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上野裕一ジャパンエスアール会長が考える日本ラグビー未来像(5) 「フランスTOP14決勝戦の熱狂に触れながら再認識したこと~シーズンストラクチャー再構築について」

6/13(火) 18:59配信

ラグビーリパブリック(ラグビーマガジン)

 6月のラグビー界はウィンドウマンス。世界各地でテストマッチがおこなわれています。日本でも33-21で勝利を収めたルーマニア代表戦に続いて、17日、24日とアイルランド代表とのテストマッチが予定されています。

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 このウィンドウマンスの間は代表同士のテストマッチを優先するためスーパーラグビーは小休止。サンウルブズの次戦は7月1日のライオンズとのアウェー戦となります。

 この小休止期間を利用して、かねてからフランス協会から招待を受けていたこともあり、トップ14と呼ばれるフランスリーグの決勝戦視察のためパリに行ってきました(決勝戦がおこなわれたのはパリ郊外サンドニにあるスタッド・ド・フランス競技場)。

 8万人という、テストマッチ以外では最多と言っていい大観衆が駆けつける中おこなわれた一戦は、クレルモンがトゥーロンを破って2度目のフランス王者となりました。
 先にヤマハ発動機ジュビロへの復帰が発表されたFB五郎丸歩(トゥーロンに在籍)が優勝チームの一員に名を連ねることができなかったのは残念でしたが、南半球とは異なる欧州のラグビー文化を直接感じることができ、非常に有意義な経験となりました。

 8月20日に始まったトップ14の長いシーズンは、6月4日の決勝戦で終了したわけですが、フランス代表はその翌週から南アフリカ遠征をスタートさせています。

 6月の南アフリカ遠征でスプリングボックスとの3試合のテストマッチを戦い、11月のウィンドウマンス時は地元でニュージーランド、南アフリカ、さらには日本を迎え撃つというのがこれからのフランス代表のテストマッチ予定。さらに、年明けの2月、3月に伝統の6か国対抗の5試合を戦うというのが年間スケジュールとなります。

 その一方でトップ14は8月に始まり、6月の決勝戦まで熱戦が繰り広げられます(26節のレギュラーシーズン+3節のプレーオフ)。
 クラブコンペティションとしてはトップ14以外に欧州王者を決める「チャンピオンズカップ」とその下部リーグと言える「チャレンジカップ」もあり(6節のレギュラーシーズンと3節のプレーオフ)、7月を除けば1年中トップレベルのラグビーがおこなわれていることになります。

 しかも、トップ14の決勝戦が6月のウィンドウマンス直前におこなわれていることからも明らかなとおり、長いフランスのラグビーシーズンも基本的には代表のスケジュールを優先するストラクチャーとなっている。

 11月のウィンドウマンス時は代表のテストマッチの裏でトップ14の試合もおこなわれていて、そのあたりには伝統的にクラブ側が強い影響力を持ってきたフランスラグビーらしさを垣間見ることもできますが、それでも代表強化を頂点とするシーズンストラクチャーはしっかり保たれている。
 基本的には、フランス代表はトップ14でプレーする選手中心で構成されるため、当然、各チームには代表組なしでもコンペティティブなチーム状態をキープできるような戦力保持が必要とされているわけです。


【選手のウェルフェア重視も代表強化に欠かせない要素】

 翻って、日本でも昨季からサンウルブズのスーパーラグビーへの参戦が始まり、シーズンストラクチャーの再構築を余儀なくされている現実があります。

 もともと、現在のトップリーグにつながる社会人チームとともに大学ラグビーが栄えてきた歴史を持つ日本では、社会人チームと大学チームが対戦するスタイルだった日本選手権など、南半球とも欧州とも異なる独自のシーズンストラクチャーを作り上げてきました。

 その日本独自のラグビー文化は世界からも一目を置かれていることは確かですが、その一方でラグビーワールドカップ(RWC)が定着し、しかもそのRWCの地元開催が決まった状況を鑑みるなら、日本における全てのラグビーコンペティションの最終目的が代表強化につながるものにならなくてはならないことは明らかです。
 伝統は伝統として尊重しつつも、その伝統にあぐらをかいていられる時代ではなくなっているのは誰の目にも明白でしょう。

