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最近のクルマ、顔つきが“反抗期”っぽいのはなぜ? カーデザインのプロに理由を聞いた

6/13(火) 10:47配信

ITmedia NEWS

 IoT、人工知能(AI)──盛り上がる先端テクノロジーを語る上で、「自動車」は欠かせないものとなった。人々が夢見た「自動運転」が現実のものになりつつあるからだ。今年5月には、トヨタ自動車が開発中の自動運転車に、半導体メーカー・米NVIDIAのAIプラットフォームを採用すると発表して話題を呼んだ。

【画像】“反抗期を迎えたような顔”を見る

 NVIDIA(エヌヴィディア)は、少しでもPCをかじったことがある人なら知らぬ者はいないであろう有名企業。一部では“謎のAI半導体メーカー”と、あえて報じられたが、これまでなじみがなかった業種同士の協働を象徴する出来事だったからこそと感じる。

 この連載では、新たな局面を迎えつつある乗り物の未来やトレンドを、親しみやすい身近な話題かつ、IT寄りの視点で紹介していく。

 今回ピックアップするのは、カーデザインの話。どうやら車の見た目は技術の進歩とともに「女性の化粧」と関係があるらしい。一体どういうことだろうか。

●最近の車は“反抗期”を迎えている?

 以前、SNS上で「最近の車は反抗期を迎えている気がする」というユニークな話題に注目が集まった。トヨタの小型車「ヴィッツ」の顔つきが、モデルチェンジを重ねるごとに勇ましくなっていくというのだ。

 これはヴィッツだけではなく、他の車種やメーカーでも同じような風潮があるとの声もある。昔の車は“丸くて優しい”デザインが多かった気もするが、最新モデルは顔つきが鋭い印象なのはなぜだろうか。

 カーデザインの専門家に意見を聞くため、東京・新宿にある学校法人・専門学校HAL東京を訪れた。同校はCMでおなじみ、ゲーム、CG映像、グラフィック、アニメ、イラスト、ミュージック、カーデザイン、ロボット、IT、Webの分野を学べる専門学校で、特徴的な「総合校舎コクーンタワー」のあるHAL東京をはじめ、HAL大阪、HAL名古屋、フランス・パリにも学校を展開している。

 今回はカーデザイン学科の坂口善英教官と内藤則明教官にお話を伺った。主に日産自動車で活躍されていた2人の経歴は以下の通り。こんな人たちに教えてもらえる学生さんがうらやましい。

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坂口善英(さかぐち よしひで)

エクステリアデザイナーとしてスカイラインR30等、国内外で数々のプロジェクトに参画。

日本自動車殿堂(JAHFA)カーデザインオブザイヤー選考委員。趣味は陶磁器の製作。

現在は、IT・デジタルコンテンツの専門学校 HAL東京のカーデザイン学科の教官として教鞭(きょうべん)をとる。

著書に『日産ラシーンのデザイン開発』(2011年 三樹書房)

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内藤則明(ないとう のりあき)

日産自動車株式会社サテライトスタジオ クリエイティブボックスに1987年に入社。

チーフデザイナー。コンセプトカーを中心としたデザイン開発に参画。

2002年デザインオフィス、スパイスデザイン設立。代表。

国内外の自動車メーカープロジェクトに参画。2011年よりHAL東京のカーデザイン学科教官。

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●「カーデザインは女性の化粧に影響を受けている」

──最近、SNS上で車の顔つきに関する話題が注目されました。モデルチェンジをする度に勇ましくなっていく顔つき……どのような流行の変化があるのでしょうか

坂口 クルマというのはある意味、人の顔に近いのです。ヘッドランプがあってバンパーがあって、グリルがあって──私が現場にいたときは女性の化粧のトレンドに注目していました。

──女性の化粧ですか?

坂口 先ほどヴィッツの話が出てきましたが、時代の移り変わりとともに女性の化粧も同じように変化しています。あくまでこれは私の持論ですが(笑)。

 カーデザインをするときに、時代の流れに身を置くことが大事です。デザイナーの中には、バンドで音楽をやっている人もいれば映画をよく見る人もいる。時代の流れをつかむ1つの方法として、女性の化粧を参考にすることもあります。

──化粧の流行はどのように変化していったのでしょうか

坂口 変化はテレビCMで分かります。化粧品メーカーや広告代理店が戦略的にやりますよね。例えばお笑いタレントのブルゾンちえみさんは全て化粧で書いた“作られた顔”です。女性の化粧でも、“目がつり上がった”ようなものが流行った時期があり、その後にクルマのヘッドランプも鋭くつり上がった感じになっていったのではと僕は思っています。

──面白い発想ですね。坂口教官が影響された女性はいますか?

