーション」と呼ばれている。

 広東欧珀移動通信(オッポ)と維沃移動通信(ビーボ)は、市場シェアで第1位と第3位のスマホブランドだが、それほど裕福ではない小規模都市に住む若者などにうけている。外観は米アップルの「iPhone(アイフォーン)」に似ており、同じような機能が数多く搭載されているが、中国では製造コストが安いため、価格はアイフォーンの半額以下だ。

 オッポとビーボが市場シェアを2倍に拡大した背景はここにある。一方のアップルのシェアは13%縮小し、第4位になった。

 共同購入サイト大手「美団―大衆点評(Meituan Dianping)」は米国の同業「グルーポン」の模倣企業として誕生した。同社は今や、食事の配達やホテルの予約、映画チケットの販売のほか、イェルプのような評価サービスまで手掛けている。一方のグルーポンは、今も共同購入サイトのままだ。

4. 素早い適応が、新たな製品および新たなビジネスモデルの需要を生み出している。

 モバイル決済は、5年前は中国に存在しないも同然だったが、今はどこでも行われている。レストランやタクシー、コンビニエンスストアでも行われているため、キャッシュレス生活が可能なほどだ。

 中国の調査会社の艾瑞諮詢(アイリサーチ)によると、2016年の中国のモバイル決済額は前年から4倍近くに増え、58兆5000億元(8兆6000億ドル=約950兆円)に達した。このうち約8000億ドルが、配車サービスやゲーム、買い物での利用だ。米調査会社フォレスター・リサーチによると、16年の米国のモバイル決済は39%増の1120億ドルだった。

 これにより、新たなサービスが雨後のタケノコのように生まれている。自転車のシェアサービスなどだ。利用者はアプリで決済して自転車の鍵を開けることができる。このため、クレジットカードも、ストアドバリューカードも、専用の駐輪場も必要ない。こういった自転車は中国各都市に広がっている。

5. 今や逆に模倣されている。

 フェイスブックは微信に追随して、電子商取引、友人間の送金、チケット購入などのサービスを追加した。技術系ニュースサイトの「テック・イン・アジア」はこれを「フェイスブックの微信化」と呼んだ。アップルは今週、メッセージサービス「iMessage(アイメッセージ)」で、友人間の送金を可能にする計画を発表した。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の同僚は先週、米国ではファストフードチェーンおよび高級レストランがランチ配達サービスを拡大しようとしていると報じた。それを読んだ筆者の最初の感想は、「まるで2015年の中国だ」というものだった。

By Li Yuan