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ボッシュが開発に取り組む“説明可能なAI”

6/13(火) 6:10配信

MONOist

 Robert Bosch(ボッシュ)が2017年1月にAIセンター(BCAI:Bosch Center for Artificial Intelligence)の稼働を発表してから半年が過ぎた。研究開発費70億ユーロ(約8610億円)を投資し、米国カリフォルニア州パロアルト、インドのバンガロール、ドイツのレニンゲンやルートヴィヒスブルクに拠点を展開している。

【ドイツの公道で取得した映像に対するセマンティックセグメンテーションの様子を含む画像4点】

 2018年6月8日に東京都内で開催した年次会見にAIセンターのグローバル責任者であるクリストフ・パイロ氏が出席、AIセンターの目的や取り組みについて語った。

 パイロ氏は2017年にボッシュに入社するまで、ドイツ テレコム ラボラトリーズの副社長として、人工知能(AI)やサイバーセキュリティ、インダストリー4.0やIoTを担当。ドイツのオスナブリュック大学でAIの博士課程を修了した。

●自動車から農業までAI活用

 ボッシュのAIに対する取り組みは、2017年初めに開催された国際家電見本市「CES 2017」以降、相次いで明らかになった。

 CES 2017の基調講演では、NVIDIAがボッシュと提携することを発表。NVIDIAの車載向けAIスーパーコンピュータ「Xavier(ザビエル)」を搭載した「DRIVE PX」をベースにした自動運転用コンピュータを2020年代初頭までに量産する計画だ。また、ボッシュはDaimler(ダイムラー)と業務提携して2020年代初めに完全自動運転車を市場投入することも発表している。

 NVIDIAを提携相手に選んだ理由について、パイロ氏は「自動運転車が多くのセンサーを搭載することから、コンピューティングパワーも重要になる。浮動小数点演算ができるからGPUが必要だった。GPUの主要なサプライヤーであるNVIDIAは面白い立場にいる。GPUは他にも何社かいるが、NVIDIAと組むことで物事をスピードアップできると判断した」と説明した。

 クルマ以外でもAIを活用し、モノを「インテリジェントなアシスタント」にしようとしている。CES 2017では、家庭用ロボットの「Kuri」、スマートキッチン向けのアシスタント「Mykie」も披露した。Kuriは2017年末に米国で市販予定。子どもを模した高さ50cmほどの本体に、スピーカー、マイク、カメラ、センサーを内蔵している。家族の一員となるよう、コミュニケーション能力を持たせる。Mykieは冷蔵庫の中身を把握して買い物リストを作成したり、調理を助けたりする。

 年次会見では、ハウス栽培で起きる作物の病害感染を、AIで高精度に予測するサービスも紹介した(関連記事:ボッシュが農業に参入、AIで作物の病害感染を精度92%で予測する)。病害予測サービスは日本で2017年8月からスタートする。

 AIセンターの使命は「世界最良のAIを開発すること。技術的に確立するだけでなく、研究成果をボッシュのビジネスユニットに展開し、いち早く製品として作って生活の中で使われるようにする」(パイロ氏)。AIセンターでは22分に1回のペースで新しいアイデアが生まれ、毎日20万ギガバイトものデータを収集しているという。

●製品開発の要件定義にもAI

 パイロ氏はAIセンターでの研究トピックスを幾つか紹介した。1つが自動運転車向けの歩行者の行動予測だ。元になるのは、歩行者や車両、歩道、車道などを全て色分けして認識するセマンティックセグメンテーションだ。色分けはニューラルネットワークが意味論的に判断したもの。クルマが進むにつれて光の当たり方などが変わっても正確に歩行者を捕捉し、歩き続けるのか止まるのかを判断する。歩行者の行動予測に基づいて、ブレーキをかけるか避けるかなど制御を確定させる。判断の良しあしに合わせて報酬や罰を与えて、AIがよりよく学習できるようにする。

 製品開発の要件定義にもAIを使用しているという。ボッシュでは、電気自動車(EV)向けのブレーキシステムの開発に当たって、ガソリンエンジン車と比較した制動の頻度を公道のデータから分析した。ガソリンエンジン車は距離が短いほど制動の頻度が上がったが、EVはガソリンエンジン車よりも頻度が少なかった。こうした実際の使われ方を基に製品の仕様を定義した。「人間はガソリンエンジン車もEVも制動の頻度は変わらないと考えてしまう。非線形な判断はAIの方が早いので活用している」(パイロ氏)

 AIは生産現場でも活用を進めている。パイロ氏は「工場から出るスクラップの低減やリードタイム短縮にはAIで何ができるか。分散した生産ラインのデータを分析して、さらに改善が必要な部分を特定する。タイトなカイゼンなのでAIが必要だ」と説明した。

●AIの判断を説明可能に

 “説明可能なAI”の開発についても触れた。「ディープラーニングは有効な手法だが、ブラックボックスになるのを防げない。安全面ではそのまま実装することはできない」(パイロ氏)とし、AIの信頼度を測るための手法を紹介した。

 「まず、ディープラーニングとニューラルネットワークを分けて考える。ニューラルネットワークがどのように振る舞っているか、どう機能しているかを観察し、AIが今処理しているデータとトレーニング後のデータがどの程度離れているかを検証する。これで現在の学習度合いの信頼度を割り出す。次に、この信頼度を基に、今処理しているデータが、そのデータの関係する領域をどの程度カバーしているかを予測し、アウトプットの信頼度を測る。これによって、信頼性を明らかにできる」(パイロ氏)

 パイロ氏は、製品が認知能力を持つ世界が来る、と今後の展望を述べた。「製品が人間の期待を予測し、期待に合わせてくれる。対話もできる。学習することで、時間がたつに従って価値を増す。今とは違う価値が生まれるだろう」(パイロ氏)

最終更新:6/13(火) 6:10
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