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中国で勝ち残るコツ、“ジャストフィットな仕様”を追求する

6/13(火) 17:10配信

EE Times Japan

■STBが続々と発売されている中国

 テカナリエでは定期的に中国で発売されるSTB(Set Top Box)、TV BOXなどを買って分解しチップの調査を行っている。Appleの「Apple TV」、Amazonの「Fire TV」、Googleの「Nexus Player」などとほぼ同等の機能を有したものと考えてもらえばいい。TVをインターネットに接続し、まるでスマートフォンのように使える製品だ。

【『図2:多くの中国製STBが採用する米Amlogicの「S912」』などその他の画像はこちらから】

 中国でもスティックタイプの製品が多々発売されているが、今回扱う2機種はともにBOX型のSTB製品である。1つは中国Shenzhen Blueway Electronic TechnologyのAndroid TV box「ZENOPLIGE ZEN BOX 4K」、もう1つは中国Shenzhen AZW TechnologyのAndroid TV box「Beelink GT1」ある。

 図1に2機種の外観を掲載した。ともに10メガビット/秒(Mbps)/100Mbps/1000Mbpsに対応したイーサネット端子、USB端子、HDMI端子を基本入出力端子とし、さらにはSDカードスロット、光オーディオ端子を備えている。またWi-FiとBluetooth通信機能も搭載していて、無線を介してスマートフォンとのやりとりも可能になっている。

 大きさは手のひらに乗るサイズで、重さはスマートフォンよりも若干重い程度である。なぜ重いかというと、設置した際にぐらつかないように、内部には錘(おもり)金属が入っているからだ。

 分解は極めて簡単で、筐体と錘を取り除くと、基板が取り出せる。分解に必要な工具は一般的に使われるプラスドライバーのみ。ネジを外すだけで基板を取り出すことができ、所要時間もせいぜい3分くらいだ。

■STB市場ではブランド力のある米Amlogic

 図2は、2機種から基板を取り出した様子である。

 内部にはWi-Fi/Bluetooth通信チップ(Qualcomm製または台湾Realtek製)、ストレージメモリ(NAND型フラッシュメモリ)、DDR3 RAM、オーディオCODEC、LANトランスフォーマーチップなどが並んでいる。その中心に、Android 6.0に対応し、STBとして画像や音声を処理するプロセッサが配置されている。

 2製品ともにプロセッサは共通だ。米Amlogicの「S912」である。Amlogicの本社はシリコンバレーのほぼ中央に位置するサンタクララにあり、1995年創業という20年以上の歴史を持つ。現在は中国と米国の拠点および市場を最大限に活用する半導体メーカーの1つになっている。AmlogicのCEO(最高経営責任者)はJohn Zhong氏で、中国表記では钟培峰氏である。

 Amlogicは日本ではあまりおなじみのない半導体メーカーだが、中国では3年連続でSTB、OTT(Over the Top)、Android TVのチップで市場シェア1位の座を射止めた知名度の高い会社である。

 事実、中国には上海、北京、深セン、香港および台湾・台北にセールスオフィスやテクニカルサポートセンターがそろっている。また図2のセンターに掲載したように、チップには型名だけでなく、ロゴに配したJaguarの絵が描かれている。各分野でのトップ企業だけが持つことができる、いわゆるチップ・ニックネームである。例えばスマートフォン・プラットフォームのトップ企業であるQualcommがSnapdragon(龍)を、中国HiSliconがKirin(麒麟)を名乗るようなものだと捉えておけばいいだろう。

 実際にAmlogicのプロセッサは実に多くのOTTやSTBに活用されている。ほぼコモディティといっても良い状態だ。

 STB、OTT分野に特化し、市場シェア1位になれることは十分に評価できることである。

■「S912」の中身

 図3に、AmlogicのS912プロセッサのチップ内部構造を掲載する。64ビットのAndroid OSに対応した「ARM Cortex-A53」プロセッサが8基搭載され、4Kビデオ処理機能、3コアのGPUが搭載されている。STBやOTTに特化された特徴的な機能としてはイーサネットMAC(論理層)およびPHY(物理層)の機能が1チップに搭載されている点が挙げられるだろう。

 通常、スマートフォンやタブレット、ウェアラブル機器に使われるプロセッサは、無線(Wi-FiやBluetooth)通信を前提としており、有線でのインタフェースはUSB、HDMIを搭載するだけになっている(ただしカメラモジュールとの接続のためにMIPIなどが搭載されているケースもある)。

 Amlogicの製品ではイーサネット接続を前提として、イーサネット機能を入力とし、出力をHDMIやUSBとするOTT/STBに最適化した仕様になっている。汎用性の高いCPUを複数コア搭載し、Androidに対応し、インタフェースはTVなどのディスプレイに対応するのみ。通常のアプリケーション・プロセッサが持つ、カメラISP(Image Signal Processor)やセンサーハブ機能は有していない。

 ARMコアを使用したCPU/GPUや、規格化されたインタフェースを並べて作っただけのチップではない。4KのデコーダーはAmlogic独自の「AVE-10」を用いている。AVEはAmlogic Video Engineの略だ。1995年の創業以来、常にビデオエンジンをメインに開発を進めてきた結果、生み出された機能である。AVE-10は、デコードに特化し、4K@60fps(フレーム/秒)を実現する。この仕様が中国のOTT/STB市場にマッチし、トップシェアを3年連続で達成した原動力になっている。2017年現在も、販売されている多くのSTBにAmlogicのチップが使われているので、4年連続でシェア1位を獲得する可能性は高いのではなかろうか。

■コア数を“減らす”勇気

 Amlogicは、2010年以降多くのチップを作ってきた。早い時期からマルチコアCPUを採用し、クアッドコアやオクタコアを実現した1社である。図4に、Amlogicのプロセッサのヒストリーの一部を掲載する。「S802」では、多くのスマートフォンメーカーが、デュアルコアやクアッドコア程度のGPUコア数であった時期に、8コアのGPUをリリースした。

 しかしOTT/STBではそれほどのGPU性能を必要としないことから、2015年以降のチップではGPUコアの数を削減している。数多い半導体メーカーの中で、GPUコア数を減らしているのは、Amlogicくらいではないだろうか。

 例えばSamsung Electronicsのスマートフォン「Galaxy S」シリーズを見てみよう。搭載されているGPUコア数は、世代が新しくなるにつれて、1、4、4、3、6、8、12、20(一度だけ減っている)と増加の一途をたどっている。最新のプロセッサではチップの4割から半分の面積がGPUに割かれているが、AmlogicのチップではGPUの面積比率は常にチップ全体の2割程度である。むしろ汎用性の高いCPUに重きを置いた構成になっているのだ。

 こうした、市場にマッチした仕様こそが、ASSPチップとして中国市場シェアNO.1の地位を築く要因となったのだろう。OTT/STBの最大市場である中国で君臨するためのターンキーにもなっている。チップセットにはなっていないが、「Amlogic+汎用メモリ+汎用LANトランスフォーマ+Wi-Fi/Bluetoothチップ」という構成で完成しているOTTやSTBも多いからだ。

 しかも多くのチップにありがちな、「帯に短し、たすきに長し」ではない、ちょうどよい仕様となっている。中国で売れるためには何が必要か、Amlogicの事例を今後も追い、観察していく予定だ。

最終更新:6/13(火) 17:10
EE Times Japan