坂口 私が当時影響されたのは藤原紀香さんですね。18歳でデビューしたときに目が鋭い感じに見えたのです。山口百恵さんとは明らかに違いました。

 シトロエンやプジョーなど、海外の車もだんだんと目が後ろにつり上がってきた。そういう意味では、海外のカーデザインも女性の化粧の傾向と連動しているのではと思っています。

──男性のファッションなどには影響されないのでしょうか

坂口 実は、車のエクステリアデザイン(外観)を手掛けている女性ってあまりいないのが現状です。車は男性のおもちゃみたいなところがあって、着飾るジャケットみたいなものでもある。女性を意識しているところはあるはずです。

 その時代の“かっこよさ”とは何か。ようは、他にはないものを常に探してデザインに落とし込む。それは“情感を表す”ということ。これがデザイナーの仕事です。

●テクノロジーの進歩もカーデザインに影響

──女性の化粧が関係してくるとは想像もしていませんでした。てっきり成形技術の進歩によるものかと

内藤 プラスチック素材が(ボディーに)使えるようになるなど、技術の進歩によってデザインの自由度が増えたというのももちろんあります。

坂口 特に「LED」だよね。

内藤 ヘッドランプやテールランプを細くできるようになったのはLEDのおかげです。「(従来の電球に比べて小さい)LEDに合わせた顔(デザイン)ってどういう顔?」となると「きつめ」「シャープ」な顔になるのかなと。初代ヴィッツの大きくて丸いテールランプにLEDを取り付けても似合わないですよね。

坂口 「軽薄短小」(けいはくたんしょう)──軽くて薄くて短くて小さく、これは技術発展の典型的なもの。デザインはこれらを応用するだけです。

──技術の進歩に合わせてデザインが変わると

内藤 デザインと技術はリンクしています。以前、「車のデザインを大きく変える方法とは何か」ということを話していたのですが、技術側から渡される「車の設計図」や「動く仕組み」のような“要素要件”が変わらないと、クルマのデザインも大幅には変わりません。

 今は一番微妙な時期ですね。電気自動車のような新しい車が出てきて、エンジンが不要になった。さらに技術が進歩すれば、ホイールの中に動力のモーターが入るようになる。

 となるとフロント部分には何もいらなくなるので、デザインが大きく変わる。技術とデザインでは、デザインの前に技術の部分が大きいのかなと私は思います。今は大きな時代の節目に差し掛かっていますね。

 これからの若いデザイナーは、既成の概念を外してデザインしていかないと新しいモノにはならない。最近はハンドルがない自動車も登場し始めましたし、もっと新しいインテリアが求められる気がします。

●これからの車に適したカーデザイン

──電気自動車や自動運転車といった新しい時代の車に適したカーデザインはあるのでしょうか

内藤 既に発売している100%電気自動車の「テスラ」は、ガソリン車と大きく形が変わりません。“あえて変えない”戦略らしいです。電気自動車はエンジンを冷やすための吸気口は必要ないはずですが、ガソリン車と同じ場所にそれっぽいものが付いています。

──日産「ノート」の電気自動車モデル「e-POWER」もガソリン車と同じデザインで登場しました

 ノートも売れ筋の車です。形を大きく変えて「ノートの新型です」というよりは、パワーユニットを変えて「見た目はそのまま」のほうが売れる。

 全く違う形にしてしまうと市場に受け入れられないのです。だから、あえてクルマらしい形にしていると聞いたことがあります。これから徐々に変化していくはずです。

──少し話はずれますが、「21世紀に間に合いました」のCMが印象的だったトヨタの初代ハイブリッドカー「プリウス」(1997年)が登場したときは、すごく変わったデザインだと感じました

内藤 (当時、ユニークに見せたデザインは)ハイブリッドカーのアイコンとして認知させたい部分はあったのでしょう。「これぐらいならおじさんたちにも買ってもらえるだろうか」──カーデザイナーは一生懸命バランスを考えたはずです。

坂口 自分の体よりも大きなものをデザインするのはとても難しくて、経験を積まないとできない。車はしんどいのです。ただ、昔と比べたらデザイナーと技術者たちのつながりがすごく強くなりました。昔はデザインといったら外形の皮、衣装だけだった。デザイナーの役割が理解されていなかったのです。

 デザイナーの役割は、技術を人類が望んでいるものに近づける。お客さんと、車を作る技術側の間に入るものなのです。

最終更新:6/13(火) 18:46
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