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超人オカダ・カズチカの「僕、元気ですから」をいつまでも聞きたい

6/13(火) 14:31配信

スポーツ報知

 2009年6月13日、プロレス界のスーパースターだった三沢光晴さんがリングに散った。46歳だった。タッグマッチで相手選手の急角度バックドロップを受けた後、意識不明となり、心肺停止状態に。リング上で救急蘇生措置が施された後、病院に救急搬送されたが、午後10時10分に死亡が確認された。死因は頭部を強打したことによる頸髄離断だった。

 それから8年。三沢さんの命日にあたる13日の前日、「レスラーに対して、この質問は失礼だろうか」。久しぶりにそんなドキドキを感じながら、現在のマット界最大のスターに聞いた。

 「リングに上がることへの怖さはないんですか?」

 11日の新日本プロレス大阪城ホール大会メインのIWGPヘビー級選手権試合で宿敵、ケニー・オメガ(33)と60分間の死闘を展開。フルタイムドローの末、6度目の防衛を果たした王者、オカダ・カズチカ(29)は、じっとこちらを見て、微笑みを浮かべると「全然ないですね。だって、僕、元気ですから」と即答した。

 プロレス界最大の人気を誇る団体・新日本プロレスは、この3か月、次々と重大事故に見舞われている。3月3日には「こけし」の愛称でバラエティー番組でも人気の本間朋晃(40)が中心性頸髄損傷。4月9日にはオカダに38分を超える激闘の末に敗れた柴田勝頼(37)が硬膜下血腫。ともにリング上で生命にも関わる大ケガを負い、戦線離脱。いまだ、リング復帰を果たしていない。オカダ自身、この日の会見の冒頭「朝起きたら、身体中が痛かった。ボロボロですからね、正直」と漏らしている。

 背景にあるのが、先鋭化、過激化する一方のプロレスラーたちの戦い方だ。失礼ながら、20年ほど前に取材していた頃のプロレスは「のどか」だった。ゴングが鳴ると、両者の手合わせからロックアップ。グラウンドの攻防があって、最後の数分間、互いにスピードアップしての「ハイスパート」の時間。最後はラリアット、パワーボム…。必殺技が炸裂してスリーカウント。牧歌的だった。

 「あの頃」と比べて、今、オカダや内藤哲也(34)、棚橋弘至(40)たちが展開している新日の戦いはどうだろう。ゴングと同時にハイスパートの連続。ストリート・プロレス出身の人気外国人レスラー、ケニー・オメガ(33)の参戦もあり、序盤からスピードに乗った大技の連発。トップロープから場外の机の上に倒れた相手へのダイブなど、危険度の高過ぎる、見ていて、ヒヤッとする攻防が長時間に渡って続く。

 世界最大の団体・WWEで大活躍中の元新日のスター・中邑真輔(37)も本間、柴田の大ケガを受け、「最近の日本のスタイルというかトレンドというか、危険な技の応酬で立て続けに重傷者が出ている。各レスラーが危険な技、リスクを顧みない試合の構成について、もう一度考える時期なのではないか」と警鐘を鳴らしている。

 進化し、先鋭化する一方の新日の戦い。その中心にいるのが、「リングに金の雨を降らせる」人気ぶりから「レインメーカー」の異名を持つオカダであることは衆目の一致するところ。「最高の戦い」と世界中のプロレス・ファンをうならせた1・4東京ドーム大会でのオメガとの46分45秒間の死闘。柴田の離脱に直結した4・9の死闘、そして今回もオメガと60分間フルタイム・ドローと、新日最大のスターは常にギリギリ崖っぷちの戦いを続けている。

 ハイスピードで危険度満点の大技の応酬が続く今の戦いに慣れたファンは常に次なる「最高の戦い」を求める。ほんの少し、パフォーマンスが落ちれば、ネットに躍るのは「しょっぱい試合」という論評。だが、毎月のように重傷者を出し、スター選手が離脱。お目当ての選手がリング不在の現状は、ファンの求めているものだろうか。たとえ「ユルく」てもいい。大好きな、あの選手がリングに立ち、いったんは追い込まれた末、おなじみの必殺技で相手を仕留める。古くは街頭テレビの力道山―ブラッシー戦の時代からファンは、そんな風にプロレスを鑑賞して来たのではないか。

 過激な技のレスラー・サイドからの自粛。マットなどハード面の安全化。医師の常駐。重大事故を防ぐための方策は、プロレス団体が今すぐにでも着手しなければならない喫緊の課題だろう。

 そんなリングを取り巻く現状を現代のトップレスラーはどう見ているのか。リングで重傷を負う恐怖、常に「最高」を求めるファンの視線に対するプレッシャー。二つの意味を込めて聞いてみた「怖さは?」という問い。それに対するオカダの答えが明快そのものの「だって、僕、元気ですから」だったのだ。

 「ケガはあると思いますよ。プロレスですから。でも、怖かったらできない。その怖さに打ち勝つために練習してますから。僕が元気なうちは大丈夫です」と続けたナイスガイは今、29歳。ある意味、ポカンとするほど明るく朗らかな答え。それこそが「そうだよな、プロレスの魅力って、こういう深く考えない脳天気さだったよな」と思わせるものだった。そう言えば、プロレス史上最大のスター・アントニオ猪木氏(74)の決めぜりふも「元気があれば、なんでもできる」だった。そんなことまで思った。

 「プロレスラーは超人ですから」と常に言うオカダに、それでも「あなたも人間でしょ。限界はあるから」と言いたくなる自分がいる一方、どこから見ても「かっこいい」100年に一人とも思うオカダの抜群の身体能力を生かした最高レベルのパフォーマンスをいつまでも見ていたい。そう思わせてしまうのが、プロレスが持つ独特の魅力、いや魔力なんだな。オカダの底抜けの笑顔を見ながら、そんなことを思った。(記者コラム・中村健吾)

最終更新:6/13(火) 14:31
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