 当連載でも何度か書いてきたとおり、サンウルブズがスーパーラグビーに参入した最大の理由も日本代表強化に直結すると考えられたから。

 その意味では、年2回ウィンドウマンスを中心とする日本代表の活動およびスーパーラグビーのスケジュールが最も効果的な成果を上げられるようなシーズンストラクチャーを構築していくことが、いまの日本のラグビー界に求められていることであるのは間違いない。

 行ってきたばかりなのでフランスの例を続けますが、フランスのトップクラブの場合、トップ14の試合数が年間26(+プレーオフ3節)、欧州リーグの試合数が6(+プレーオフ3節)。

 日本のトップリーグチームの場合は、トップリーグと日本選手権などを合わせて年間の試合数は15。これにサンウルブズの試合を加えても、フランスのトップクラブの試合数にはまだ開きがある。

 その一方で、代表強化に直結していく試合数を増やしていく上で考えなくてはいけないのは、選手のウェルフェアという問題。

 すでに、一部の選手たちの間で顕在化している試合過多によるコンディショニング悪化は、当然ながら代表強化という観点からも絶対に避けなければならない。

 トップリーグでフルシーズン、プレーした後で、スーパーラグビーでさらに強度の高い試合を続ければ、日本代表のテストマッチをいいコンディションで迎えるのは不可能でしょう。

 当然ながら、出場する試合数を制限する必要がでてくることになります。
 選手のウェルフェアという側面を考えるなら、現在のようにトップリーグでもプレーする選手を大量にサンウルブズでもプレーできるように契約することも一案かもしれませんが、あくまでもサンウルブズ単体としてリーズナブルなスコッド数で契約することが、選手のウェルフェアを考えながらサンウルブズと日本代表のレベルアップをはかる最良の方法だという意見も正直あります。

 特に、来季はスーパーラグビーのチーム数が18から15に減ることが決まっている。
 チーム数を減らされるオーストラリアなどでは、選手の雇用問題も浮上している。

 SANZARRサイドからは「5年以内に優勝争いのできるチームにすること」という要求もあり、そのためにも現在のような日本代表資格のある選手だけではなく、チーム数が減ずることになるオーストラリアからマーキープレーヤーを雇用する必要があるのではないかというプレッシャーも当然出てくるでしょう。

 その一方で、日本代表クラスの選手たちがトップリーグチームを離れ、ある種サンウルブズと日本代表に専念するような契約を結ぶようになった場合、当然ながらトップリーグのレベルをどう維持していくかという問題もある。

 2019年9月のRWC開幕まで2年と3か月。
 残された少ない時間の中、地元開催RWCをいかに成功させるかに、日本のラグビーに携わる人たち全員の英智を集めなければならないことははっきりしています。

 その一方で、何度も繰り返してきたように、大会自体が成功したとしても、それが2019年以降の日本ラグビーの発展につながらないのでは意味がない。

 いまこそ、日本代表強化に直結するかたちでの日本国内のシーズンストラクチャーを再構築することが求められている――。
 それこそが、8万人の大観衆が熱狂するトップ14の決勝戦の場に身を置いてみて、改めて感じたことでした。


<プロフィール>
上野裕一(うえの ゆういち)

ビジョンは I contribute to the world peace through the development of rugby.
1961年、山梨県出身。県立日川高校、日本体育大学出身。現役時代のポジションはSO。
同大大学院終了。オタゴ大客員研究員。流通経済大教授、同大ラグビー部監督、同CEOなどを歴任後、現在は同大学長補佐。在任中に弘前大学大学院医学研究科にて医学博士取得。
一般社団法人 ジャパンエスアール会長。アジア地域出身者では2人しかいないワールドラグビー「マスタートレーナー」(指導者養成者としての最高資格)も有する。
『ラグビー観戦メソッド 3つの遊びでスッキリわかる』(叢文社)など著書、共著、監修本など多数。