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国は待機児童問題を先送り……「保育園落ちた」私がたったひとりで訴訟に踏み切った理由

6/13(火) 12:10配信

BUSINESS INSIDER JAPAN

2017年度までに「待機児童ゼロ」を掲げてきた安倍政権だが、6月に発表した2020年度末までにゼロを目指す新たな子育て安心プランをもって、問題解決は3年先送りとなった。今なお、親たちは出産前から不安を抱え、生まれるや否や子どもを保育施設に預けるための「保活」に奔走する。ゆったり子どもと過ごすはずの産前産後に、なぜこんな不安に陥れられなければならないのか。

【画像】行政は本当に責任を果たしているのか、問いたかった

そんな中、子どもが認可保育園に入れないのは、自治体が児童福祉法24条の定める保育の実施の責務を果たしていないからとして、たった1人で市を相手取り、本人訴訟に踏み切った女性がいる。訴訟を選んだ理由を、女性は「これで本当に行政は責任を果たしていると言えるのか、問いかけたかった」と語る。

異議申し立てに杓子定規の回答

2年前の冬、都内の大学院で社会学を専攻しながら非常勤講師として働く小林絵里さん(34)=仮名=は、三鷹市役所から届いた「不承諾通知」を手に、呆然としていた。小林さんは多子世帯の共働き。4月から復帰しようと、当時9カ月の三女を認可保育園に入所申し込みをした結果がそれだった。

現在小学生の兄弟たちは、すんなりと認可保育園に入っていた。世間で待機児童問題は取りざたされてはいたが、子ども子育て支援新制度の創設や増税による財源確保など取り組みが進み、問題も緩和されているはず。さらに「兄弟が在園しているので(当時)、加点も期待できる。以前と同じように入所できるだろう」と構えていたので、ショックだった。

落選した理由を三鷹市に問い合わせた。大学院の博士過程に在学していることで、研究者は就学とみなされる。入所を判定するポイントで、フルタイム就労者と6点もの差があり、勝ち目などなかったことを初めて知った。兄弟の時よりも、保育園争奪戦は激化していたのだ。

不承諾通知を受け取った翌月、小林さんは市に対し異議申し立て申請を行う。ところが現状は何も変わらず、市からは「保育園をつくる努力はしている」といった理由があっさり書かれた、教科書通りの返答の文書が1枚、送られてきて終わり。「これじゃのれんに腕押し。まったく意味がない、本気で取り組もうとしているのだろうか」杓子定規の対応に、なおさら憤りを感じた。

その年、小林さんはまさに保育園難民を経験することになる。自宅から通える範囲の認証や認可外の保育園をまわったが、狭いスペースに月齢も年齢もごちゃ混ぜで子どもたちが寝かされていたり、当然ながら園庭もなかったり。どうしても1歳に満たない子どもを丸一日預ける気持ちになれなかった。

結局、市内の認可園が実施する一時預かりに毎朝、車で通った。1日5000円で週5日預ければ月10万円。しかも預かり時間は認可保育園よりずっと短い。「やっていけない」と、1時間300円で預かってくれる地域子育てサロンを探し出し、2カ所に交替で預けた。

1年後の2016年2月。三女の認可保育園の申し込みで、またも不承諾通知を受け取る。「さらにもう1年この生活……。保育制度が社会インフラとして全く機能していない」勤務時間も短くせざるを得ず、認可保育園へ入れた場合との差額はふくらむ一方だ。延長保育への対応や園庭など、得られる保育環境の差も大きかった。

児童福祉法24条には「地方自治体は保育を必要とする者には保育を提供しなくてはならない」とある。自治体が保育園を整備しないのは、「公務員の不作為に該当するのではないか? 法治国家なのにおかしい」納得できなかった。

「保育園落ちた」ブログを発端として、世間ではデモやSNSの拡散で、保育園に入れない親たちの動きが活発だ。しかし「行政は全然、痛くない。影響力がない」と、小林さんは感じた。

「訴訟」の文字が頭をよぎり、簡易裁判所の場所を調べてみると、意外にも自宅から近かった。「研究の延長線という感じ」で門をくぐった。

認可保育園に入れた場合と、実際に通った一時保育、無認可保育園の利用料2年分の差額は100万円以上だが、簡易裁判所で少額訴訟として請求できる上限額は60万円。請求額は自ずと決まった。心配していた費用も、本人訴訟ならば1~2万円でできた。

小林さんは弁護士を立てずに本人訴訟を起こすことにした。訴状の書き方からわからないことがあれば「ネットで検索しました」

そうして2016年2月、東京都三鷹市を相手取り、無認可保育施設にかかった費用の一部60万円の支払いを求める訴訟に踏み切った。

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最終更新:6/13(火) 12:10
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